異世界転移 16話目
「なぁなぁ!」
「ん? おう、おめえはケンのところのガキか。」
「もう、ライナー君でしょ!
それでライナー君、何か用かしら?」
ケンが副ギルド長に連れて行かれ、アルヴァーはフェリシーと何かあったかな? っと話しているとライナーが2人に話しかけてきたのだ。
慌ててマックス達が止めようとするが、フェリシーが手で止めて優しく何の用か聞いてくる。
「昨日の実戦訓練だけど、何が有ったのか教えてくれよ!」
「ああ……昨日のことか……。」
「あの事ね……。」
ライナーの言葉にアルヴァーとフェリシーは納得してどちらが話すか顔を見合せ、アルヴァーがフェリシーをうながすとフェリシーがライナーに向き直り、話そうとした時だった。
「かあ様、私も聞きたい!」
可愛らしい女の子が現れてフェリシーの膝に抱きついて、ねだってきた。
「あら、もう依頼票を見るのは良いの?」
「ケン様の話を聞いた方がためになります、だからお願いします!」
「そう? なら話してあげるわ。
ライナー君、この子は私達の娘でアネットって言うの、仲良くしてあげてね?」
「は、はい……。」
現れた10歳位の女の子は、アルヴァーとフェリシーの娘のアネットだった。
自分と同じ年頃の可愛らしい女の子が現れたので、ライナーは少し赤くなりながら答える。
「かあ様、この子おバカそうな顔をしています!」
[ゴス!]
「……仲良くしてあげてね?」
アネットにバカそうな顔と言われたライナーは涙目だ、そしてアネットもフェリシーにゲンコツを食らい痛みに声も出せずに涙目になっていた、なんにしろ静かになったので実戦訓練で何があったのかフェリシーは話し始めるのだった。
「おらいくぞ! ケンを空中に上がらせるなよ!」
「おめえらが本命か、ずいぶんと豪華なメンツじゃねえか!」
アルヴァーが率いる30人は、城塞都市ロットリッヒでトップの冒険者達だった。
アルヴァーを中心に8人が大楯を全面に出して前進してくる、そこに凄まじい勢いでケンの槍が繰り出されるが、先ほどと違い冒険者達はビクともせずに前進してくる。
そしてケンは何度か空中に数メートル飛び上がるが、その度に弓や魔法で撃たれて舌打ちをしながら地上に降りる。
そしてアルヴァー達は距離を詰め、アルヴァー達盾役と剣士や槍使いが連携してケンに攻撃をする。
ケンが追い詰められたように見えた時だった、1人の魔導師がファイヤーボールを詠唱し始める。
高ランクの魔導師だけあって、その詠唱は速く正確だった、そしてそれは誰が見ても牽制のための魔法だった。
ソコソコの範囲にソコソコのダメージが与えられるファイヤーボールを撃ち込み、盾役が包囲出来るスキを作ろうとしてるのに気がついた全員が連携し始め、呪文が完成した時、フェリシーはニヤリと笑うケンに気がついた。
「ダメ! 詠唱を止め……ああ!?」
フェリシーが詠唱を止めるように言い終える前に詠唱は完成し、火の玉が魔導師の近くに生まれる。
そして同時に無数の石の礫が地面から空中に打ち出される。
地魔法系の初歩の初歩とも言える魔法で、ほとんど役に立たずの目眩まし程度にしか使えない魔法だったが、今は違った。
打ち出された礫がファイヤーボールに当たったのだ、そしてファイヤーボールは炸裂した。
冒険者達のほぼ中心で―――
「ッチ! 逆手にとられたか!」
「ケンの野郎、あんなの用意してやがったのか!」
「なんで誰も気づかないのよ!」
「初歩の魔法です、魔力もほとんど使わないので多数の魔法を使っているこの状況では気づけませんよ!」
ファイヤーボールを撃とうとしていた魔導師がそう言うと、直ぐにフェリシーは他の魔導師と結界を構築し始める。
ケンは礫を空中に打ち上げるだけの簡単な魔法を、撃ち出される他の魔法の魔力の影に隠して準備していたようだった。
なんにしろ言い争いながらも素早く守りの体制に入る冒険者達、そしてファイヤーボールの暴発による砂ぼこりなどが晴れて見えたのは、10メートル程の高さに飛び上がり、槍を撃ち下ろすように構えたケンだった。
「うん、そこまでは分かるんだけど、そのあとにケンのおっちゃんが何をしたのか分からないんだ。
おっちゃんに聞いたら気功法で気弾を打ち出してボコッたって言ってたけど……」
ライナーはそう言ってフェリシーにアルヴァーを見つめる、アネットも説明して欲しそうに両親を見る。
「まずは昨日も言ったがケンの2つ名は天槍だ、そしてその名がついた理由がライナーが見た通り、空中から撃ち下ろされるケンの気弾だ、気功法は使う武器なんかに影響されるんだが、これは分かるか?」
アルヴァーの言葉にライナーとアネットは顔を見合せるとフルフルと首を振る。
「気功法を使って攻撃すると、剣なら斬撃を強化したり飛ばせる、弓なら矢にまとわせて、杖なら唱えた魔法の威力を上げるなんて風に違いが現れる。
そしてケンの使う槍の場合は、突きなんかによって撃ち出される気弾なんだが……。」
「単純な気弾だから本来なら簡単に防げるんだけど、ケンの場合は槍の一突きごとに一発撃ち出す気弾を、凄まじい連打をしてを撃ち出すのよ。
だから地上からでも厄介なんだけど、空中から撃ち下ろされる無数の気弾には打つ手が無くってね……」
「誰でも出来るって訳じゃないぞ?
ケンの野郎は偽装して隠しているが間違いなく気功法のランクは10だ、それ以外に立体機動や空間機動、もしかしたら天駆なんかも持ってるはずだからな、それを使って空中に飛び上がってるんだ、そしてそれも問題なんだけどな。」
「魔法を使って翔ぶのと違うの?」
アルヴァーとフェリシーの説明を聞いていたアネットが疑問をぶつける。
「魔法なら詠唱を邪魔したり、魔法を強制解除したりして引き釣り下ろす事が出来るんだがな。
スキルの場合は魔力の力で翔んでる訳じゃないんで、妨害する方法がほとんど無いんだ。」
「だからケンと戦う時は空中に上がらせないのが一番なんだけど、ケンは戦い方も上手だから……」
そう言われてライナーはケンの戦い方を思い出す、ケンは高ランクの冒険者達を相手に一定の距離を保つように戦い、一瞬のスキを見逃さなかったと。
「あとは気功法以外のその他のスキルね、ケンは多才なのよ。
自分では勇者や英雄にとても敵わないってウソぶいてるけど、高ランクの回復魔法にその他もろもろ、こんな人はまず他に居ないわよ?」
「なんにしろケンに何かを習うなら、まずは気功法を習っとけよ?
気功法はランクが上がれば攻撃はもちろん、防御や身体強化に魔法の強化にまでも使える。
そしてケンは間違いなく気功法の使い方はトップの腕前だからな。」
アルヴァーにそう言われてライナーとアネットは、なんとかして気功法を教えてもらおうと考え始め、ケンが居るはずのギルドマスターの執務室が有る2階の部屋、天井を見つめるのだった。
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