異世界転移 22話目
「ギルマス、冬の間に偵察を出すんだろ、アルヴァー達は春から先遣隊を出すのか?」
呆然としている辺境伯や騎士達を置いたまま、ケンはギルマスとアルヴァーに話しかける。
「うんにゃ、もう出しとる。
ほれ、探索や偵察の上手いクランの、梟の目の連中じゃ。」
「うちは春からだな、取りあえず俺とミルカにカウノのパーティーだ。 他はその後だな。」
ケン達がどんどん話を進めるが、辺境伯達はなんの話をしているのか分からず、話し合いに割り込む。
「ま、待って! いったい何の話をしとるんじゃ!?」
「なにって、ロットリッヒ北西部、フェルデンロットの辺りに冒険者を送り込む話ですよ。」
ケンの説明に、辺境伯や騎士達にマックスは驚きに目を見開く。
「じゃ、じゃがあの辺りは危険じゃからと冒険者を送り込まないと、お主らが言っとったじゃろ?」
辺境伯が言う通り、ロットリッヒ北西部には冒険者達の立ち入りは禁止されていた。
これは多数の魔物の軍勢が確認されていたからで、通常4人から6人で組まれる冒険者のパーティーでは、危険だと冒険者ギルドにより判断されたからだった。
「あー、魔物の軍勢なら多分、春辺りには気にしなくても良いレベルになると思いますよ。」
「どういう事じゃ?」
辺境伯の質問にケンはギルマスとアルヴァー達を見るが、誰も説明する気がないようだった。
仕方なくケンは自分で説明し始める。
「今回の輸送作戦で魔物の軍も幾つか潰しましたが、それ以上に魔人をぶっ殺しましたよね?」
「う、うむ、勇者達だけでなく、冒険者達も相当数を討伐したはずじゃな。」
「辺境伯様、では魔物の軍勢を率いてたのは誰ですか?」
「それは魔人が……あ!」
俺の言葉に辺境伯や騎士達も気がついたようで、驚きながら俺達やフェリクスを見る。
見られたフェリクスは俺の方を見てうなずくと、辺境伯に説明をし始める。
「基本的に魔物は仲間同士でも殺しあいます、それを防ぎ統率するのが魔人ですが、今回の作戦で魔人のほとんどが討伐されました、しかも上位の魔人は全滅したはずです。」
「そうなると魔物同士の盛大な殺しあいになる、しかも食料不足のはずなんでかなり盛大にです。
下位の魔人じゃ押さえられないでしょうね。」
辺境伯は唖然としてこちらを見ている、すると騎士の1人が質問してきた。
「こ、これも策のうちだったんですか?」
「ま、オマケみたいなものだな。
ここまで上手くいくとは思わなかったが、なぁ?」
「うむ、フェリクスを隠してたのも効果的じゃったな!」
「準魔王級まで討伐できたのがでかいよな。
あいつが引き締めて、魔物同士が殺しあうのを防いでたはずだからな。」
「あいつ等も懲りないよな?
勇者が頭を潰して軍や冒険者が残りを潰す。
昔からの手法なのによく引っ掛かるよ。」
「連携なんかしてないんだろ。
強い奴が弱い奴を支配して使い潰す、だから同じミスを繰り返す。
魔人の最大の弱点だろうな。」
俺達がそう話していると、マックスがかすれた声で聞いてくる。
「そ、それで、フェルデンロットは取り返せるのですか?」
それに対して俺が答える。
「まぁ、直ぐにって訳にはいかないが、3年か5年で取り返せるんじゃないか?
交易路なんかは冒険者が行来するし、軍も警備を出すだろうからかなり安全になると思うぞ。」
「おお……。」
俺の言葉にマックスは男泣きになり、ひざまづくのだった。
マックスはクラーラと共に下がり、俺達は5人で酒を楽しみながら雑談をしていた。
「しかし、3年から5年か……マックス達も可哀想にな……。」
「まぁ、手が無い訳じゃないんだけどな。」
先ほどのマックスを思い出したのか、アルヴァーが可哀想だと言う。
それに対してケンがボソッと小さく言ったが、辺境伯はしっかりと聞いていたようでケンに聞いてくる。
「なんじゃ、策が有るなら最初から言えばよかろうに。
マックス達以外にも帰りたい者もおろう?」
そう言う辺境伯にケンは困った顔をして言う。
「辺境伯様、策って言うか難しいが単純な話なんですよ。」
「難しいが単純な話?」
「ええ、フェルデンロットを取り返した後に怖いのは、魔人に率いられた軍勢です。
他の魔物はともかく、魔人は普通の兵士や冒険者には手強いですからね。」
「それはそうじゃろう。」
「ええ……しかし、フェルデンロットの守備隊長なり領主に勇者様がなれば話は別です。
魔人も自力で討伐できてしまいますからね。」
「なるほど……単純な話じゃの……しかし、それは難しいな……。」
勇者達はそれぞれが紐付きである、帝国なら皇室や貴族が、王国も王族や貴族の縁戚になっていて爵位をもらっている。
そして領地などもそれぞれの国の首都や、重要拠点の近くにもらっていた。
ロットリッヒ辺境伯にも勇者が縁戚や部下にいれば良かったのだが、現辺境伯には勇者との縁がなかった。
そして今ここに居るフェリクスももちろん、現王の親族から妻をもらっていて首都の近くの一等地を領地としている。
まぁ、パトリシアの事なんだが……。
なんにしろそんな勇者フェリクスをフェルデンロットの領主にするのは無理が有る。
そして他の勇者達も王家や他の大貴族の縁戚になっているので、勇者にフェルデンロットを任せるというのは無理があるのだった。
「まぁ早い話が、強くて頭も良くって信頼できる奴だったら誰でも良いんだけどな。」
「そんな奴がそこら辺に転がってるわけないからな、だから、難しい話なんだよ?」
「そらまぁそうだわな!」
「「わはははは!」」
アルヴァーと俺はそう言って笑い合う、だが笑わずに俺を見る2つの目が有ることに俺は気がつかなかった。
なぜならギルマスのバカがまだ隠し持っていたオーガキラーを、とっておきのウィスキーに混ぜようとしていたのを見つけてアルヴァーと止めに入っていたからだ。
「強くて頭も良く、信頼できる者……っか、こんな近くに居ったの。」
「私も賛成です、あそこに居てくれれば色々な意味で頼もしいと思います。」
ロットリッヒ辺境伯と風の勇者フェリクスがそう言って静かになる。
こうして俺の屋敷での祝勝会は、深夜まで続いたのだった。
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