異世界転移 13話目




市場の有る広場から小一時間ほど歩き、ケンの自宅に着く。


アンナは色々あって疲れたのか市場を出た辺りから寝てしまい、今はクラーラに背負われて寝ていた。

ライナーも疲れたのか、クリスに手を引かれていたがうつらうつらとしている。




「よし着いた、ここが俺の家だ。

1階には食堂兼キッチンに俺の部屋、風呂と書斎がある。


他にも1階には部屋が有るが、倉庫になってるからマックス達の部屋は2階から選んでくれ。


あと、地下室も有るがそこは立ち入り禁止だ、危険な物も有るから絶対に近づかないように……っても結界が張ってあるから破らないと入れないけどな?」


ケンはそう言うと、門を潜って自宅の敷地に入る。

その後ろには着いてきていた面子から、クリスと寝ているアンナを除くマックス達がアングリと口を開けてケンの自宅を見上げていた。


ケンの家は広い庭が有り、その広さは学校の校庭ほどあった、建物は家というよりも屋敷だったからだ。


「す、すげえ……こんなお屋敷に住めるのか。」


「ク、クリス、間違いではないのか、貴族様のお屋敷と間違えているのでは?」


ライナーはうつらうつらとしてたのが、完全に目が覚めたようで驚きながら屋敷を見ていて、マックスは何かの間違いではないのかと娘のクリスに聞いている。


「間違いじゃないわよ、私も最初に連れてこられた時に驚いたけど、ここは確かにご主人様の家よ。」


クリスはそう言うとケンのあとを追って行ってしまう、マックス達も慌ててそのあとを追うのだった。




玄関まで行くとケンとクリスが待っていて、ケンが全員を1列になって並ぶように言う。


「クラーラ、悪いがアンナも起こしてくれ、それじゃあマックス、左の人差し指を出してくれ。」


ケンに言われてマックスは左手を出す、するとケンは伸ばされた人差し指にナイフを軽く刺したのだった。


「な、なにを!?」


「動くな! 痛かねぇだろ? よし、血が出たな、ほれ人差し指をそのままこの腕輪の石の部分に押し当てろ。」


ケンに命じられてマックスは、慌てて言われた通りにする。


そして指が石に押し当てられるとケンは―――




「我、この者を認め2級管理者とす。

印を結びし者の名はマックスなり!」




っと小さく唱えた、すると石は一瞬輝いた。


「な、何ですか、今のは?」


「これが無いと俺が居ない時に入れないし、防衛システムが作動する。

そうすると俺が居ない時に困るだろ、全員分作るからな、次はクラーラ、その次はクリスだな。」


そう言って次々と作っていく、ライナーの番になるとケンはライナーに問いかける。


「次のアンナが終わるまで我慢できるか?」


「もう12才だぞ、へっちゃらだい!」


ライナーの答えにケンは偉いぞ! っと言って同じ工程で腕輪を作る、ちなみにマックスとライナーは腕輪でクラーラとアンナはネックレス型だった。


クリスは指輪型が有ったらそれが良いと言い、ケンは微妙な表情だったが指輪を取り出して作るとクリスに渡すのだった。


作業が終わるとケンを先頭に家の中に入る、そしてまず2階に向かうとマックス達に向き直り説明をする。


「階段を上がって右側は客室だ、アルヴァー達が泊まりに来るときがあるんで、今後はそーいったときの対応も頼む。」


「はい。」


マックスが返事したのを確認してケンは説明を続ける。


「逆の左側は空き部屋だ、そこを使ってもらいたい、一番奥に広い部屋が2つ有る、それ以外の部屋は二人部屋が12有るから好きに選んでくれ。」


「はい、では手前の部屋を1つ、私達夫婦と子供達で……。」


マックスがそこまで言ってケンは手で制する。


「奥の広い部屋の1つをマックスとクラーラ、それにアンナで使え。

クリスとライナーは1部屋づつだ。」


マックス達はこうでもしないと遠慮してしまうとケンは考えて、命令する形で部屋割りを決める。




そして奥に有る広い部屋に入ると、空気の入れ換えをしながら掃除をして、ベッドやタンスの置く場所を聞いていく。


「ご主人様、家具は明日には届けられるのですか?」


「ん? ああ、ちゃんと持ってきてるぞ。」


クラーラが質問すると、ケンは持ってきてると言う。


「でもおっちゃん、武器なんかも持ってきてないじゃないか。」


ライナーがそう言うと同時に部屋にベッドが現れる。


「ええ!?」


「魔法袋だよ、Cランク辺りからは皆が大体持ってるぞ。」


驚くライナーにケンは腰のベルトにつけられたポーチの1つを渡して見せる。


「なんにしろ今日はこの部屋だけ軽く掃除をして、夕飯にしよう。」


クリスの両親の部屋を掃除して、ダブルのベッドを2つにシングルのベッドを2つ置くとみんなで食堂まで降りてきてテーブルにつく。




「一応食材も買ってきたが、今日は屋台で買ってきたもので夕飯だ、それじゃあ、いただきます。」


「女神マリルルナよ、今日の糧に感謝します……いただきます。」


「肉だ、うまそう!」


「おにくだ!」


「「女神マリルルナよ、今日の糧に感謝します……いただきます。」」


ケンに続いてクリスがマリルルナに祈りを捧げ、ライナーとアンナが何かの肉の塊が有るのを見て大喜びしている。

それを幸せそうに見守りながらマックス夫婦も祈りを捧げて、食事が始まる。




「それで、マックス達はなんで奴隷に落ちたんだ?」


食事も進みケン、マックス、クラーラはお茶を飲んでいた、ライナーとアンナは必死に肉にかぶりついていて、クリスはそんな弟と妹の面倒をみている、そんな落ち着いた雰囲気の中でケンはマックスに向かって聞いてきた。


「……私が甘い考えを持ってしまったからです。

私がしっかりしていればこんな事には!」


マックスは絞り出すように、最後には叫ぶように言う、そんなマックスに家族は、


「父さん、そんなことないわ! 運が悪かっただけだよ!」


「そうよあなた、町の人達には亡くなった人も多いわ……それを考えたら……!」


「父ちゃんは悪くないぞ!」


っと言って慰めている。


アンナだけはなにがなんだか分からずに、肉にかじりついたままキョトンとしてる。


そんなアンナにケンが果実水のおかわりを入れて置いてやり、落ち着つかせてなにがあったのか聞き出す。


そして主にクラーラとクリスから聞き出したマックス一家が奴隷落ちした経緯というと……。


「シュテットホルン奪還作戦の余波か……」


ケンはそう言うとマックス達の語ったことを再度思い出す。


マックス達はシュテットホルンの北方に有った小さな町、フェルデンロットで宿屋を経営して生計を立てていたのだそうだ。

このフェルデンロットは北に有る帝国との交易路の通り道に有ったので、それなりに繁栄していたが邪神が攻め込んできたために商人や旅人が減り、徐々に廃れ始めてしまった。


そして交易路と西の森の防衛拠点として最重要だったシュテットホルンが陥落してからは、さらに落ちぶれてしまったとの事だった。


そしてマックス一家は先祖から受け継いだ、部屋数が10の小さな宿を農家も兼業してなんとか細々とやっていたのだが、15年前に異変が起こる、銀色の龍の大軍が現れて邪神を討伐し始めたのだ!




……よーするにドライトとその分身体達が大挙してやってきて、邪神を片っ端から捕まえ始めたのだ。


そしてシュテットホルンに攻め込めるスキが出来たので、王国は総力を結集してシュテットホルンを奪還した。


その結果、マックス達が住んでいた町との連絡がまたできて、さらには帝国との交易路もかなり活気が生まれた。


そしてマックスは有る決断をする、これから増えるだろう商人や旅人に冒険者達のために宿を増築することにしたのだ。

そして借金をして宿を増築して部屋数を3倍の30にしたのだが、その日の夜に燃え落ちた。


何があったかと言うと、シュテットホルンを奪還された魔人が再度取り返そうと侵攻して破れ去った。


そしてその魔人と魔物達は撤退するルートとして、マックス達の町を通ったのだが……その際にマックス達の町や宿にも火をかけていき、宿は燃え落ちてしまったのだ。




お金を貸してくれた商人も泊まっていて、マックスとクラーラは必死になってその商人や宿泊客を逃がした。


そしてその商人もこれは事故だと言って借金の返済は待つと言ったのだが、宿が燃え落ちたマックス達は返す目処も計画も立てられないと全ての資産を手放して、自ら奴隷に堕ちてまで返済したと言うのだ。


「そうか……そんな事が……すまなかったな……。」


「ご主人様、ご主人様が謝ることは……。」


そう言うクラーラを手で制して、ケンは言う。


「シュテットホルンの奪還作戦と、防衛戦には俺も参加してるんだ。


あの時に俺には余力が有った、奪還作戦の時に全力で魔人を討伐していれば、防衛戦の時に追撃していたら……マックス達の宿は無事だった「ご主人様!」マックス?」


そう言って頭を下げようとしたケンをマックスは止めて言う。


「ご主人様、それ以上は傲慢です。


それに奪還作戦も防衛戦も、ギリギリの戦いだったと聞いています。


だから……仕方がなかったのです……!」


そう言ってうつむき肩を震わせるマックス、それを見てケンは静かに言うのだった。




「今日はもう休もう……風呂は……明日にするか、アンナも寝てしまったようだしな。」


ケンがそう言ってアンナを見る、アンナは一人では食べきれないだろう量の肉料理を、綺麗に食べ終えてスウスウと寝息をたてて寝ていたのだった。



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