異世界転移 51話目




「か、神か!?」


「りゅ、龍さね!?」


「グルルルル!」


ローデリヒ国王とヘルダは驚きの声を上げる、チェルシーは止めとけ、絶対に勝てないから。




「どもども、ちょっと気になる物が出てきたんでやって来ました、皆さんそんなに緊張しないで下さいね?」


そう言ってパタパタと飛んできたのは、俺をこの世界に連れてきたドライトと名乗る銀色の龍だった。


そしてこの銀龍ドライトは何かの理由があってこの世界に突然現れると、この世界に攻め込んでいた邪神達を滅ぼした張本人でもある。


そんな銀龍を相手に周りは完全に固まっていて、声を出せたのはローデリヒ国王とヘルダだけだった。


さすがにフェリクスとアルヴァーも何か言いたげだったが、2人は国王の前に立ち警戒して無言を貫いている。


「ワンワンワン! ガルルルル!」


そしてチェルシーは本当に止めろ、尻尾を丸めてるのに吠えるな!


「ここは汚ちゃないアンデットがいっぱいだったんで、邪神を捕まえた後はよく調べなかったんですよ?


あ、それですそれ、ちょっと見せてください……フムフムなるほど、この本を書いた悪魔はグシオンさんですか、また大物の悪魔ですね……。


ってか、こんなん書いて人々に与えたなんてバレたらルシファーさん辺りに怒られるどころの話じゃないですよ。

それに怒った神々が魔界に攻め込むんじゃないんですかね? ちょっと呼んでみますか!」


ローデリヒ国王が持っていた召喚の手引き書を、ドライトがいつの間にか手に取るとサッと読む。


そしてドライトが呼ぶと言うと共に部屋の中心に有った大きな魔方陣が光輝く、そして魔方陣の“外”に紫のローブをまとった体格の良い男が現れる。




「銀龍……ドライトか!」




「初めましてグシオンさん! 私のことを知ってるなら話が早いです、この本はどういうことかお聞きしたくてお呼びしたんですよ!」


「……! なぜそれを貴様が持っている!?」


悪魔グシオンはドライトが持っている本を見ると、激昂するがそれを見たドライトが目を細めると引き下がり弱腰になる。


「そ、その本は盗まれたのだ、他の魔法や魔術に関する本と違い、人々に与えるような物ではないからな。」


「でもそこの召喚陣はあなた用のですよね?


この本の知識を教えたんではないなら、あなたはなんで喚ばれたんですか?」


「わしが喚ばれたのは家臣の忠誠心を戻して欲しいとの事だった、貢物もちゃんと用意してあったから叶えたが、その本の事は本当に知らぬ。」


「……なるほど、多分邪神があなたの召喚方法を教えたんですね、そして召喚の時にあなたが書いた本の事に気がついて、本を盗みとったのでしょう。」


「……わしの城はそんなに警備が緩くないのだが。」


「裏切り者がいるんじゃないんですか? 邪神召喚の本以前に、あなたをピンポイントで呼び出す魔方陣を使用するのなんかこの世界の人達には無理でしょうし。」


「……ルシファー様とアガリアレプト様に報告する。

人間達よ、今回はすまなかったな。」


「それではお送りしますよ、おたっしゃで~。」


「お、お待ちください! 1つだけ教えてもらいたい事があるのです!」


銀龍ドライトと悪魔グシオンの話し合いが終わったようで、グシオンは去ろうとしたがローデリヒ国王が呼び止める。




「……本来は何かしらの貢物が必要なのだが、今回はわしに非がある、答えてやろう。」


「あなたに家臣の忠誠心を取り戻させたのは、その時の大公だったのですか?」


「違うな、その息子だ。


わしが喚び出された時点で大公は死んでおったぞ。」


「……や、やはり……ありがとうございました、長年の王国の疑問が解けました。」


「礼は要らぬ、わしの不用意で迷惑をかけたようだしな。

それではわしは裏切り者をあぶりだすために帰るぞ、去らばだ!」


そう言うとグシオンは今度こそドライトに送られて魔界に帰っていくのだった。




「……なぜ忠誠心の厚い当時の大公が王家を裏切ったのか分からずじまいでな、歴代の国王はその事を調べるようにとも言い残してきたのだ。


当時の大公は忠誠心の高い者だった、そしてその息子は素晴らしい才能を持っていたが、傲慢で情け知らずだったそうだ、その息子が父である当主を殺害して王国に、王家に反旗をひるがえそうとしておったのだろう。」


そう言うとローデリヒ国王は悲しそうに目をつぶり頭を振るのだった。


「陛下、それはそれで良いんですが肝心のここのボス、その大公の息子はどうなったんですかね?」


フェリクスがそう言うと、国王だけてなく皆がハッとして周りを見回す。


「これですかね? 干からびてますよ。」


するとドライトがいつの間にか別の隠し部屋を見つけていて、中に有った棺を引っ張り出し、ふたを開けてミイラみたくなっている死体を棒で突っついていた。


なぜかチェルシーも一緒に突っついているが……。


「これがボス? なんか弱そうね。」


「これ、吸血鬼ですか、なんでこんな姿に?」


棺を覗きこんだミラーナとクリスも不思議そうにしていると、ドライトが教えてくれる。




「これ、一応は実体型のノーライフキングだったみたいですよ。 ケンさんが龍魔法を使ったりしたんで、ここに隠れてた生き残りの邪神は私に気づかれたと思ってここから手を引いたみたいですね?


それでその時にこの方の力から何から全部、吸い取っていったようです。」


「あははは! 主人様、カラカラ! カラカラだ!」


なるほど、やっぱり邪神に関わるとろくな事がないな。

あとチェルシー、そんなに突っつくな、可哀想だから。


「し、死んでるんですか?」


「クリス、アンデットに死んでるんですか? は、おかしくない。」


「いえ、色々吸われすぎてますが、まだ息がありますね? ……アンデットなのに息がある!? 言ってて自分でビックリ[サク]あ、お亡くなりになりました!」


死んでるのか生きてるのかよく分からない話になっていたが、チェルシーがツンツン突っついていた棒が勢い余って突き刺さってしまうと、ドライトがお亡くなりになったと言い死体? が灰になりそのまま空中に消えていった。




「……おめでとうございます!

凶悪なアンデット、ノーライフキングは討伐されました!


いやー、めでたいめでたい……めでたい席に私のような龍が長居するのもなんですし、私は帰らせてもらいますね。」


「待て待て待て! ちょっと待て!」


「な、なんですか!? 尻尾を掴まないで下さいよ!」


帰ろうとしたドライトの尻尾を掴んで俺は止める、そして長年貯まった文句を言うのだった。


「お前、俺の希望の生活が出来るって言ったよな!?」


「い、いや、希望通りハーレムを持てたんじゃないですか?」


ドライトはそう言って、ミラーナにクリス、チェルシーとパトリシアにフェリシー、ジャンナを見る。


「後半3人は他人の者だ!


それにハーレムは女性関係の希望……いや違うだろ! 仕事だよ仕事! 俺の就きたい仕事に就けなかったんだけど!?」


「……へ? なんで就けなかっんですか? 大工さんになれば良かったじゃないですか。」


ノホホーンっとそう言うドライトに俺はとうとうブチ切れて怒鳴り付ける。


「身分の確認が! 出来ないから! 大工なんかの正規の仕事に! つ・け・な・か・っ・た・ん・だ!!」


「…………………………。」


俺の言葉にドライトは呆然として周りの皆を1人づつ見ていき、突然に自分の体をまさぐると1枚の書類を取り出して俺に差し出してくる。


「これはあなたを保護した私が、あなたの身分を保証する書類です、どうぞ受け取って下さい!」


「今さらそんなのを出すなーーー!


それにお前まさか、忘れてた訳じゃないよな!?」


「ハッハッハッ、忘れてました!」


「ーーーーー!!」


ドライトの言葉に怒りのあまり声も出せなくなる俺、するとドライトは、ハッとした表情でクリスを見る。


「ク、クリスさん! 青紫のラメ入り透け透けスキャンテイですか!? エッチです、エッチですよ!」


「な、なんだとクリス! そんな下着は俺と2人っきりの時しか着ちゃダメだ!


もし他の誰かに見られた俺は俺でなくなってしまう!」


ドライトを放り投げてクリスに詰め寄る俺、クリスは真っ赤になってアワアワしていると、ミラーナが呆れながら話しかけてきた。


「ねぇ、あなたドライト様に用が有ったんじゃないの?」


「……………………あ。」


俺は慌ててドライトが居た方を見ると、ドライトの姿はなく1枚の紙切れが残されているだけだった。


「今さら身分証明書かよ……。」


そう言いながら拾った紙に書かれていたのは、親指を立てたグッジョブ、いいね! のマークだけだった。




「あの野郎、なに考えてるんだあぁぁぁ!」




大公家の隠し部屋に、俺の絶叫がむなしく響くのだった。



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