異世界転移 25話目



俺達がランジェリーショップ兼冒険者ギルド直営店で、誰のとは言わないが5色を3セット購入してから旅立ち、1週間が経っていた。


旅は思った以上に順調に進み、王都まで半分の距離まで来ていた。




「今日はこの辺りで夜営をするか、おいアルヴァー! 円陣で夜営だ!」


「おう! お前ら何時も通りだ、騎士達と交互に夜営用のテントを張れ!」


俺とアルヴァーの命令を聞いた騎士達と冒険者達が、テントを張って夜営の準備をし始める。


ちなみに何故騎士達と混ざってテントを張るのかと言うと、索敵能力の高い冒険者と戦闘能力の高い騎士達とで交互にテントを張ることにより、奇襲を受けても直ぐに冒険者が敵の位置などを察知して騎士達に伝え、騎士達は冒険者達の指示に従って的確に敵に当たることが出来るからだった。


「ケン殿、いいですか?」


「ん? どうした?」


話しかけてきたのはアランだった、周りには別の士官クラスの若手の騎士達もいる。


横を見ると常にロットリッヒ辺境伯の側に居る老齢の騎士が、すまなそうにこちらを見ていた。


「ここで何故に夜営をするのですか。

無理をすれば暗くなる前に次の都市に着くのではありませんか?」


アランはそう言ってミラーナや辺境伯のために先を急ぐべきだと言う。


だが俺は首をふりながら反論をする。


「いや、ここで夜営だ、理由はあいつ等が居るって事もあるが、一番の理由は危険だからってことだな。」


俺がそう言って指差した先には大商人のキャラバンや行商人の個人個人の馬車に、普通のやボロボロの馬車に乗った農民や市民達がいた。


何故、辺境伯の隊列に彼等が着いてきているのかと言うと、こちらは冒険者や騎士に従士に兵士達を合わせると1500を越える軍勢だ、そんな隊列を襲うとなると相手も軍が必要なレベルなので魔物や賊の襲撃もまずない。


なのでただで安全に移動できるとなり、近くを着いてきているのだ。


もちろんこれが普通の軍の行軍なら足の遅い民などに構わずに前進し、置いていってしまうのだが俺達の隊列は辺境伯が王都に行くためのものだ。


なのでそんなに急ぐ必要がないので農民や市民の速度に合わせて行軍しているのだ。


そして民は暗い中の移動になれていない、というよりもそんな経験が無い者ばかりだ。


そんな連中が夜中に奇襲を受けたらどうなるか、そしてそれに俺達が巻き込まれたら?


それこそ最悪の結果になるかもしれない、なので無理な行軍をせずにここで夜営をするのだ。




俺がそう分かりやすく説明してやる、そしてそっと辺境伯の様子をうかがってから指で騎士達とアルヴァーとギルマスに俺の近くに来るように示す。


「ってのが表向きの理由だ、本当の理由は……俺達が次の都市に泊まりたくねぇ。


辺境伯様も泊まらせたくねぇってのが大きい理由だ。」


「ケン殿、何を言って……あ!」


俺の言葉にアランは何を言ってるんだ? っといった顔になるが、次の都市の名前を思い出したのか小さく叫び納得した顔になる。




次に寄る都市の名はアイヒベルク、俺達のすむ王国、レーベン王国の建国から仕える侯爵、アイヒベルク侯爵家が治める都市だった。


そしてこのアイヒベルク侯爵には幾つかのあだ名が有る。


有名なのが王家の守護者、貴族の中の貴族、そして1番有名なのが……冒険者嫌いのアイヒベルク。


アイヒベルク侯爵の冒険者嫌いは、国内外に響くほど有名なのだった。


「失念してました、王都に向かえばアイヒベルクを通らなければならなかったのですね……。」


「ああ、あの侯爵の冒険者嫌いは有名だからな……辺境伯様との仲はそんなに悪くないそうだがなぁ……。」


ロットリッヒ辺境伯は治める領地、ロットリッヒ地方の広大な領域と共に危険な魔獣や魔物が潜む、大森林があった。


そのために農村や小さな町を守るには自前の騎士団や軍では到底足りずに、冒険者頼みの部分が多かったのである。


ちなみに辺境伯領には王国から2個軍、約3万が配備されていたがこれは帝国との国境警備等のためなのでそうそう動かせるものではない、なんにしろそのためにロットリッヒ辺境伯と冒険者達やギルドのなかは良好だった。


だが王国と王家を守るのは貴族でなくてはならない。っとの考え持つアイヒベルク侯爵家は、邪神戦争で授爵した新興の貴族、特に冒険者あがりの者を毛嫌いしていたのだ。




「あの方も悪い方ではないのですが……。」


「そりゃ貴族にはだろ? 普通の市民や農民なんかは、結構侯爵の事は毛嫌いしてるぞ。」


「そ、そうなのですか!?」


アランは予想してなかったのか、アルヴァーの言葉に驚いている。


「お前ら騎士や貴族は忘れてるやつが多いけどよ、俺達は元々農民や市民だぜ。


食うに困ってや、夢をみてなんか理由は色々だけどよ、俺達は普通の農民や市民の子供なんだわ。


そしてその両親が子供が頑張ってるのに嫌われてると知ったらどう思うと思う? ま、そう言うこったな……。」


アルヴァーの説明に絶句してしまったアラン、貴族なんかに多いが、上のもんってのは下のもんを見ないことが有る。


アイヒベルク侯爵家の事はその典型的な1例だな。


俺はそんな風に考えながらアルヴァーやアラン達に言う。


「ま、明日はアイヒベルクは素通りだ、揉め事も起きんだろ。」


俺の言葉にアルヴァー達はうなづき、アラン達は首をかしげるのだった。




「はい、素通りは無理でした!」




「ど、どうしたのですか、ケン殿?」


「クッソー、まさか辺境伯様が挨拶をすると言い出すとは思わなかった!」


「ああ……私も変だな? っとは思ったのですよ。


アイヒベルクに寄らないとケン殿が言うので、辺境伯様にそう言われたのかケン殿が提案したものだと思ったのですが、礼儀にうるさい辺境伯様がそんなことをいうのかと……。」


貴族が別の貴族の領地を通る時に、挨拶をしないのは無礼な行為なのだそうだ。


相手が格下なら使者を送るなりですむのだが、同格や格上の相手だとケンカを売ってるようなものなので、挨拶をしないのはまずいそうだ。


そして昨日の夜に騎士達が首をかしげていたのは、その事を知っていたからなのだろう。




なんにしろ俺達はアイヒベルクに寄る事が決まってしまったのだった。



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