ぼくの大事な天使様
俺の育て親は天使だ、と言うと大抵の人間には若干引き攣った笑みで見られる。心配そうな目で見られたりもする。
比喩だよ、と肩をすくめればほっとしたような顔をする。
その態度が苦手だった。
彼は今でも見世物小屋にいて、各地を転々としている。天使であることを自分に課したまま。
その覚悟を他人は知らないから当然の反応とはいえ、俺が気に入るはずもなかった。
「じゃあ俺の親戚かな。俺、よくこの名前のせいで天使様って言われてるから」
あっけらかんとそう返したのは俺と成績上位を競っていたラファエルくらいのもの。
いつものように言った言葉にそう返された俺は、少し呆気にとられたあと、腹を抱えて笑った。
「ははっ、はらがいたい……!」
「笑いすぎじゃない?」
「わ、悪い、そういう反応されたの、はじ、初めてで、ふふっくくく」
ルーク・デイビスの名がよく上位に上がるようになった。俺の整った容姿を指して「お偉いさんの庶子ではないか」と囁くようになった人々もいる。
俺の端正な顔は、確かにどこの誰とも知らぬ親から与えられた遺伝子によるものもあるだろう。けれど、それを半ばで台無しにすることなく育て上げたのは他でもない彼であった。
彼が俺の、そして彼自身の容姿を大切にするから、俺も自分の容姿を大切にした。
「ルーク・デイビス。覚えておくといい」
彼はいつかに言った。
「人の第一印象は見た目で大半が決まる。コネクションを持たない俺たちのような人間は、初歩の初歩ですら大事にできないなら、大成はしないさ」
俺に化粧の仕方を教えながら、彼は言っていた。
「気を遣うべきだ、頭から爪先まで。清潔であるだけでも、人は俺たちを誤解する。育ちの良い人間であると誤解する」
同時に、彼はこうも言っていた。
「人をよく見て、大事にするといい。この世のすべてから愛されたいなら、まずは自分が愛するといい」
彼から教えられたすべてを忘れず、俺はいつだって行動してきた。
軍学校に入って、出て、軍人そのものになってからも、それは変わらなかった。
「俺たちはこの世界の主人公だが、そこから降板されないためには弛まぬ努力が必要だ」
彼はいつだって笑っていたから、俺も笑みを浮かべていた。世界の主役らしく、不敵な笑みを浮かべて。絶望するような状況だって、結局は神様に愛されたが故の試練だ。
同じように世界に愛された彼だって、すべてを乗り越えてきたのだから、俺が乗り越えられない道理はなかった。
よく、絵葉書が届く。美しい風景を描いた絵葉書が、俺の元へと届く。
彼が体験したなんてことないような話が、端正な文字で綴られていた。
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