異世界転移 39話目
「ろ、老後の資金が―――!」
クリスと色々と重要な案件の話を終えて、ミラーナ達が待つ場所に戻ると俺の貯金が使われていた、その額にして白金貨5000枚。
ケンの老後資金の半分が使われてしまっていたのだ!
「お、俺の老後があぁぁぁ……。」
「ケン、本気で泣かないでよ!
フェルデンロットや交易路をなおして維持するのに、必要だったんだってば! 謝るから!」
泣くケンの頭を抱えて謝るミラーナ、そんな中で不思議そうにクリスが言う。
「ご主人様、他にへそくりと緊急用の貯金が有るって言ってませんでしたか?」
頭を掴まれて逃げ切れませんでした。
「お前、本当にいくら稼いでたんだよ。」
「ぶっちゃけドワーフの氏族ごと買っても全然問題ない位は貯めてる。
だが、老後はクリスとミラーナと遊んでくらすつもりだ。」
「こ、こいつ本当にどんだけ持ってるんだ!?」
ケンが凄まじい額を貯め込んでると知って、フェリクスは戦慄しているが、肝心のケンとミラーナは無視をして買い物内容を話始める。
「ケン、とりあえずこれだけ買ったけど、問題ない?」
「………………食料は良いとして、建築資材はこんなに要らないよ、それに結構遠方の物もあるから、騙されないようにな。
そこのドワーフの族長や、買うことにした別のグループの親方と相談して決めてくれ。」
「分かったわ、残りどれだけ使っていいの?」
「全部使って良いって言いたいが、他に買うものが有るからな。
少なくとも3000枚は残しておいてくれ。」
「他に買うもの? 何かあったかしら。」
「王都の屋敷だよ、今のは借りてるものだろ。」
「……ああ! 忘れてたわ。」
後をミラーナに任せて、他になにか面白いものがないか商館をうろつくことにする。
クリスも着いてこようとしたが、ミラーナに庶民の視線からも見てもらいたいからと言われて、残ることにしたようだ。
「こっちに居るのは戦闘奴隷か?」
案内を引き連れて屋敷と倉庫のような建物を行ったり来たりしてると、戦闘訓練が出来る広場と綺麗な屋敷が有った。
「はい、戦闘奴隷はまだまだ需要がありますので、なまらないように戦闘訓練が積めるようにと、体を癒せるように厚待遇にしています。」
「なるほどなぁ……あれじゃあ高くなるわな。」
そう言って訓練をしている者達を横目に、さらに奥に行こうとすると案内に止められる。
「男爵様、これより先はあまりお勧め出来ませんが……。」
「ん? こっちはなんか問題があるのか。」
「ここから先は犯罪奴隷どもでして……。」
「ああ……まぁ、後学のために見るだけ見ておくよ、うちの嫁達が居る時にはこれないだろうしな。」
俺がそう言うと、案内人はかしこまりましたとうなづき、近くに居た屈強な男達に目配せをする。
すると男達は俺を囲むように位置取りをして、一緒に歩き始める。
「おお、ぶっちゃけ暑苦しい! もっと離れろ!」
俺がそう言うと、案内人と護衛達は困った顔で言ってくる。
「申し訳ありません、犯罪奴隷どもも使い潰されるのが分かっているので、何をしてくるのか……。」
「男爵様が戦えることは分かっていますが、万が一にでも怪我したなどと有れば……。」
護衛の1人もそう言ってくるので、俺は仕方なく着いてくるのに同意すると犯罪奴隷達が居るエリアに足を踏み入れる。
そこは広場と少し大きめの倉庫が1棟だけあり、広場には鉄格子のついた箱がいくつも置かれていた。
「そーいや野盗や山賊をぶっ殺して、生き残りを衛兵に渡したことは結構あるが、その後は見たことなかったな。」
「男爵様、よければ私が説明をいたしましょうか?」
そう言って声をかけてきたのは、先ほども声をかけてきた護衛の1人だった。
「おう、頼むわ。」
俺がそう言うと、護衛が大体説明してくれる。
まず俺が言った野盗や山賊は大抵はその場で殺すそうだ、若いのや下っぱなんかは犯罪奴隷とするらしい。
これは捕まれば犯罪奴隷として使い潰されるのが分かっているので、野盗も山賊も何とか逃げようとするか自殺を選ぶのから面倒を避けての事だ。
若いのや下っぱは衛兵や奴隷商が犯罪奴隷から市民に戻れると舌先三寸で騙して、犯罪奴隷にするらしい。
それと隷属させる魔導具も有るが犯罪奴隷はいくらでも居るし、使いどころも限られるのでそんな高価な物はそうそう付けないそうだ。
簡単な奴隷紋で縛るだけなので逃げられる可能性もあり、手足を鎖や枷で固定して広場に有った鉄格子つきの箱に入れて奴隷商に運ばれるのとのことだった。
「へーなるほどなぁ……あれ? クリス達を買ったときにも箱に入れられていたんだが。」
「あー、たまに家族ごと売ってやりたい、酷い扱いをする所に売りたくない奴隷を箱に入れて悲壮感を出して売りつける事が有りますね?」
「そ、そんなことまでしてるのかよ……ってことは有れもそうなのか?」
そう言って俺が指差した箱の中には、子供が1人だけ入れられていた。
「あ、あれは……。」
「ん? どうした?」
案内人が言いよどむが、どんなガキか見てやろうと俺は箱に近づく。
「だ、男爵!」
慌てた護衛が俺を止めようしたが俺は箱の目の前まで行き、しゃがみこんで箱の中を覗きこんだ。
その瞬間!
「ガアァウ! ……ギャイン!?」
「うお!?」
「ヒイィィ!?」
箱の中に居たガキは鉄格子の間から手を出して俺を掴もうとしたが、鉄格子を蹴って狭い箱の奥に悲鳴をあげて逃げる。
護衛の男達は慌てて武器を構えると身構えて俺から離れて。
俺がガキの居る箱に近づくのをニヤニヤ眺めていた犯罪奴隷達は、悲鳴をあげてなんとか俺から離れようとした。
「い、いったい何が!?」
そして唯一案内人の男だけが、訳が分からずに俺のかたわらに立っていた。
「ガキ、こっちに来てツラを見せろ。 言葉は分かるんだろ?」
俺はそんな周りを無視して箱の中のガキに話しかける。
だが、箱の中のガキは怯えるだけで近くに来ようとはしなかった。
「だ、男爵様! お願いですから殺気を納めて威圧も止めてください!」
少しイラついてきた俺をなだめてきたのは護衛の男だった、その護衛に案内人が何が有ったのか聞くと護衛が答える。
「男爵様はその子が襲ってきたので、殺気を放って威圧しただけなんですよ……その子や我々に犯罪奴隷どもは、その手の気配を感じられるので男爵様の殺気と威圧に怯えるか身構えてしまったのです。」
「お、お前達や犯罪奴隷までもか!?」
「はい、さすがは英雄と言われる方です、我々でも身構えるのがやっとでした。」
「こ、この人数を威圧と殺気だけで……。」
案内人の男はそう言って辺りを見回す。
護衛役の男達は構えを解かずに真っ青になっており、犯罪奴隷達も真っ青になっているし泡を吹いて気絶してしまったものまで居た。
「おい、こいつ顔を見せねえぞ。」
「だ、男爵様、完全におびえきってますから無理かと。」
「なんだよ、ツラを見て[チョロチョロチョロチョロ……]……漏らしてねえか?」
ケンの殺気に怯えて逃げた子供は、奥でガタガタと震えながらションベンを漏らしてしまっていた。
「汚えなぁ……おい、こっちに来い、水で流してやる。……おい?」
「キャイン!」
呼んだが来ないガキにイラついたケンの言葉が荒くなると、奥に居た子供は慌てて鉄格子の近くまで来る。
「出してやれ、逃げたら俺が捕まえるから大丈夫だからよ。」
戸惑った案内人だが、身分が上のケンにそう言われて仕方なく鉄格子を空ける。
すると中に居た子供が外に出てくるが、その姿はドロドロで服は着ているようだがその服もツギハギ等で原型をとどめていなかった。
そんな子供にケンは魔法で温水を出して頭からかけてやる、回りから無詠唱で温水が!? 等と驚きの声が上がるが、ケンはそれを無視してジャンジャン温水を出してかけてやりながら子供に近づく。
「クゥーン……。」
「殺しゃしねえから怯えるなって、ほれ気持ちが良いだろ?」
怯えて動かない子供の頭を、腰の魔法袋から石鹸を取り出して洗い始めるケン。
子供は気持ちが良いのか怖いのか、身動きせずにおとなしくしている。
「……ん? こいつ狼人族、いや犬人族か。」
「分かりますか? この子は犬人族の集落に住んでいたようなのですが、1人で居た時に違法な奴隷狩りにあって拐われて来たようなのです。
違法な奴隷狩りが討伐されたさいに保護されたのですが、見ての通り人が近づくと興奮して手がつけられなく、話も出来ないとここに連れてこられまして……。」
「ふぅーん、ガキ、災難だったな。
俺の言葉は分かるだろ、どこの集落か教えてくれりゃあ送ってやる……ぞ?」
顔の泥等が落ち、張りついて気持ち悪いのか濡れた服を脱ぎ捨てる子供を見て驚くケン。
そしてそれは周りの者達も同じだった。
「女の子だったのか……。」
そう、服を脱ぎ捨て泥を落とした子供の股間には、あるべき物が無かったのだ。
だが、ケンが驚いたのはそんなことのためではなかった……なぜかと言うと。
「雪風だ! 泥を落としたら雪風が出た!」
その犬人族の子供は艦◯れの雪風ソックリだったのだ!
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