第2話 タンポポはへんなヤツです
日本舞踊は重心を下へ落とし、
基本的に女の足はつま先を内側に向け、すり足をする。
そして猫背。
踊っている間だけでなく、普段の生活から、厳しい姿勢を保ち続けるのだ。
油断してはならない。
普段の生活は踊りに出るのだ。
町人が極めるには、途方もない努力が必要だ。
それをアザミは八つの時分から続けている。
支えてくれているのは、妹のタンポポと、父母だ――。
それを時に、心苦しいと感じてしまうアザミだった。
踊るのは厳しいが楽しいし、所作の一つ一つに美を体現するのだと学んで、なんて夢のある道なのだろうと思った――。
しかし、自分はいつまでも夢を追いつづけていていいのかという懸念もあった。
「アネゴ――」
と、タンポポが茶屋に入ってきた。
「フゥ、アネゴ、踊りやめちゃうんですって? 師匠、怒ってましたよ――親分も、どうしてこんなところにいるっスか?」
双子というだけあって、タンポポはアザミによく似ている。
服装と口調をのぞけば、だが。
「あ! もしかして逢い引きっスか? ずるいっス、親分。自分ともつき合ってくださいよっト」
「お前とは嫌だ。二度と」
「えー、なんでっスか?」
「忘れたか、河原でのできごとを」
アザミは初耳であった。
夕焼け明るい雲の下。二人で連れだって歩いていた。
「いい枝ぶりの松っスね」
「首でもくくるのかい? よせよオイ」
ヘンなことを言うヤツだと、浅葱誠也は思った。
「ぶら下がったとたん、ポキリと折れて尾てい骨骨折なんて、嫌っスから」
「まともに生きようと思ったこと、ないのか」
「そっスねぇ。ないっス!」
カラッと晴れやかな笑顔だった。
それは夕墨に暗く、赤く、不吉だった。
だから、浅葱誠也は――。
「あのとき、生き方の輪郭があいまいすぎるヤツは嫌いだと言ったはずだ」
「自分は、そんなことを真剣に論じてしまう、親分が好きっス!」
実際、「まともに生きようと思ったこと」があるのか? と問われたなら、タンポポはある、と答えたはずだった。
タンポポは、自分に対する否定的な言葉も肯定する。相手のイメージ通りの自分を演じるために。
そこには私心などない。そうすることが、一つの生き方になっていた。
「へんなヤツです。タンポポは」
「オス! アネゴ、さぁ帰りましょう」
またも肯定して、タンポポは言った。
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