異世界転移 17話目
「辺境伯様が来るとは、何か有ったんですか?」
俺はソファーに座り、辺境伯にそう聞く。
俺の態度が気に入らないのか、護衛の騎士らしき若い男がにらんでくるが迫力が無いのでまったく怖くなく、無視をする。
その態度がシャクにさわったのか、若い騎士が剣の柄に手をおき前に出ようとした瞬間に辺境伯が一喝する。
「止めんか! お前達が頼むから同席させたのだ、嫌なら出ていけ!」
「ック! す、すみませんでした……」
「ケン殿、すみませんな、若手の有望株なので経験を積ませるために同席させたのですが……」
若い騎士は納得がいかないようで、俺をにらみながら謝ってくる。
それを見た老齢の騎士がそう言って謝ってくるのを手で制して言う。
「仕方ねえわな、俺だって無礼とは分かってんだからなぁ……
騎士さんよ、俺は冒険者として生きてきたから礼儀作法なんか全然習ってないんだわ。 許してくれや?」
俺がそう言うと、若い騎士は不承不承だが後ろに下がる。
それを見た俺は辺境伯に向き直り、再度質問をする。
「それで辺境伯様がこんなところに来るなんて、本当になんか有ったんっすか?」
俺が質問をすると、辺境伯は後ろに居る文官らしき男に合図を送る。
「ケン殿は単独でBランクになった稀有な冒険者ということだけでなく、かなりの戦術眼と戦略眼を持つと聞きます。
そこで今回は御相談したいことが有って参りました、辺境伯様もご臨席されているので分かっているとは思いますが、この席での事は他言無用でお願いします。」
文官の言葉に俺は顔をしかめながらうなずく、それに若い騎士が目をつり上げるが辺境伯がすまなそう言ってくる。
「すまんな、お主の考え通り厄介事じゃ、王国の中枢部も絡んでいるんだがお主の考えを高官等に伝えれば、ある程度は話がまとまると思ってな。」
そう言いながら辺境伯はテーブルの上に地図を置かせる、俺やギルドマスターはその地図を見て驚く。
その地図はロットリッヒ地方の地図だったがかなり正確な物で、間違いなく国家機密の類いだったからだ。
「こりゃまたえらく正確な地図だな……しかも最新の物か、こりゃ間違いなく国家機密だろ。」
俺の言葉に辺境伯がうなずくと、文官をうながして説明をさせる。
「ケン殿の言う通り、これは最新の地図で国家機密の物です、ケン殿は気がついているようですが、色分けされているのは現在解放された地域と、いまだに魔物の支配下におかれた地域です。」
「赤い色で線を引かれたこちらが魔物に支配された地域なんだがな、ここからここの地域を……お主は取り返せると思うか?」
文官に続いて辺境伯がそう言いながら、地図の有る部分を指でなぞり言ってくる。
そこはロットリッヒ地方の北西部、シュテットホルンの北部で帝国との交易路が有る地域だった。
俺はそれを見て考える、王国の考えや辺境伯の考えを、そしてその結果がどうなるかを、全員が俺を見つめる中で考えをまとめた俺は、辺境伯達に説明をするために話し出すのだった。
「まず、王国の考えは分かった。
シュテットホルンを解放した勢いのまま北部も取り返し、帝国との安定した交易路を復活させる、そういうことだな?」
俺の言葉に若手の騎士達と10代後半で、金髪の髪をショートボブにしていて空色の瞳をした美少女が嬉しそうにうなずく、ところで誰だこの女?
そして文官と辺境伯が嫌そうにうなづき、続いて老齢の騎士が無表情で軽くうなずく。
それを見て俺は続けて言う。
「ぶっちゃけるとこの地域から魔物を駆逐するのは可能だ、王国騎士団や勇者様達の援軍が無くても、俺達冒険者や辺境伯様の騎士団に軍の力が有れば出来るだろう。」
「「「おお……!」」」
俺の言葉に騎士達と女性が歓声をあげるが、辺境伯と文官に老齢の騎士は無表情だ。
なんにしろそんな全員を俺は手で制して言う。
「だが占領するのは反対だな、今の王国の戦力を考えると維持は無理だ。
もしここを占領すれば別の地域の戦力が足らなくなって、その地域が魔人や魔物の攻撃を受けることになる、そうなったらジリ貧だな、最悪、王国が滅びかねんぞ?」
「な!?」
「貴様!」
女性は声を無くし、騎士達は激昂するが、俺はそれらを無視して辺境伯を見て視線で問う。
辺境伯が俺の視線を受けて軽くうなずくのを確認した俺は、周囲に俺達以外に誰も居ないか確認をしてから話し出す。
「いいか、今から俺が話すのは特級機密だ、絶対に洩らすなよ? 家族にもだ。」
俺が真剣な表情で威圧しながら言うと、騎士達と女性は顔を青くしてうなずく、それを見てから俺は話し出す。
「まず最初にシュテットホルン解放戦についてだが、どう聞いている?」
俺はそう言って、最初に剣を抜きかけた若い騎士を見る、若い騎士は周りの同僚を見てから話し出す。
「勇者様が魔人を討ち、王国軍に騎士団や冒険者等が魔物を殲滅して解放した。
そう聞いてるが……」
若い騎士の話に、俺は軽くうなずいてから話し出す。
「そうだ、だが国民等には話してない事が有る、勇者様達は、魔王級に準魔王級の魔人1体づつに、災害級の魔人を3体倒したんだよ。」
「な! 魔人は1体だったんじゃ!?」
「い、いや待て、勇者様は合計5体もの魔人を倒したのだろう?
なのに、何が問題なんだ?」
俺の言葉に驚いた騎士達だが、多く倒したのだから良いじゃないかと言う。
そう言われるのが分かっていたかのように、俺は騎士達を見回してから言う。
「魔人はな、全部で12体、12体いたんだよ。」
俺の言った意味が分かったのか、ポカンとして身動きすら出来なくなっている。
「魔人はシュテットホルンの旧居城跡に魔人が5体、これはさっき言った通りだ、そして旧市街地には準魔王級が1体に災害級が2体。
シュテットホルンの城壁の外には準魔王級が1体に災害級が3体いた、他にもいたのかは分からないが確認されただけで確実に12体の魔人がいたんだ。」
俺がそう言うと、俺、辺境伯、ギルドマスター、老齢の騎士を除く全員がポカンとしている。
ってか副ギルド長も知らなかったのか……目を見開いて呆然としてるわ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
最初に正気に戻ったのは10代後半の女性だった。
「それが本当だったとして……なんであなたが……一介の冒険者でしかないあなたが知ってるのですか!?」
ギルドマスターの執務室に、女性の絶叫が響くのだった。
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