異世界転移 37話目




「ねぇ、ここって確かに商業地区だけど、この辺りで売ってるのって……。」




王宮を出た俺達は、連れだって商業地区に来ていた。


そして商業地区のある辺りに来たところで、フェリクスの正妻のパトリシアがいぶかしげに聞いてくる。


今回俺達は買い物をするのに、フェリクスのパーティーメンバーに、クリス一家とアルヴァー達も連れてきていた。


そして俺とミラーナとクリスに、フェリクスとパトリシアは家の馬車に乗っていた。


「ああ、パトリシアは王都育ちだからさすがに知っていたか……。

そうだ、今回行くのは奴隷商だよ。」


俺がそう言うと、とたんにミラーナとフェリクスが嫌な顔をして、クリスが真っ青になる。


「言っとくけどクリス達を売る訳じゃないからな?

あと、ミラーナとパトリシアはともかくフェリクスには絶対着いてきてもらうぞ、後で文句を言われても困るからな?」


「何よ、私とパトリシア姉さんはどうでも良いって言うの。」


「どうでも良いって言うか、奴隷を買わない選択肢は無いんでな。

奴隷の売買が嫌なら着いてこなくても良いってことだ。」


俺がそう言うとミラーナにクリス、パトリシアは着いていくと言い、そしてなんで奴隷を買いに行くのか説明して欲しいと言われる。




「王宮でも話したが、故郷の領地に行くんだろ?


俺もフェルデンロットに行くが、フェリクスは領民はどうするつもりだ?」


「領民? そりゃ昔の領民に声をかけて集めるつもりだが。」


俺はフェリクスの答えにため息をつきながら言う。


「そりゃ風の勇者フェリクスが声をかければかなり集まるだろうが……経験豊富な職人や農民をどうやって集めるんだ。」


「いや、だから声をかけてだな。」


「おう、それで故郷を焼かれて逃げ出してきて、やっと王都なり今のお前の領地なりで根を張って生活できるようになった職人達に、住む場所も有るかどうか分からない新しい領地に着いてきてくれと言うのか?」


「そ……あ!?」


「まぁ、たとえ勇者のお前が領民を集っても、来るのは流民や難民にスラムの住人が主になるだろうな。


私設騎士団や私軍なんかは、貴族の嫡男以外に声をかければなんとかなるだろうが、経験の有る職人や農民なんかをお前はどうやって集める気なんだ?」


「いや、だから昔の領民に……。」


俺の言葉にシドロモドロになって答えるフェリクス、それを遮ったのはパトリシアだった。


「あなた、私達の負けよ。

ハァ……盲点だったわ、フェルデンロットもシュタインベルグも廃墟になってるのだものね。


領民どころか住む場所とかを考えないといけないんだったわ。」


そう言って顔を曇らすパトリシアと呆然としてしまうフェリクス。


ちなみにフェルデンロットは俺の領地になる予定の廃墟で、シュタインベルグはフェリクスの領地になる予定の廃墟だ。


ちなみにフェルデンロットは開墾された畑と言う意味で、シュタインベルグは石の山々と言う意味が有るそうだ。


何にしろ住む場所も有るか分からない場所に、やっと生活が安定してきた者達に来てくれと言うのは酷だし、家族が居ればほとんどは着いてきてはくれないだろう。




そして軍隊だけ連れて行っても当たり前だが町は再建できない、いや、かなり長い時間をかければ再建出来るかもしれないが、その間ずっと王家や王国が支援してくれるとは限らない。


フェリクスの代なら稼ぐ方法は有る、ぶっちゃけ冒険者になれば維持費や復興費を捻出できるだろう。


だが、もしフェリクスが早く死んだら?


大怪我をして冒険者を続けるのが難しい、捻出できるほど稼げなくなったら?


最悪せっかくある程度は復興したのがまた廃墟に逆戻りだ。

だからこそ一気にある程度は復興させ、税収を安定させる必要がある。


それこそ転生転移物で多いチートを使って一気に復興させるか、それこそ王都や帝都等よりも大きな都市にでもしたらどうか?


それも良いだろうと思うが、それはこの世界に来た時にドライトにやめておいた方がいいと言われている。


何故かと言うと絶対に揉める、特に子孫の代になってから揉めるからとドライトに言われたのだ。


ドライトには自分が死んだり別の世界に行った後、子供や孫に子孫達がどうなってもいいと言うなら構わないが、あまり派手な事をすれば自分の代は良くても子孫の代に問題が噴出するからやめといた方がいいと言われていた。




なんにしろ俺はこの世界で生きていく、そして今俺のとなりにはミラーナとクリスという2人の女性が居るのだ。


そして遠くない未来に、2人は俺の子を産んでくれるだろう。


そしてその子供の世代、孫の世代になった時に潰されないよう出来るだけ手を打っておこうと俺は考えたのだ。


「って事でな。 フェリクスと相談しながら奴隷を買う、メインは職人達だ。」


「おう、現在進行形でお前を潰してやりたい俺はどうすればいい?」


「うるせえぞアホ、それよりも今言った通りだ。


奴隷商で人柄を見極めて、職人と農業が出来る奴をそれぞれ50人づつは押さえたい、金はあるんだろうな。」


「……お前よう、勇者とはいえ、いきなりそんな大金を持ってるわけないだろ?」


俺の提案にフェリクスはそう言ってくるが、俺の発した言葉に目を見開き驚くのだった。


「テクタイトから奪った、違った、もらったお宝が有るだろうが、それを使えばいいんだよ!」


そんなことを話していると、馬車が奴隷商の前で止まる。


「シュタインベルグ子爵様、フェルデンロット男爵様のご到着!」


護衛の騎士が声も高々に名乗りあげる、そしてフェリクスが最初に降りるて次に俺が降りる。


通りには王都の市民が居たが、俺達が奴隷商に来たのを信じられない目で見ていた、勇者と英雄が可哀想な奴隷を買いに来たのが信じられないようだが、ここで揉めても仕方ないので俺は声を張り上げて言う。


「今回は俺達の新たな領地に必要な職人と農民を買いに来た、商人コークよ頼んだぞ。」


「ハハァ! 今回はこのコーク商会を選んでいただいてありがたく思います!

子爵様と男爵様の領地の復興のための人選等、お任せ下さい!」


俺の意図を察したコークが、必要以上にへりくだってそう叫ぶ。

それに満足そうにうなずくと、フェリクスを促して商館に入るのだった。




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