異世界転移 19話目




『うーん、どうすっかなぁ……』




俺は地図をにらみつけるように見ながら考える、周りも気を使ってくれてるのか静かにしている。


そうすると騎士の1人、最初に剣に手をかけたのが耐えきれなくなったのか、怒鳴り声をあげた。


「辺境伯様、姫様! やはり時間の無駄です、帰りましょう!」


「……帝国臣民には食料が必要なのです、しかし帝国軍部も、王国軍部も占領することどころか、侵攻することにすら反対意見が多いのです。


だからこそ私は良い考えがあればそれがどのような案でも、誰の考えでもそれにすがります!」


「お主があせるのも分からんではないが、少しだけ待て。


ケン殿なにか妙案はないのか?」


「辺境伯様、ケンはシュテットホルンの解放戦で門を破る策を考えました、ですから必ずや妙案を考えてくれるはずです!」


「だからギルマス、人の個人情報をな……。」


俺がギルマスに文句を言おうとすると、さっきの騎士がまた声を張り上げる。


「しかし、地図をにらんでもう30分は経ってます!

ケン殿がなにも思いつかないなら時間の無駄です、ならば帝都なり王都に皆で行って再度説得を!」


騎士の叫びに他の騎士が賛同するようにうなづき、ミラーナもうつむいてしまう。


『はぁ……皆で行って……ん? 移動する? 皆で移動!?』


「そうか!」


「うぉ! ケンどうした!?」


俺がいきなり立ち上がって叫んだのでギルマスが驚きのけぞる。


そして辺境伯とミラーナは期待した目で見てくる。


「要するに帝国も王国も食料危機をなんとかすりゃ良いんだ、シュテットホルンの北部を占拠する必要なんか最初から無いんだよ!」


俺の叫びが執務室に響く。


「せ、占拠しないとはどういう事だ、占拠し、交易路の安全を確保しなければ食料の輸送も出来んぞ?」


辺境伯がそういってくるので、俺が考えた策を説明するのだった。




「軍に食料を持たせて移動する……っか。」


「それなら食料を守ることも出来ます、賛成です!」


辺境伯は考えをまとめようと思慮にふけり、ミラーナ嬢は諸手を上げて賛成だと言う。


「いえ姫様、運ぶ量が多ければ運搬に兵士を取られて守備がおろそかになり、魔人の襲撃があるやもしれませぬぞ?」


だが騎士の1人がそう言うと、手を下げて不安そうに俺を見てきた……辺境伯、あんたもそんな目で見るなよ!


「安心しろ、それについても考えがあるから!」


俺はそう答えると視線から逃げ出すのだった。




「ロットリッヒ辺境伯様、第3師団に魔人の襲撃が有りました!」


「ほう? で、被害は?」


「は! 兵士にも食料にも被害はほとんどありません!

勇者様が隊列に近づく前に討伐されましたので!」


「ハッハッハッ! そうかそうか!

ミラーナよ、順調じゃの?」


「はい、お爺様!」


伝令の報告を聞いてロットリッヒ辺境伯もミラーナ嬢もご機嫌に笑う。


「しかしケン殿は、考えたな。」


「はい、ケン様が食料と軍を囮にすると言った時には、正気を疑いましたが、こんなに上手くいくとは思いませんでした!」


ギルマスの執務室での話し合いから1ヶ月、俺達は軍の兵士に食料を運ばせて帝国に向かっていた。


王国軍は食料を荷馬車に満載し、アイテムボックスのスキル持ちの兵士にも持てるだけ持たせ、帝国軍と次々と合流を果たせていた。


そして帝国軍に食料を渡すと、帝国からは帝国北方の良質な鉄鉱石などからできる武器防具や、鉱石資源等と交換して戻るを繰り返していた。


軍上層部にもこの考えはあったようなのだが、魔人の襲撃があった場合に守りきれず、損害が大きすぎると諦めていたそうなのだ。


だが俺が計画した輸送作戦なら、魔人の襲撃が有っても問題ないと判断されて、作戦は実行されたのだ。


そして俺が考えた作戦というのが、高ランクの冒険者達を軍列の周囲に配置して、魔人が現れたら察知すると共に魔人の移動を妨害して、勇者達に来てもらって倒してもらうと言うものだった。


勇者達も1パーティーだけならこんなことは無茶だが、6パーティーもいるのでかなりの範囲をカバーできている。


しかも冒険者達も実力者ぞろいなので、勇者を呼ぶまでもなく魔人を倒してしまう者まで居たのだった。




「それにしても、まさか魔人がこのような手に引っ掛かるとはな。」


「あいつ等はもちろんだが、部下のなかにも人と同じ食い物が必要な奴等がいるからな。


王国軍が大量の食料を帝国に移動させると聞けば、襲いたくもなるさ。」


そう、俺は軍が食料を帝国に輸送すると、情報をわざと洩らしたのだ。


しかもここの部隊は防備が堅いやこの部隊は特に大量の食料を運んでると嘘の情報を流し、魔人達をこちらの都合の良い場所に釣り出すのにも成功していた。


そのため軍には被害らしい被害はでておらず、食料の輸送は上手くいっていた。




「……来たかな?」




なんにしろ俺達は食料を護衛しながら周囲に気を配って移動していると、少し離れたところに大きな魔力がいくつか現れるのを感じた。


そしてその事を周りに伝えると、周りの皆がざわめき始める。


「……マジか? ここまで上手くいくとはな。」


「おうおうおう、それでもう来そうなのか?」


周りにいた面子、ギルマスにアルヴァー達は装備を整え始める。


「ああ……おい、確か2、3日前に帝国の勇者が災害級の魔人を1体討伐したよな?」


「はい、帝国軍の集積基地を襲った時に討伐されてます!」


近くにいた下士官に聞くとそう答えてくる、それを聞いて俺は近くに居る馬車に向かって声をかける。


「おい、準備しとけ! 多分シュテットホルンの討ち洩らしの奴等だ!」


俺の声に馬車から腕が出てきて軽く振られる。


それを確認すると辺境伯達に後方に下がるように伝え、隊列を防御の陣形に変える。




そして少しすると強大な魔力の塊が3つ、目の前に現れた。


「人間どもめ! 皆殺しにしてくれる!」


それは準魔王級の魔人と災害級魔人2体だった、そしてそれを見た俺が叫ぶ!


「来たぞ、勇者様頼んだ!」


俺の声に馬車から居ないはずの7つ目の勇者パーティーが飛び出してくる!


「よし、準魔王級を包囲しろ、他はケンに押しつけろ!」


「おま、何を言ってる!?」


「おら! さっさと行かねえか!」


「援護はしてやる、ぶち殺せ!」


「貴様らもか!?」


勇者達は準魔王級に向かう、そして俺は災害級2体に向かわされる。


こうして準魔王級は王国最強の勇者、風の勇者が倒して、災害級2体は俺が槍で串刺しにしてやったのだった。




「ふぃー、馬車に乗ってるだけで終わるかと思ったが、最後に引っかかったな。」


「奴等も本当は、集積基地を襲って食い物を手に入れるつもりだっんだろうが、あそこは2個軍に帝国の勇者に守らせてるからな。」


「1回襲撃に失敗して、こっちの方がリスクが少ないと思ったのね。」


風の勇者が準魔王級を真っ二つにしてやって来ると、俺に話しかけてきたので。


俺も答えながら説明をする、すると風の勇者の後ろから女性の声も聞こえた。


ちなみに、王国最強の勇者っと言うか、現役最強の勇者であるこの男とは、シュテットホルン解放戦以来の知り合いだった。




「まぁ、そう見えるように誘導したしな。」


「ふむ、なんにしろ我等の勝利だ! みんな、勝鬨をあげろ!」




「「「オオォォォ!」」」




風の勇者の叫びに合わせ、兵士達と冒険者達の雄叫びがロットリッヒの平原に響いたのだった。




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