第2話 新世代の守護者たち
桜が咲く季節。
月も四月を迎えたことで肌寒さも控え目になると、心地よい春の陽気が姿を見せ始めた。穏やかな気温に合わせて服装も春の様相に変わり、街を出歩く人物の表情は期待と不安に満ちた複雑な人が多い。それはこの時期特有の空気で、新たな人生をスタートする社会人や学生が多い事が影響している。
武蔵霧導学園も例外ではない。霧導学園とは霧の怪物に対抗できる兵士の養成機関である。学園の名で呼ばれるのは文字通り十八歳までの子供に文武両道の教育を受けさせる学校としての役割があるからだ。
小中高一貫性ではあるが誰でも入学できるわけではない。学園側が提示する入学条件を突破した者だけが権利を与えられる。その条件というのが
武蔵霧導学園の学園長を担っているのは現存する霧奏者でも最古参にして最強と謳われる人物だ。それにも関わらず容姿は少年そのもので、新入生など彼を初めて見た者は皆等しく同じ反応を見せる始末。当然、学園長だと分かる者などいない。
最早、恒例行事ともなっている学園長のお披露目が新学期一番目の全校集会で行われた。生徒会の下で進行していく全校集会を締め括る形で学園長の挨拶がある。プログラムが読み上げられて学園長が壇上に上がると新入生たちからどよめきの声が漏れた。
「静粛に」
起伏のない静かな口調で、しかし一句一句が心の芯に響く重たさが新入生のどよめきを強制的に抑え込んだ。長い入学式で緩んでいた空気が一瞬にして張り詰めたものになる。
「私の姿を見てさぞ驚いていることだろうが、そのようなことは些事である。ここで大事なのは君たちが我が武蔵霧導学園に入学したことだ」
学園長の放つ雰囲気に呑み込まれる新入生が多い中、彼の言葉に顔つきが変化した新入生たちがいた。学園長はその変化を見逃さない。
「ふふ、いい眼を持つ者もいる。実に楽しみだ」
独白に似た口調で話すも、マイクがその声を拾って講堂全体に響く。筒抜けになった事実に学園長が羞恥心に苛まれることも、言い繕う態度も取らない。他人に聞かれても問題ない発言だからだ。
「君たちは学生だがただの学生ではない。霧導者の資質を買われた選ばれし者だ。そして霧の怪物から人類を護れる剣であり盾でもある。そこには当然、危険は付き物だ。霧導学園の生徒も例外ではない」
新入生たちの一部が騒めく。彼ら彼女たちも霧導者の資質を買われて入学したからには将来、兵士になることは覚悟している。だが学生の間から死の危険性がある所までは考えが及んでいなかった。
「生徒には必修授業や訓練とは別に特別授業と呼ばれる科目がある。まあ、この辺りの詳しい説明はクラスのホームルームで担当教官より教えてもらうといい。ここで私が君たちに伝えたいことはただ一つ――」
学園長は眼前に広がる生徒に向けて腕を伸ばす。
「常在戦場。今日にも明日にも霧の怪物と戦う覚悟を持って励んで欲しいというこだ」
伸ばしていた腕を引っ込める。
「自らを高める覚悟がある者は我々、教官陣が全身全霊を持って君たちに兵士のイロハを教えよう」
この言葉に新入生たちの反応は様々だ。学生の身から死に直面する可能性に脅える生徒もいれば、今にでも教官に教えを乞いたく目を輝かせる生徒もいる。この光景は特別珍しいものではなく、武蔵だけに限らず霧導学園に入学した新入生にはよく見られる反応だ。だからこそ学園長は生徒に自主性をけしかける発言をした。
様々な反応を見せる新入生の姿に優しい眼差しを向ける学園長の瞳はまさしく若者を導く指導者特有のもの。彼はその瞳を持ってして入学式を締め括る言葉を放つ。
「新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。この言葉を持って私の祝辞は締め括らせてもらう」
一礼した後、壇上を去る。その合間に僅かな静寂時間があったものの、壇上を下りる頃には盛大な拍手が送られていた。
壇上を下りた学園長を出迎えたのは一人の女子生徒だ。
「お疲れ様です、
「ふふ、私はただ挨拶をしただけさ。それよりも入学式を取り纏めている君の方が大変だろ。現生徒会長、
学園長、國代創と生徒会長、三好千夜は互いに労いながらバトンタッチするように千夜が壇上へと上っていく。後は生徒会長による終了宣言で入学式はお開きになる手筈だ。自分に着席した創は登壇した千夜を見守るのだった。
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