第24話 歓迎会をやってくれるって
あれから三日がたちました。どうもメリッサです。
おかげさまで、この生活にもだいぶ慣れてきました。朝の目覚めの時には「あれ、もしかして俺たち入れ替わってる?」と冗談が言えるくらいには余裕が生まれます。
「ゴブリン一体が、銀貨二枚は少なすぎだろうが」
そんな俺は今、冒険者の男に怒鳴られている。そう絶賛お仕事中です。
「そんなことは、ないです。これでもギルドとしては多く出していまして」
ダン、と机が叩かられる。
「ああん、俺が少ないって言ったら少ないんだよ。たくお嬢ちゃんじゃ話になんねえな」
もうやだよー。なんだよー。こえーよー。ナンパの次はクレーマかよ。なんとなくこの仕事にも慣れて来たと思ったらこれだよ。ちくしょう。
「あなた、たかりならよそでやってもらえます」
そんな絶賛お困り中な俺に、金髪たて巻き髪の救世主が怒鳴っている冒険者の後ろから現れる。
「リタさん!」
リタはあいかわらず豪華な髪型に質素な布の服にプレートメイルを付けたアンバランスな格好だ。
「あなたが倒したのは、はぐれのゴブリンでしょ。銀貨二枚でもたかいわよ」
「ちぃ、俺が悪かったよ。たあく、お嬢がくるとはついてねえな」
男は机の銀貨をかっさらうように取るとそそくさとギルドを後にした。
「リタさん、ありがとうございます」
男と入れ替わりリタがやってくる。この前と同じでリタの後ろにはイケメン執事とネコミミメイドがいた。しかし前回と違って、何故か執事の背中に爆睡中のルーナを背負われている。
「別にいいわよ。私は早く報酬が欲しいだけだから。でも、あなたもこれくらいは対処できるようになりなさいな。ほら、あっちのイリーナを見習ってごらんなさい」
そう言ってリタが指差す方向を見てみる。
あーうん、何か揉めていたのかイリーナさんが冒険者をはり倒しての眉間に剣を突きつけていた。
ていうか、元気すぎるだろあの妊婦。
「いえ、なんというか、あの対処法は私が以前いたところじゃ、写真を撮られてSNSに上げられて、炎上させられるっていうか」
「あら、シャシンだとかエスエヌエスだかはよくわからないけど、あれぐらいで火をつけられるなんて、あなたも物騒なところに住んでいらしたのね」
「その解釈は間違っているというか、でもちょっと合っているというか」
「そうなの? まいいわ、そんなことより、これ早く済ませて頂けるかしら」
そういうとリタは麻袋を取り出してカウンターに置いた。
「オークが十一体いたわ、情報よりも多かったけど、そこはサービスしてあげる」
俺はリタが持ってきた袋の中を確認した。人間の耳と豚の耳を足して二で割ったような尖った耳が何枚か入っている。
うん、グロい。
冒険者は毛皮が取れたり、食べることができたりする魔物は討伐後そのままギルドにもって帰ってくる。それで、その後に商人ギルドに持って行ってもらい加工屋や商店に卸される。そうして市場に出た売り上げの一部がクエストの報酬とは別に冒険者とギルドに還元されるシステムだ。
しかし、ゴブリンやオークみたいな、素材としては役に立たない亜人系の魔物は、討伐の証に耳だけ削いで持ち帰り確認できたら、その場で報酬が払われる。
そしてその確認作業を言うまでもなく、受付の俺がするわけで。
「九、十、十一っと、はい、たしかに十一枚確認できました」
まだ血がついているし、日本にいた頃はお肉といえばスーパーに並んでいるある程度の加工をされたものしか見慣れてない。たがらこんな風に形が残っていて、それに、なんか人の耳にも似てるから余計にグロくみえる。
これといい、クレーマーといい、この仕事、なんだかもう挫けそう。
「あなた随分と嫌そうに数えるわね。」
「あ、すみません。顔に出ちゃってましたか」
「別に気にしなくてもいいわ。あなたも田舎から出れきたばかりで大変でしょう。ゆっくりなれればいいのよ」
あれ、やばい泣きそう。今は見た目はリタと同い年くらいだけど、おそらく自分よりも10歳くらい年下の女の子の優しい言葉で泣きそうにになるなんて。
俺はここで生きていかなきゃいけないんだ。もっとしっかりしろ俺。
「すみません、ありがとうございます。努力します」
「まあ、頑張りなさいな。それより、ちょっと聴いていただけるかしら」
「なんでしょうか?」
さっきまで和やかっだった、リタの表情が真剣になる。
「今回のオークの群は、なにか様子がおかしかったわ。なんていうか、数の割には巣がちゃんとしてなかったといか、どこからか無理矢理連れられてきたみたいな感じがしたわ。気のせいかもしれないけど」
なにその、この後に何か大きな事件がありそう、みたいな報告は。
「わかりました。そのようにアキムさんには伝えて起きます」
「ええ、願いしますわ。それじゃあ、報酬をいただけるかしら」
またリタの表情は和やかなものに変わった。
「はい、いま出しますね」
カウンターの裏に予め用意しておいたリタ達の報酬が入った袋を取り出す。
「金貨十枚です。分配はそちらにお任せしても大丈夫ですよね」
「ええ、大丈夫よ。銅熊の子達にはもう取り分を渡してあるから。あとは……」
リタは袋から金貨を二枚とりだし、イケメン執事に背負われて眠っているルーナにわたそうとする。
「ほらルーナ、あなたの取り分ですわよ。起きなさい」
「お母さん、あと五時間寝かせてよ」
あいかわらず抑揚の無い喋り方でルーナは答えた。
「あなたもう八時間は寝てましてよ。それに誰がお母さんですか。ていうか、このやりとり何回目だと思ってるんですの」
「リタは、なんやかんや面倒を見てくれる。これはもう、お母さんと言っても過言ではない」
「過言ですわよ。というかあなた、寝ぼけてじゃなくてわざと間違えてらしたの」
仲良いなー。この二人の漫才は、もはやこのギルドの名物らしい。
そんな二人の会話を、微笑ましく見ていたらリタがこっちに振り向いた。
「そういえばメリッサ、仕事が終わった後って暇かしら?」
「ええ、暇ですけど」
そう俺が答えるとリタは笑った。
「なら良かったですわ。まだ、あなたの歓迎会をやってないでしょ。今日やりますわよ」
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