第2話 ミココロ会議
…という訳で相変わらずにのほほんと菊花を眺めていると、先ほどのヒロと入れ替わるように今度は僕の妻、マキが血相を変えてやって来たのです。
「ちょっとアナタ、大変なの!菊なんて見てるどころじゃ無いのよ!今ヒロが呼びに来たでしょ?…早くこっち来てちょうだい !! 」
僕は何だか訳が分からず、
「…ヒロは爺ちゃんの顔が真っ赤だって言って来たけど… !? 朝から酒飲んでるからしょうがないよ、気にするなって応えたんだが…」
と言うと、マキは怒りながら
「違うの!…お義父さんが頭をケガして顔が血だらけなのよ!」
と応えました。僕は驚いて
「えっ !? …それじゃあ、顔が真っ赤てのは !? …ケガして血まみれってこと?」
と叫んでマキに続いて走って本堂の方に向かいました。
本堂の前に来て見ると、父親サダジは左の額上をタオル地のハンカチで押さえてしゃがみ込んでいました。
顔の血はさすがに拭いたらしく、血まみれ状態ではなかったですが、額に当てたハンカチの下からはまだ二筋の流血が頬へと伝い落ちています。
そしてサダジのすぐ隣には、ロウソク台の入った大きなガラスケースがありましたが、そのガラスが一面割れて大小の破片となってケースの中や外に飛び散っていました。
「どうしちゃったの?…これ!」
僕は思わずみんなに叫んでいました。
…そして、マキと母親フミの口からこの状況が詳しく説明がなされました。
それによると、まずサダジはヒロと一緒に本堂にお参りしたとのこと。
本堂前には五段ほどの石段があり、それを上がったところの軒下に賽銭箱があるのです。
二人でお賽銭をあげて手を合わせて拝んだ後、振り返って石段を降りようとした時、酔っ払って千鳥足だったサダジが石段を踏み外して態勢を崩しながら落下、本堂前のロウソク台ガラスケースに勢い良く頭を突っ込んだ!…という訳です。
「困ったわねぇ!…お父さんのケガもだけど、お寺さんの物を壊しちゃったから、まずこれを弁償しなきゃならないよ!」
フミがガラスケースを見ながらため息混じりに言いました。
「…このケース、いくらくらいするものなんですかね?」
弟ユージの嫁さん、マサヨちゃんが言いました。
「…悪いけどアンタ、住職さんのところへ行ってガラスケース壊したから弁償したいって言って来てちょうだい!値段がいくらくらいかってことも訊いてみてね !!」
フミが指示して、マサヨちゃんはお寺の敷地奥の社務所に走って行きました。
…ガラスケースは見た感じ100×40×50(高)センチくらいの大きさです。 ロウソク台専用のケースなのか、何しろ値段などは全く予想出来ない代物でした。
…少ししてマサヨちゃんが戻って来ました。
「…訊いたんですけど、住職さんが値段を言わないんですよ!…いや、でも弁償したいんですって言ったら、では御心 (みこころ) のほどでお願いしますって言われました」
マサヨちゃんの報告に、僕たちは
「ミココロって言われても…いくらよ?」
と、さらに困惑する事態になったのでした。
「…一万円くらい?…じゃ足りないか… ! 」
「じゃあ二万円?…」
…という訳で、フミを中心に僕たち家族は本堂前にて「ミココロ審査検討緊急会議」を行う流れになったのです。
「これって、アレですかね?…金魚とか熱帯魚を飼う水槽と同じような物なのかなぁ…!?」
「う~ん…でも燭台がずらずら入ってるからねぇ!…お寺さんだし、特別に作らせた物かも知れないよ… ! 」
「だとしたら結構な値段するかもなぁ…!?」
…意見はそれぞれいろいろと出されましたが、そのためなかなか金額決定には至らず、家族に混迷が続きます。
「…なら、三万くらい出せば良いんじゃない?…実際にはそこまで高い物ではないと思うよ…!」
…長引く会議に少々面倒くさくなってきて僕がそう言うと、
「お前、簡単にそんなテキトーなことを言うんじゃないよ!…実際には一万円くらいだったなんていう話だったら癪じゃないか!それに…現実的に三万というカネはさすがに財布に痛いわよ…!」
フミが言いました。
「でも基本的には、"御心のほどで良い" 訳だから実際の金額に合わなくても構わないんですよね!…だったら一万円でも良いんじゃないですか? 」
「いやいや、だからそれこそ僕たち一家の "御心" が試されているってことだから…実際の金額よりかなり下だったらマズイでしょ?…住職さんにケッ!とか思われるぜ」
「…そうなるとやっぱり、実際の金額よりは上で、誤差が少ない線のものを出さないとダメってことですよね?…」
「…う~ん」
…思いがけずもミココロ会議は結論がまだまだ出そうな感じには無く、一家は混迷の深みにズブズブとはまって行ったのです。…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます