異世界転移 26話目




俺達は早朝に夜営したキャンプを引き払い出発すると、昼前にはアイヒベルクに到着していた。


先ぶれを送っていたのだが、城門で辺境伯達と共に待たされていた。


「おい、まだダメなのか?」


「……侯爵様の許可が出るまで待て。」


「貴様!」


「アランやめぬか!」


「し、しかし!」


「もうすぐ入れるだろう、待つのだ。」


アランの問いに門番は突っぱねる様に答える、それを見たアランが激昂して門番に詰め寄ろうとして辺境伯に止められる。


正直、門番の態度はまずいと思うのだが、ここで争えば辺境伯家と侯爵家の戦争になるわけで、辺境伯は騎士達をなだめていた。




「はぁ……早くしてくれんかねぇ……。」


「なんだってこんなに待たされるんだよ……。」


そして冒険者達はダレていた。


門の外で待たされているために、そこらの地面に座ったり馬車の上で横になっている者までいる。


まぁ、アルヴァーがしきっているのでダレているように見えるがしっかりと周囲の警戒はしている。


そんな感じで待っていると、やっと門が開いた。


だが門の中には完全武装の騎士100名と兵士が4~500名が立っていた!




「な、なんだ!?」


「お、おい、どうしたんだ!」


いきなり兵士達が現れたので混乱し始める冒険者と辺境伯の兵士達、アルヴァーもアランも驚き固まっていたので仕方なく俺が前に出て叫ぶように命令を出す。


「方陣を組め! 辺境伯様とミラーナ様達は中心に、騎士団は前、冒険者と兵士は後方に下がり支援体制だ!」


俺の命令を聞いてハッとした皆は慌てて陣形を組む。


意表をつかれたとはいえ王国軍と辺境伯軍の精鋭に、ベテランの冒険者達なので素早く方陣を組むとアイヒベルク侯爵の軍と対峙する。




「ロットリッヒは居るか!」




すると門内の侯爵軍の中から、豪華な鎧を着た騎士が1人出てくる。


そして辺境伯を呼び捨てたので辺境伯軍からは怒りの殺気が放たれる。


「……俺が対応するのかよ? っち、仕方ねえな!」


何故かアルヴァーとアランに俺は押され、皆の前に出される。


辺境伯の方を見ると辺境伯も頼む。 って顔で見てくるので仕方なく俺が対応することになってしまった。


「ロットリッヒの冒険者、ケンってもんだ!


それでお前は誰だ、辺境伯様に何の用だ!?」


俺が名のると騎士は俺を見定める様な目で俺を見てから、再度怒鳴り声をあげる。


「ロットリッヒを呼んでいる! 冒険者ごときが俺の視線に入るな!」


この言葉に冒険者達の殺気も膨れ上がり、事態はまさに一触即発になってしまう。


「……武装している軍勢の前に辺境伯様を出せるわけがないだろうが! 貴様の名と用向きを答えなければ、戦闘行為とみなすぞ!」


俺の言葉に騎士は顔を真っ赤にすると、怒鳴りながら反論してくるのだった。


「貴様等こそなんだ! 1500もの兵を連れて来るとは、アイヒベルクを攻めるつもりではないのか!」


その言葉に俺達は目を点にしてしまう、それと同時に慌てた男の声が響くのだった。




「イゴル男爵、何をしているのだ!」




「大変申し訳ありませんでした。

イゴル男爵も悪い男では無いのですが、直情的なところがありまして……。」


「いや、最悪の事にならなくて良かった。」


俺達はアイヒベルク侯爵が用意した馬車に乗り、侯爵邸に向かっていた。


そして今、辺境伯に謝ったのはキーシン子爵といい、アイヒベルク侯爵の腹心の部下で、侯爵家の内政や外交を支える重臣だった。


結局先程の騒ぎはなんだったのかと言うと、先ぶれ通りにロットリッヒ辺境伯が来たけど、なんか兵力が多くね? っと思った門番が侯爵に伝令を出したのだ。


そしてロットリッヒ辺境伯を出迎えるために侯爵家に居た、アイヒベルク侯爵軍を指揮するイゴル男爵がその話を聞いた。


そしてイゴル男爵は、そんなに兵を連れてくるのはおかしい。もしやアイヒベルクを攻めるつもりではないか!? っと考えて、慌てて兵を整えて門に繰り出してきたのだ。


そしてアイヒベルク侯爵は、なかなかロットリッヒ辺境伯が来ないな、おかしくね? っとキーシン子爵に様子を見てくるように言って、様子を見に来た子爵が見たのが先程の光景だったのだ。


要するにイゴル男爵が勘違いして先走ってしまったのが、騒ぎの原因だった。




「子爵、勘違いが有ったとは言え、イゴル男爵はお祖父様を呼び捨てにしました。


しかもあの人数の前でですわ? さらにまずいのは王国軍が居たと言う事です、王国軍としても国王陛下に報告しなければでしょう、そうなると王国からイゴル男爵とアイヒベルク侯爵に何らかの罰が下ってしまいます。」


「それは……」


ロットリッヒ辺境伯の隣に座るミラーナが、困ったように子爵に言う。


キーシン子爵も流石になんと言えば分からないようで、困ったように隣に視線を向ける。

そこには真っ青になったイゴル男爵が座っていた。


今回ロットリッヒ辺境伯は1500の兵を率いていた。


その数だけを見れば王都への移動だけでなんでこんなに大人数で? っとなるのだが、内訳を見れば納得する。


細かくははしょるが王国軍が1200名、ロットリッヒ辺境伯軍が200名、冒険者が100名。


つまり大多数が王国軍だったのだ。


この王国軍は今回の帝国への輸送作戦に参加した軍で、作戦が無事に終わり王都に戻る予定だったのだが、辺境伯が王都に向かうと聞き一部が護衛兼報告係として着いてきてた部隊だった。


だから人数が多かったのだが、イゴル男爵はそれをすべてが辺境伯の軍だと思ったようだ。


もちろん辺境伯はちゃんと先ぶれで王国軍の護衛が着いていると言ってあったのだが、イゴル男爵にちゃんと伝わっていなかったようだ。




「しかし、これからの関係を考えたら穏便にすませたいですね……。」


ミラーナはそう言うと、困った顔をする。


すると今までうつむいて黙っていたイゴル男爵が、何かを決意した表情で顔をあげる。


「ロットリッヒ辺境伯様、キーシン子爵、すべては私の浅慮が招いたことです、責任をとって首を差し出しますので侯爵閣下には……!」


「イゴル男爵、もはやそう言う段階ではないのだ……。」


「ううむ、何か良い手は無いかのぅ……。」


辺境伯はそう言うと馬車の外で、護衛がつかまって立ち乗りをする部分でボーッとしていた俺を見てくる。


「ちょっとケン、ボーッとしてないで何か考えなさいよ!」


「……いや、なんで俺はここに居るんだ。」


「護衛だからでしょ!」


「アランにでもやらせろよ!?」


俺は貴族でもなんでもないぞ、なのになんでまた侯爵家まで着いていかなきゃならんの?


そう思って辺境伯を見ると、辺境伯は軽く咳払いをしてから言ってくる。


「お主も陛下に謁見するのだ、なので高位貴族と会っとけば良い経験となろう。


それでイゴル男爵に責任を取らせず、侯爵とも遺恨を残さん考えはないのか?」


「な、なんだってまた俺が……とりあえず侯爵様に会った時に、辺境伯様がイゴル男爵を誉めれば良いんじゃないですかね。 少々暴走したが侯爵様を守ろうとしたんですから、忠義の者とか言って誉めれば当事者の辺境伯様がそう言って誉めたってことで、罰が無くなるか軽くなるんじゃないですかね?」


「それじゃ!」


辺境伯が手を叩いて喜び、キーシン子爵はホッとした表情になる。

イゴル男爵はこちらを見て軽く頭を下げてきた。


ミラーナは何故か嬉しそうにニコニコしている、それを見ながら俺はまたぼやくのだった。




「あークリスとイチャイチャしたい!(なんで俺はこんなことしてるんだろ?)」




「「「何を言ってるんじゃ、ですか、のよ!?」」」


心の声と口に出た言葉が逆になってしまったが、本心なので問題ないだろうと辺境伯達は無視することにした。


ただミラーナが一気に不機嫌になったのが気になったが……。



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