異世界転移 10話目




[ドカン!]


「いよぅアホども!皆殺しにしてやるぜ!?」




冒険者ギルドの扉を蹴り破る勢いで開けた俺は、先程までの軽装ではなく完全武装になっていた。


この装備はドライトと別れる時に、ベテランのCランク以上になったら使ってくれと渡された装備で、うっすらと銀色に輝く何かの皮でできた物だ。


本気の時にしか身に付けない装備で冒険者ギルドに殴り込みを仕掛けた俺に、冒険者もギルドの職員も唖然と……せずに痛そうに頭を抱えて恨みがましく俺を見てきていた。


「ケ、ケン……なんでおめえはそんなに元気なんだよ……」


そしてそんな俺に声をかけてきたのは、真っ青な顔のアルヴァーだった。




「オーガキラーを酒樽にぶちこんだ?」


「ああ、アホのギルマスが酒が薄いとか言って、入れたらしくってな? ……しかし助かったぜ、頭がスッキリとしたわ。」


アルヴァーを初めとして、冒険者ギルドに居た面々は全員が二日酔い状態だった。


これでは話ができないと、エリアキュアとエリアリフレッシュで回復させてやり、やっとアルヴァーから話を聞けたのだった。


「酒が薄いって、ウイスキーだったろ……そういや、ギルマスはドワーフの血が入ってなかったか?」


「ああ、しかもハーフなのに、並みのドワーフよりも酒に強いらしいぞ。」


俺はそれを聞いて、あの筋肉ダルマはろくな事をしねえな! っと叫びたい気分だった。


そして、なんで俺が完全武装でギルドにカチコミを仕掛けたかと言うと、状態異常耐性8を持つ俺が酒に酔うなんて考えられないので、一服盛られたと考えてカチコミをしかけたのだ。


ちなみにオーガキラーとは、東方に居るというオーガの亜種の鬼を討伐するときに使われる酒で、これを飲ませると鬼だろうがオーガだろうが酔って寝てしまうというものだった。




別名鬼ごろしと言うらしい……清洲城か?




「しかし便利だよな、お前は……」


「このくらい、回復系の奴等なら皆使えるだろ、頼みゃ良いじゃないか。」


「使えることは使えるがよ、回復系の奴等は神職が多くてな……小うるさいんだよ……」


こいつ等、そんなことでギルドに2泊したのかよ……


俺はあきれながらアルヴァーに問いかける。


「それでギルマスは?」


「職員達の監視のもとで、強制労働させられてるぜ?

……ところでよ、あいつ等は誰だ?」


そう言ってアルヴァーがアゴで指したのは、クリス達だった。


「奴隷だよ、一昨日と今日買った……」


「奴隷? なんだってまた?」


「聞くな、酒のせいだ……」


俺がそう言ってアルヴァーが指してる方を見る、そこには物珍しげに依頼板に貼られた依頼表を見るクリスと小さな女の子と、40歳ぐらいの男女に女性に手をつかまれた、あっちこっちにフラフラしそうな10歳位の男の子が居た。


40歳ぐらいの男女はクリスの両親で、男の子と女の子はクリスの弟と妹だ。

アルヴァーがしつこく聞いてきたので今朝からの一件を話すと、アルヴァーはあきれて言ってきた。


「そんなの返品すりゃ良いじゃねぇか?」


「アホか、そんなことしたらあの子達は傷つくんだぞ?

人の事を少しは考えろよ、山賊が!」


「山賊言うな!

しっかし、あいつ等をどうするんだよ、クエストには連れてはいけねぇだろ?」


「1人はいきてぇみてぇだが、ま、留守番だな。」


「そうだろうなぁ……」


俺とアルヴァーはそんなことを話ながら、クリスファミリーを見ているのだった。




「おっちゃん! ケンのおっちゃん!」


「ん? なんだ小僧?」


「小僧じゃない、ライナーって立派な名前があるんだぞ!」


俺に話しかけてきたのは10歳になる、クリスの弟のライナーだった。


「ラ、ライナー、ご主人様に失礼ですよ!」


「そうだぞ、こっちに来なさい!」


慌てて母親のクラーラと父親のマックスが叱りつけている。


「なんだよ、おっちゃんはおっちゃんだろ?

それよりもおっちゃん、おっちゃんは強い冒険者なのか? とてもそうは見えないんだけど?」


「ライナー! いい加減にしなさい!」


今度は慌ててクリスがライナーに走り寄る、アルヴァーがそんなクリスを手でせいして、クリスファミリーだけでなくギルドに居る面々に聞こえるように言う。



「ケンの実力を見たけりゃ、実戦訓練を見りゃ分かるさ?」


こうして俺の意見は聞かれず、ギルドの訓練場で模擬戦が行われる事になった。






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