異世界転移 24話目
「よーし、荷物のチェックは終わったな?」
「はい。」
「よし、俺は辺境伯様達と話してくる。
マックスは荷物を馬車に積み込んでおいてくれ。」
「かしこまりました。」
俺達は王都に向けて出発するために、冒険者ギルドの前に集合して馬車に荷物を積み込んでいた。
なぜ冒険者ギルドの前なのかと言うと、緊急時に冒険者は冒険者ギルドの前に集まるためのスペースが有り、今回それなりの人数がいる俺達が集まる場所にちょうど良かったからだ。
もちろん辺境伯の邸宅の前や街の広場など他にも場所が有るが、辺境伯の邸宅の前は他の貴族や騎士達に大商人の住宅が有るので、ほとんど荒くれ者の冒険者が武装して集まるのは問題が有るとしてダメだった。
同じ理由で商人のキャラバンが集まる場所、市民の食生活を支える市場なども除外された結果、冒険者ギルドの前に集合することになったのだ。
そして本来は辺境伯が迎えに来るなどあり得ないのだが、冒険者ギルドはその性質上、城門のすぐそばに建てられているので、辺境伯が門の外とか別の場所で合流するのは面倒くさいと言い、ここで合流することになったのだ。
「辺境伯様、冒険者の準備はもう少しで終わります。」
「うむ、それにしても冒険者ならすぐ動けると思ったのじゃが、意外と準備に手間取るの?」
辺境伯は面白そうに冒険者達を見ている、護衛の騎士達は「辺境伯を待たせるとは何事か!」っと怒っていたが、当の辺境伯が「よいから待て。」っと言ってしまったのでにらんではいるが騒いではいない。
「申し訳ありません、しっかりと説明していなかった、冒険者ギルドの責任です。」
「……ケン殿の責任ではないのか?」
ちゃんと謝ったはずの俺に、騎士の1人がにらみつけながら言ってくる。
「何を言われるかな、私はソロの冒険者ですよ?
なのでちゃんと馬車を用意するように通達するのは、冒険者ギルドの仕事です。
ですから私にはなんの落ち度もありませんな、ワハハハ!」
そう言って高笑いしてたらなぜか騎士達から蔑んだ目で見られた。
……クリスからだったらご褒美だけど、お前らからだと俺の殺すリストに載るだけだぞ。
そう思いながらメチャクチャ殺気を込めてにらみ返したら目をそらされた、俺の正当性が認められたようだな。
「あまり部下をいじめんでくれ、それより意外じゃの、野外活動がメインの冒険者が馬車をあまり持ってないとはの。」
そう言ってレンタルされた物や真新しい馬車の列をながめる辺境伯。
他の騎士達も不思議そうな顔をしているので、説明してやることにした。
「辺境伯様、冒険者はランクが上がるほど馬車を持ちません。 その理由はこれですよ。」
そう言って俺はベルトに着けられたポーチを叩いてみせる。
俺の腰のベルトには前と横に6個の小さなポーチが、そして後ろには少し大きめの物が2つ着けられていた。
これはすべて魔法袋で小さな物でも2階建ての建売が1軒、大きな方は体育館が入るほどの物だった。
「魔法袋か……Cランク以上なら確実に持っとるそうじゃの?」
「ええ、依頼は色々な種類が有りますが、大抵の場所は馬車では入れませんからね。
それに鍛えられた冒険者なら、街道を行くより森や山を越えて町から町に走ることの方が早いので、馬車は逆に邪魔になるのですよ。」
「ケン殿、なら商人の護衛や馬車が必要な依頼などはどうするのですか?」
横で興味深そうに聞いていた若い騎士の1人がそう質問してくる。
「護衛の任務はその対象によって受ける冒険者が違うんだ、商人や貴族なんかだと普通の冒険者なんだが、農民や普通の市民なんかの馬車を持ってない人の依頼だと、馬車を持っている、人を運ぶ専門の冒険者が受けるのさ。」
俺の説明に騎士達も辺境伯も納得したようで「なるほど……。」等と言っている。
そんな感じで辺境伯や騎士達と雑談をしていると、ギルマスがやって来る。
「辺境伯様、お待たせして申し訳ありません、あと30分ほどで準備が終わります。」
「おお、そうか。
ならミラーナを呼んでこなければな。
アラン、ケン殿、すまぬが呼んできてくれぬか?」
「かしこまりました。」
「そう言えばお嬢様はどこに行ったのですか?」
辺境伯はそう言うと、さっき俺に質問をしてきた若い騎士と俺に呼んでくるように言ってくる。
それに答えたのは若い騎士だった。
「ミラーナお嬢様は冒険者ギルドの隣に有る、ギルド直営店に行きました。」
「なんだってまたそんな店に……。」
「後学のための見学だそうです。」
俺は若い騎士と2人して、ギルド直営店に向かうのだった。
「こ、ここがギルドの直営店ですか……。」
「あれ? 入るのは初めてか?」
「はい、外からは何度も見てますが、騎士の持ち物は専用の商人から買うか、主家から支給されますので……。」
「なら驚くだろ、ここは何でこんなものまで売ってるんだよ? ってものばかりだからな。」
「はい、武器防具に冒険者に必要な様々な物が有るのは理解できますが、なんでペットまで売ってるんですか?」
「ありゃテイマー用だな、普通の犬猫の子ばかりに見えるが、魔獣の子なんかが売ってるはずだ。」
「そ、そんなものまで売ってるのですね……。」
俺達はミラーナとクリスを探しながら店のなかを歩く、同時にアランに商品の説明なんかもするので、店員にでもなった気分だ。
「しかし、本当に色々なものが売っているのですね……。」
「ああ、それぞれのものは専門店の方が良いものが安く売っているが、冒険者には値引きされるんでこっちの方が少し安いか同じぐらいの値段になるんだ。」
「なるほど……しかしなぜギルドはこんな店を用意してるのですかね。」
「そりゃあれだ、新人や若手の冒険者が騙されないようにってのと、商人と揉めないようにだな。
田舎から出てきた新人や若手なんかは、珍しいものなんかを買い叩かれたりして騙されるんだよ。」
「なるほど……冒険者を守るためなのですね……。」
「それとさっきも言ったが揉めないようにだな。
冒険者ってのは仲間同士の繋がりが強い、騙した新人の冒険者がクランに入っていて潰された商会や商人なんか結構居るからな?」
「な、なるほど……。」
そんな事を話し合いながら探していると、3階の一角にある場所に差し掛かる。
俺はそう言えばこの辺りに来たこと無かったな。 っと思いながら近づくと、ミラーナとクリスの声がした。
なんだ、2人一緒に居たのかと思いながら近づくと、話し声がハッキリと聞こえてきた。
「こ、これでケンを落としたのね!?」
「ミラーナ様、落としと言うか燃え上がってくれたと言うか……。」
「し、しかしすごい品揃えね、王都の専門店並よ。」
「私は他のお店は知らないですが、ロットリッヒの専門店より品数も品質も確かですね。
あ、ミラーナ様、あれですよあれ! 私が次に欲しいのは。」
「く、黒!? しかも透けてるわよ!?」
「紫も良かったんですが、店員さんに逆に狙いすぎは良くないって言われて……
それでどうですか? さっきのにこの黒を組み合わせたら。」
「同じ女の私も興奮しちゃいそうだわ……私も何組か買おうかしら。」
ミラーナとクリスの謎の会話を聞きながら、俺達は衝立で囲まれた場所に向かって歩いていると、ふと、なんで俺はこの場所に来なかったのかと考える。
『あれ? なんで俺はここに寄りつかなかったんだろ?』
そう思いながら衝立で囲まれた中に入る、そしてなぜこの場所に来なかったのかを思い出す。
「「なんでこんな物まで売ってるんだよ!?」」
そう、ここは下着売り場ではなくランジェリーショップだった。
そして黒や赤にピンク等のカラフルな下着に囲まれた俺とアランは、そう叫んだのだった。
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