異世界転移 38話目




「おい、今の茶番はなんだ?」


「茶番って?」


「商館に入る時の事だよ。」


「ああ……俺だけならともかく、民衆を助けてきた勇者で民衆のヒーロー、フェリクスが可哀想な奴隷を買うなんて外聞的にもまずいだろ?


しかも領地貴族になった途端にだ、だがさっきので民衆は思い出すのさ、俺達が拝領したのは打ち捨てられた廃墟だったな……ってな。」


「なるほどな……。」




そう言ってから他に着いてきた面々、ミラーナにクリス一家と護衛のアランに、フェリクスの正妻とパーティーメンバーを見ながら言う。


「お前らも中に入ってからの言動は気をつけろよ?


特にアラン、貴族根性を出しすぎると嫌われるからな。

ある程度復興が進めば王都や他の大都市から移民も募るんだ、変な噂が広まっちまうと移民なんか来なくなるからな。」


そう言うとアランは不満顔で言ってくる。


「男爵、移民なら強制的に移住させればいいのではないですか?」


「アホ、それでみんな逃げられたらどうするんだ。

それに別の領地なんかに逃げるだけなら良いが、下手すりゃ盗賊やらになられるんだぞ。」


「そ、それは……。」


「アラン、お前は民をなめすぎだ。


飯を作ってるのもお前の身に付けている鎧や剣を作っているのも民だぞ?

それに武力でなんとか出来るなんて思っていたら、大間違いだからな。」


そう言われたアランはさすがに怒る。


「ちょっと待ってください、いくらなんでも一般人に私達が負けるなんて聞き捨てなりません!」


「ならアラン、お前はアルヴァーに勝てるのか? あいつは由緒正しい農民の家系だぞ。」


アランはそう言われて、悔しそうに黙るしかなかった。




「それでこれが職人達、全員か?」


「10人も居ないぞ。 ケン、他の商館にも行った方がいいんじゃないのか?」


コークに案内されたのは倉庫のような建物に囲まれた、中庭のような場所だった。


そこには7、8人の奴隷と、警備らしき武装した者が10人以上居た。


少なくとも100人づつは確保したかった俺達はがっかりしながらそう言うと、コークが慌てて声をかけてくる。


「お、お待ちください! 1人1人の面談は大変だと思い、それぞれの親方やまとめ役の者をのみ出したのです、もし1人づつ面談をしたいのなら順番に連れてきますが……かなりの時間がかかってしまいますぞ。」


「……時間がかかるって、全員で何人ぐらい居るんだ?」


「400から500人ですな。」


「「なんでそんなに!?」」


思わず俺とフェリクスがそう叫ぶと、コークが理由を説明してくれた。




当たり前だが今回の奴隷商コークの所に来て、奴隷を大量に買うと先触れを何日か前に出しておいた。


そしてコークはフェリクスと俺が領地の復興のために職人や農業知識の有るものを探していると知り、奴隷商仲間などに連絡をして職人などを集めたのだそうだ。


その結果、張り切った商人達が集めに集め、この人数になったそうだ。


ちなみに職人同士の繋がりなども有るので、結構すんなりと親方やまとめ役は決まったらしい。




「こりゃ参ったぞ?」


「どうかしたのか。」


「人数が多すぎる。」


「別にいいじゃないか、多ければ多いほど復興も早まるし。」


そんなことを能天気に言うフェリクスに、俺は呆れながら説明してやる。


「お前な、職人だけを買えばいいと思ってるのか? 家族も入れてみろ。 何人になると思ってるんだ。

それにそこのお前、お前ドワーフ族だろ?」


奴隷同士で固まっているなかで1人ポツンと立っている小柄で年老いた男に声をかける。


「……そうじゃ、わしの氏族ごと買ってくれる者が居ると聞いてやって来た。」


「ちなみに職人以外も入れると何人ぐらい居る?」


「……500人は居るな。」


「内訳は? 戦闘が得意な者や鍛冶に工作なんかだ。」


「大雑把に言って戦闘は大人の者ならそれなりに皆が出来る、お主等が欲しい大工や鍛冶が得意な者はそれぞれ100人ほどづつじゃ、小物作り等が上手いのはもっと居るぞ。」


俺はそれを聞き、ほほが引きつっているのを感じながらコークに問う。


「おい、このドワーフを氏族ごと買い取ったら幾らだ?」


「……白金貨で1000枚です、おおまけにまけて。」


その金額にフェリクスだけでなく、その場に居る全員が目を見開き驚く。




「フェリクス、お前は買えるか?

俺でもきついぞ。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、さすがにその金額は出せないぞ!」


「あなた、テクタイト様からいただいた宝を売れば何とかなるのではないですか?」


フェリクスの言葉を聞いて、老齢のドワーフは落胆する。

それを見てパトリシアが助け船をだすが―――


「テクタイト様の宝を売ると、白金貨で3000枚にはなると言われているが、さすがにその3分の1を彼らだけに使うわけにはいかないよ……資材や食料に、騎士団や軍の給金を考えるとな……王国や王家に支援を頼むとしても、さすがにこの金額はな?」


っと、言われてはパトリシアやフェリクスの仲間も黙るしかなかった。


ますます落胆するドワーフだったが、そこに明るい声でケンに話しかける者が居た。


「ケン、クリスが向こうで話があるそうよ?」


「ん? こっちで職人の見定めを……「ご主人様、バニーガールとか言う衣装について話し合いをしたいのですが。」よし、すぐに話し合いに行こう!」


ケンがクリスと別の場所に移動したのを確認してから、ミラーナはドワーフに話しかける。




「氏族ごと買い上げてもらいたいなら、ケンが買ってくれるわよ。」


「「「ミラーナ(様)!?」」」


周りが驚きの声をあげるなか、諦めきった声で返事をしたのはドワーフだった。


「……娘さん、無理はせんでいい、わしも大して期待しておらんかったんじゃ。」


「いえ、無理なんかしてないわ?

ケンってば、長年お宝をため込んでたみたいで、かなりの資産が有るのよ。」


そう明るく言うミラーナは続けて言う。


「さっき、ケンも言ってたでしょ? きついけど出せるって、内緒なんだけどケンってば白金貨で10000枚は貯金してるわよ。」


「「「10000枚!?」」」


「なんでも、いくつかのダンジョンを走破したらしいわね。

その時のお宝をコッソリと現金化して、貯めてあるんだって。」


ミラーナがケンの資産を暴露していると、ケンが慌てて戻ってくる。


「なんか嫌な予感がしたんだが、変なことしてないよな?」


「してないしてない、ほら、クリスが呼んでるわよ。」


「ご主人様、レオタードとか言うのは……。」


「よし、説明するから何とかして作ってくれ!」


「って事でフェリクス様、このドワーフ達はこちらの家で引き取っていいですか?」


「あ、ああ……俺にはその金額はきつすぎるからな……しかしケンは会うたびに金が無い金が無いって言って、俺達にたかってたんだが。」


「なんでも老後の資金として、貯めてたらしいですよ?」


「「「どんな老後をすごそうとしてたんだよ!?」」」


こうしてケンの知らないところで、老後の資金は使われてしまったのだった!




「他にセーラー服にスク水、ブルマと言うのも有ってな?」


「が、頑張って作って着ます!」




だが、ケンは幸せだった。



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