第26話 酒だ飲めや歌え
馬の尻尾亭、冒険者ギルドの近くにある冒険者たちの宿兼食事処だ。一般の客も利用できるが、ほぼ冒険者の寮的なものになっている。
「おかわり」
今、背中のルーナが七回目のおかわりです。いったいどんな夢を見ているのでしょう。ギルドとここまでは、そんなに離れておらず時間もそれほど経っていないのにかなりのハイペースだ。そもそも、ルーナの寝付きの良さがハンパない。おんぶするのときに俺の首に手を回した瞬間、「いただきます」と寝言を言うのは怖すぎるからやめてもらいたい。
「おかわり。心配ないまだいける。いまここで私は限界を超えるんだ」
まあ、そんな感じで彼女が八回目のおかわりと自分の新しい可能性を見出している間にみんなが待っている馬の尻尾亭に到着した次第であります。
何度か前を通ったことはあったが中に入るのは初めてだ。
「やばい、無駄に緊張してきた」
なんだろう、こういう初めての場所に行くって言うのはいくつになっても慣れないね。しかも、入口の扉はウエスタン扉になっていてオッシャレーな感じだし。
でも、まあ、行くしかないから行くけど。
「やっぱり限界。私はここまで……」
俺はルーナが謎の限界を迎えたのと同時にお店の扉を開けた。
おお、中は結構広いな。それなりの数のテーブルとカウンター席、ちょっと楽器が演奏できそうなスペースもある。あ、あと制服なのかな、ウエイトレスの女の子の格好がかわいい。なんかヒラヒラしてる
「きたきた、メリッサこちらですわ」
早速リタさんに声を掛けられた。声の方を見ると他のギルドの面々はすでに集まっている。リタさんとその仲間、アキムさんに用務のおじさん、その他の冒険者、あと知らないドワーフのおじさんと。うわ、クレーマー野郎とナンパ野郎ズもいる。気まずい。
あ、あとイリーナさんは妊婦さんなので今回は遠慮をするとの事です。
「すみません、お待たせしました」
「別によろしくてよ、特に待っていないわ」
本当だ、もうすでに飲み始めている。自分で言うのはなんだけど、この世界には主役を待つという風習はないのだろうか。何度か目のカルチャーショックだ
「ほら、ボーとしてないで、とりあえずルーナをここにおろしなさい」
軽いショックで少し止まってしまった。言われた通りにルーナをリタさんの隣におろす。あれ、なんか肩が湿っている気がする。
「ほら、ルーナご飯ですよ。起きなさい、もう、こんなによだれ垂らして」
リタがルーナの口から垂れているよだれを拭いた。うん、確かに、これはもうお母さんと呼んでも過言ではないな。
それとやっぱり背中のこれ、よだれだな。
「えっリタ? 何故ここに? ごめんなさい、せっかく応援に来てくれたのに私はもう食べられない」
「なにを、訳のわからないこと言っているの。あなたまだご飯食べてないでしょ」
「本当だ、私お腹空いてる。これならまだ闘える。ありがとうリタ。これで私はいける。限界の向こう側へ」
そんな二人のやりとりを横目に用意されてる席に着く。相変わらず仲良いな。
「はい、麦酒です」
「あれ。まだ頼んでないですけど」
俺が席に着くのと同時にウエイトレスさんが目の前に木製のジョッキを置いた。もしかして、この世界はお通しがお酒だったりするのだろうか?
「すぐ乾杯できるように私が頼んでおいたのよ」
なるほどの気配り。多分このお酒が元の世界のとりあえず生てきなのみものなのだろう。
「それじゃあ、アキム、メリッサも来たことだし、仕切り直してくださる」
リタに促されてアキムさんが立ち上がる。
「あーあー。それでは僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます。えー本日はお日柄も良く」
「長い。かんぱーい」
アキムの挨拶の途中で他の冒険者達が割り込む。完全に身内ののりだ。こういうの初めて参加する集会だとのり方がわからないやめてほしい。
それにほらアキムさん、ちょっとしゅんとしてるし。
「どうしたのメリッサ。ほら、遠慮せずにじゃんじゃん食べなさい。お代はギルド持ちですからね。オーホッホッ木ッホッ」
たしかに、リタさんの言うとうり今は目の前の酒とご飯だ。実はこっちの世界に来てからまだまともな料理と呼べるものをまだ食べてないんだよな。お店で食べるにも、こちらの金銭感覚が掴めてないからどれぐらいの値段が相場かわからないし。
一応一人暮らしが長かったからある程度の自炊はできるのだけど、この世界の市場に並ぶ物はしらない食材と調味料ばかりだ。つまりとりあえず塩振って焼けば食べられる大作戦状態だった。
ゆえに今は異世界のはじめての料理にわりとテンション上がっている。
「いただきます」
手を合わせるおなじみのポーズ。つい無意識でやってしまったけど、こういう癖ってぬけないね。
って、あれみんなやたらこっちを見てる。
「メリッサ。変わったお祈りね。あなた田舎の出って言ってらしたけど出身って何処なのかしら」
しまった。こんなことからもボロがでるのか。完全に油断してた。出身地? なんて答えればいいんだ。
「コーラムバインですよ」
答えに困っている俺をみて、アキムさんが助け船を出してくれた。コーラムバインが何処なのか全くわからないけど、とりあえず全力で乗るしかない。
「はい。コーラムバインの田舎のほうで……」
あれ、みんなの顔が優しいような悲しいような、複雑な顔に変わってる。えーアキムさん。コーラムバインってどんなところなの?
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