第25話 歓迎会をやってくれるって 2

俺はコップになみなみと注がれた牛乳を一気に飲み干した


「見たか異世界。これが現代知識チートだ」


 ドヤ! 


 なんかお酒を飲む前に牛乳を飲んでおくといいらしいぞ、と前に会社の先輩に聞いた。これぞまさに現代知識。

 あと、お酒を飲んでる時に鉄分が多く含まれている物はあまり取らない方がいいとも言っていた。なんか肝臓に負担がかかりすぎるんだって。だからみんなも気をつけろよな。


「メリッサ何してる?」


 突然声をかけられ体がビックとする。俺は自分の顔が一気に赤くなるのを感じた。


「ルーナさん起きてたんですか?」


「うん、起きてた」


 見られてたー。まじか、やべえ、完全に油断してた。すっげえ恥ずかしい。


「いつから起きてました?」


「メリッサが二階から花柄のワンピを着て降りてきて、やっぱ違うか、とか言いながら二階にもどってまたギルドの制服を着て戻ってきたあたりから」


 えっうそ、まじかそこから見られてた。


「いや違うんですよ。イリーナさんに服をいくつか頂いたので、ちょっと着てみようかなとおもっただけでして」


 ちょっとおしゃれしてみようかなと思いまして。

 でも、なんかおっさんが女装してるみたいな気分になって結局は着慣れた制服のほうに戻っただけというか、なんというか。


「さっきのワンピースも可愛かったのに」


 えっちょっとやめて褒めないで、本当に女装に目覚めそう。いや、別に女装ってわけでわないんだけどね。なんだろう自分のアイデンティティがあやふやになる。


「それより、メリッサ私にも牛乳ちょうだい」


「あ、ごめんなさい、気づかなくて、ちょっと待ってください」


 カウンターの裏からコップを取り出してかめから牛乳をそそぐ。

 ちなみにこの世界の牛乳はわりと日持ちするらしく日陰に置いておけば一月は大丈夫らしい。


「はい、どうぞ」


「うん、ありがとう」


 ルーナは俺が牛乳を渡すと美味しそうに飲み出した。

 あっ、そうだ、ごめんごめん。いきなり牛乳の話から始めてしまったので、なぜ今こんなことになっているのか、わけがわからないよね。おっけい、おじさんに任せろ。現在の状況をわかりやすく、先ほどのリタさんとのやりとりで簡単に説明するね。


「歓迎会ですか?」


「そう歓迎会。同じことを何度も言わせないでくださる。このあと、適当に仲間を呼んで馬の尻尾亭でやるから、仕事が終わったらきてちょうだい。あと、ルーナをそこに置いていくから、ついでにつれてきてくださる。それでわ、私は先にいっておりますから、御機嫌よう。オーホッホッホ」


 といった具合で有無を言わせず、一方的にまくしたてられた次第です。

 でも、歓迎会をやってもらえるのはとっても嬉しいですし、それに何よりお給料を前借りしている状態では手が出しづらかったお酒が飲めるということはとてもありがたいことです。

 まあ、そんななんやかんやがあってワクワクしながら仕事をおえたところです。

 一気に説明してなんだかのどが渇いた。も一杯牛乳を飲んでおこう。


「ところで、メリッサは違う世界から来たひとなの?」


「ブウーへ、ゴウホ、ごほごほ」


「メリッサ、きたない」


 不意の質問に驚いて思わず牛乳を吐いてしまった。えっ、うそ、なんでバレた。いや、大丈夫落ち着け。まだあせるような時間じゃない


「いや、ごめんなさい、ちょっと変な質問におどろいてしまっただけで。異世界から来たなんてことはぜんぜんありませんよ。ほんと、生まれも育ちも、この世界ですよ」


「そう、なら別にいいのだけれども。ところで、メリッサはセーラー服とブレザーどっちがすき?」


 なんだその質問? 今の話になんの関係があるんだ?


「そんなの決められるわけないじゃないですか。清楚ながらもどこか少女のあどけなさを残すブレザーも、清純でありながらも乙女の活発さを表現するセーラー服も、それぞれにそれぞれの美しさがあります。」


 そう、この問題はそんな簡単に決めていいことではない。


「メリッサ、この世界にはセーラー服もブレザーもない」


「そんな、そんなことって、ならこの世界に何の意味が」


 視界が真っ暗になる。残酷すぎる告知。ショックで立ってられない。そうかこれが絶望という物なんだね。


「メリッサ、ごめんそんなに落ち着こむとは思ってなかった」


「落ち込むに決まってるじゃないですか。制服のない世界なんて


「というか今はそんなことで絶望するところじゃない。違う世界から来たことにについてボロが出てしまったことにあせるべき」


「な、なんて、巧妙な話術。あいてに絶望感を与え、否定する気力までうばうとは」


 完全に術中にはまってしまった。サスペンスで崖に追い込まれた犯人達はこんな心境なのだろう。


「そんな大したもんじゃない。というか私をツッコミに回すなんてメリッサは恐ろしい子」


「それで要求はなんですか?」


 ここまで追い詰められたんだ。もう自分に逃げ道はない。人生は諦めが肝心だ。


「別に、脅したいわけじゃない。メリッサはこの世界で何かやろうとしているのか聞きたかっただけ」


 なんだろう、その質問の意図がわかんない。


「何かって、まだなんとか就職できたってところで今は考えてないです。冒険者みたいなことはできる気がしないし、元の世界の知識だって旋盤もフライスも無ければ、ネジの一本も作れませんもん」


 現代知識チートみたいなものは異世界転生もののお決まりみたいなところがあるけど、車やテレビの存在を知ってても造り方を知っているわけではない。一般知識しか持ち得ない庶民が転生しても、実際役に立つようなものなどそんなにはないのだろう。


「そう、それなら良かった。もし、余計なことをするつもりなら、メリッサをどうにかしなければならなかった」


「えっ、いまさらりと何か恐ろしいこと言いませんでした?」


「細かいことは気にしない。それよりもう行かなくてもいいの?」


 すっかり話し込んでしまった。リタさんたちも待ってるだろう。


「そうですねそろそろ行かないと」


「メリッサ、おんぶ」


「自分で歩いてくださいよ」


「え〜、私あなたの秘密知ってる」


「早速脅しに使ってるじゃないですか」


「もう、細かいことは気にしない。はやく」


「仕方ないですね今回だけですよ」


「わーいやった」


 ルーナは鋭い子かと思ったけど、無邪気なところもあるんだな。でも、なんでこの子はこの世界に存在していないセーラー服とかのことを知っているのだろう。まあ、細かいことは後ででいいか、とりあえず今は酒だ。俺はルーナを背負うとギルドを後にした。

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