異世界転移 18話目
女性の叫びが終わると、執務室の中は静寂に包まれる。
その中で最初に発言したのはロットリッヒ辺境伯だった。
「……紹介を忘れていたが、この娘は孫のミラーナだ。
ケンはそれで理解したようだな。」
辺境伯がそう言うと、若い騎士達はひざまずきミラーナに礼を尽くす。
副ギルド長は理解したがギルマス理解してないな。
辺境伯もミラーナもこちらを見ている、副ギルド長は自分から言うつもりはないようだ、仕方なく俺が説明をするためにギルマスに向かって話し出す。
「ミラーナ・フォン・ロットリッヒ、ロットリッヒ辺境伯の孫娘で父親は次のロットリッヒ辺境伯、そして母親は帝国の皇女で今の皇帝の姉にあたる。
つまり帝国の次の皇帝の姪だ、そして帝国は食料問題を抱えてる。
ロットリッヒ地方からの食料の輸入が途絶えた事による食料問題がな。」
俺がそう言うと、ギルマスはハッとして何かに気がつく。
若い騎士達はうなだれ、ミラーナはうつむき何かに耐えるような表情になる。
「ギルマス、帝国の食料問題はなんだか知ってるか?」
「……わしゃ戦闘能力と指揮能力だけで選ばれたんじゃ、友やその家族、善良なる人々を助けるだけじゃ!」
関わりたくなさそうなギルマスの答えに俺はため息をつきつつ、単純なギルマスが羨ましいと思いながら話を続ける。
「元々ロットリッヒ地方は大量の食糧を帝国に売ることで栄えてきた、そして帝国は増え続ける人口の食料をロットリッヒ地方に依存してきた。
だが邪神戦争が起こりその流通が止まってしまった、しかし問題はなかった、何故か?
帝国は邪神との戦いのために次々と国民が死んでいく、国民だけじゃない、皇族に貴族も関係なくだ……だから食料は足りた。
そしてロットリッヒの農民達は土地を捨てた、魔物に土地を追われただけじゃない、交易で農産物を帝国に売れなくなったのもあるらしいがな。」
そう言われてギルマスも答えてくる。
「邪神戦争が終わって死ぬ数が減ったから、食料が必要になったと言うことか……じゃがそれならまたロットリッヒから売ればよかろう、それか自国でまかなえるようにすりゃ良かろうに?」
ギルマスの言葉に俺はため息をつきながら答える。
「その最短の交易路はどこだ?
そこ以外だと東部に迂回しなければ行けないし、山脈も有るぞ? それだと時間がかかりすぎるし、運べる量も限られてくる。
あとな、帝国は北にある、つまり寒い、寒い地方は作物の育ちが悪いし長い冬のせいで連作なんか出来ないからな。」
俺にそう言われてギルマスは納得し、ミラーナや騎士達はうなだれる。
俺はそれを見ながらひと言付け加えたのだった。
「今年の帝国は不作、飢饉になりつつあるらしいな。」
そのひと言によって、執務室は静まりかえるのだった……。
「それで複数の魔人がいた事と、シュテットホルンの北部を占領することに反対なのは、何故なのですか?」
若い騎士の一人が聞いてくる、それに今度はギルマスが答える。
「シュテットホルンの戦いで、準魔王級1体と災害級が3体に逃げられとるんじゃ、そしてその魔人達は北部か北西部に潜伏しとるらしい、これも機密じゃぞ。」
ギルマスの言葉に若い騎士達は真っ青になる、そしてミラーナは再度聞いてくる。
「それで、なんでケン様はその事などを知っているのですか?」
ミラーナの質問をどうやって誤魔化すか一瞬考える、だがそのスキにギルマスが答えてしまった。
「そりゃ旧市街地にいた準魔王級1体と、災害級2体をぶっ殺したのはケンだからな。」
「ジジイ、個人情報をペラペラと……!」
俺は怒ってにらみつけるが、歴戦の冒険者でS級だったと言われるギルマスには効果がなく、鼻をほじりながら謝るそぶりさえない。
騎士達にミラーナ嬢、副ギルド長は驚き目を見開いている。
辺境伯と老齢の騎士は知ってたようで、特に変化はなかった。
「まぁ、そういうことで交易路なんて維持できんから、諦めた方が良いと思うぞ?」
俺の言葉に騎士達はうなだれ、ミラーナは声も出さずに泣き始める。
まぁ、自分の母親の母国が飢饉になってるんだから助けたかったんだろうな……
俺はそう思っていると、辺境伯がさらに頭が痛くなることを言い出す。
「そこでケン殿、お主の出番じゃ、とりあえず飢饉を乗り越せる分だけでも運びたい、何かしら手を考えてほしい!」
「……アホか! なんで俺がそんなことを考えなきゃならん。
それこそ王国やお前らが考える事だろが!」
俺がそう叫ぶと辺境伯が叫び返してくる。
「それこそアホが! 考えて妙案が浮かばないからケン殿を頼っとるじゃろが!」
「なんでそうなるんだよ……。」
俺は頭が痛くなる気がしながら地図を見る、そして辺境伯を見ながら聞いてみる。
「軍や騎士団、勇者達の位置なんかが分かれば良いんだが、それと帝国のもだ、まぁ無理……おい、なんで駒を置いていく!?」
俺がそう言うと、辺境伯ではなく文官が地図の上に駒を置いていく、さらにミラーナの近くに居た騎士も駒を置いていく。
それは王国と帝国の軍や騎士団に勇者達を表す駒だった、それを見て駒を置いた文官と騎士を見る。
『文官は辺境伯の部下じゃなく、王国の官僚か? 騎士の方は帝国からミラーナ嬢のために送られた騎士、ってか……本気で困ってるようだな……。』
文官と騎士を見てそう感じた俺は、仕方なしに地図を見てあることに気がつく。
『……王国軍が5個軍居るな。 王国の勇者パーティーも2つがロットリッヒの近くで活動中か、帝国も7個軍が集結してるし、帝国の勇者は……4パーティー全部来てるのかよ!』
俺は地図を見てて呆れると共に、帝国の飢饉は俺が思ってるより酷いと直感した。
王国には5人の勇者がいてそれぞれがパーティーをひきいてる、帝国はさっきの通り4人いてそれぞれがパーティーをひきいてる。
そして集結している軍と勇者達は王国は動員可能な数の半分が、帝国は動員限界寸前がロットリッヒの近くに集結してたからだ。
さて、どーすっかなぁ……。
俺は地図をにらみながら良い手がないか、悩み始めるのだった。
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