異世界転移 6話目




「はぁ……2度目の30歳か……」




俺は冒険者ギルドに併設されている食堂の席の1つに座り、悩んでいた。


「おう、ケンじゃねえか! って、暗い顔をしてどうした?」


「ん? アルヴァーか、今帰りか。」


「おう、この間言ってたクエストがやっと終わってな、ってかお前は本当にどうなんだよ、最近依頼も受けてないそうじゃないか?」


そう言って俺を心配そうに見てくるのは、アルヴァーと言う名前で40代の世紀末覇者をボウズにしたようなAランクの冒険者だ。


そして楽園の探索者っていう、所属人数が500人を越える冒険者のクランを率いている、俺も何度か単発で組んで仕事をしたクランだ。


この楽園の探索者、俺の住んでいる城塞都市ロットリッヒでナンバー1のクランで、この地方の人にナンバー1の冒険者は? 冒険者パーティーは? と聞くと皆だいたい悩むがナンバー1のクランは? と聞けばまず間違いなく楽園の探索者の名前が出てくるほどのクランで、目の前の男はそのリーダーだった。




なんにしろそんな凄いクランを率いるアルヴァーが聞いてきたので、質問に答えることにする。


「いやな、今年で俺も30になったしよ……今後をどうするか悩んじまってな……?」


俺がそう言うと、アルヴァーは吃驚しながら向かいの席に座りこんだ。


「今後ってお前、引退って歳でもねえだろ!?」


アルヴァー大声でそう言ってくる。


「声がでけえよ! ……そらお前、他の奴等ならまだまだ現役だろうけどよ、俺はソロだぜ? ちょっとしたミスで死んじまう、30でソロの冒険者ってのもな……」


周りの冒険者やギルドの職員が何事かと見てるので、声をひそめながらそう答える。


「なんだ、冒険者を辞めるってわけじゃねえのか……驚かすなよ!

それよりソロが嫌ならうちにくるか? 厚遇するぜ。」


アルヴァーはそう言ってくるが、俺は顔をしかめながら答える。


「今までソロだった俺が、今からお前のところに入ったら混乱するだろが……この歳で他人に迷惑をかけてまではなぁ……」


俺の言葉にアルヴァーも顔をしかめたが、納得したのかうなずいている。


「それじゃあ、これからどうするんだ?」


「依頼のレベルを引き下げて、常時依頼を細々とやってくかな……って、今までと違わねえか!」


「違わねぇな!」


「「わはははは!」」


俺とアルヴァーは暗い雰囲気を消すように笑う、アルヴァーも何度も経験してるから分かっているのだ、今後俺が第一線から引くということに……




「親父、なに笑って、ってケンのアニキか。」


「……ッチ!」


俺とアルヴァーが話していると、そのテーブルに二人の20代半ばの男がやって来た。


俺をアニキと言ったのがミルカ、舌打ちしたのがカウノと言って、クラン、楽園の探索者のサブリーダーの二人だった。


「おう、依頼の報告は済んだか?」


「ウッス、報酬はいつも通り振り込んどくように頼みました。」


「ギルドの奴等、てめえらのミスであんな依頼を受けちまったのに、ご苦労さんの言葉もなかったっすよ!?」


そうミルカとカウノが言ってくる、その言葉に俺とアルヴァーは顔を見合わせると同時に言い放つ。


「「騙されたお前らが悪い!」」


そう言われたミルカとカウノは、嫌そうな顔をしながら席に着く。


「それよりカウノ、お前はケンに言うことが有るんじゃねえか?」


「………………ケン、今回は悪かったな。」


「カウノ! てめぇ!?」


シブシブと、そして怒鳴り付けるように謝ってきたカウノにアルヴァーがキレて立ち上がる。


「アルヴァーいいって、しっかし最近はギルドもどうなってんだかな?」


「ッチ! ……本当にどうなってんだかよぉ!」


俺がいいと言ったので、アルヴァーは座り直して酒をあおる。


……おい、それは俺の酒だ。


飲まれる前にコップを奪うと、俺はカウノに向かい直り聞いてみる。


「それで薬草はちゃんと揃ったんだろ?」


「ええ、アニキの言う通り群生してやした、おかげで全部そろいやしたよ。」


「……ケンのアニキ、すいませんでした、今回は助かりました。」


俺の問いに、ミルカが答えてカウノがちゃんと謝りお礼を言ってくる。




今回、カウノはある依頼を受けた、それは薬草を数種類集めると言う、楽園の探索者にとって新人用の楽なクエストだと思われた。


だがその依頼には穴が有った、中級クラスの体力回復ポーションを作るのに必要なある薬草の納品数が、異常に多かったのだ。


それに気がつかずにカウノは受けてしまい、楽園の探索者は慌てて総出で探し始めたのだが、どうしても見つからない薬草が有り、その話を聞いた俺がアルヴァーにその薬草の群生地を教えてやったのだ。


カウノはプライドの高いところが有るので、ソロの俺に助けられたのと頭を下げるのに思うところがあったのだろう。


「しかしアニキと親父じゃねえですが、最近のギルドは酷いっすよね?」


「ケン、他のクランでクエストに失敗して、奴隷落ちした奴等もいるらしいぜ。」


「おいおい、その話は俺も聞いてないぞ!?」


カウノの話に、アルヴァーが声を上げる。

さらに何時の間にか集まっていた他の冒険者達からも驚きの声が出る。


俺はと言うと、その話を聞いて思わず「もしかして……」っとつぶやいていた。


そのつぶやきをめざとく聞いていたミルカが言ってくる。


「アニキ、なにかわかったんですかい?」


「多分だけどな……ほら、西の森にあるなんたらって言う廃墟の都市、勇者様達とで解放しただろ。」


「ああ、シュテットホルンのことっすか。」


俺は「そうそう、そんな名前の都市」俺はミルカに答えながら、15年前にドライトに教えてもらったこの世界の事と、この地方の事を思い出していた。



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