第23話 アキムと魔導士ギルド
ハリーリクの外れにある建物。全体を植物のツルで覆われ、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。建物の入り口には本と杖をモチーフにした看板がかかげられていた。
そして、その建物に出入りしている者達も、どこか浮世離れした怪しさを身にまとう。
魔導士ギルド。魔導を極め、世界の真理に近づこうとする者が集まる場所。
まあ、仰々しいことはいっているが研究内容は古代魔法や高度精霊術だけでなく、痒いところに手が届く便利な生活魔法まで多岐にわたる。
そして今、アキムはそんな場所に訪れていた。
「あまり気分は乗りませんが」
アキムは魔導士ギルドに正面のドアから入った。エントランスは吹き抜けになっていてそのまま二階に上がれる階段がある。その二階の手すりに赤い鴉が一羽、止まっていた。
赤い鴉がアキムを見つけて飛びだす。そのまま室内を一周するとアキムの近くに置いてある帽子掛に止まった。
「おうおう、この俺様の城に見知らぬ顔のやつがいるな。お前はどこのどいつだい」
赤いカラスはアキムを睨みつけながら、台詞に似つかわしくない甲高い声で言った。
「私ですよ。冒険者ギルドのアキム・ロージンです。覚えているでしょ。ミスターカフカ」
カフカと呼ばれた赤いカラスがアキムの全身を見て答える。
「いや、知らねえな。俺様は鳥だからすぐに忘れちまう」
「まったく、あいかわらずですね貴方は」
アキムは懐に手を入れるビスケットを一枚取り出しカフカに渡した。カフカはビスケットを受け取ると足を使って器用にバリバリと食べだす。
「ああ、思い出したよ。アキムじゃないか。何しにきたんだ」
カフカはビスケットを食べて機嫌が良くなったのか、友人のようにアキムに問いかける。
「仕事の報告に来たんですよ。貴方達のマスターはいますか?」
「残念だったな、今出かけちまってるよ」
アキムは黙ってもう一枚ビスケットを取り出す。
「いや、どうだったったかな。いたかもしれないし、いないかもしれないし」
さらにもう一枚。
「はっはー、悪いね思い出した。さっき帰って来たところだ。二階にいる、ついてきな」
帽子掛けから二階に飛んでいくカフカを追いかけアキムは階段を登っていく。
「ほらよ、ここだ」
アキムが二階につくとカフカがドアノブに捕まり器用にドアをあけ、部屋に入った。アキムもカフカに続いて部屋に入る。
「おい、マスターお客さんを連れてきたぞ」
カフカは部屋に入ると、おそらくカフカ用の止まり木なのだろう。部屋の真ん中に置いてある枝木に止まった。
「カフカ、ノックしろっていつも言っているだろう」
部屋の中には怪しげな目だけが隠れる銀の仮面をつけ、赤いローブを着た男が一人、ケトルからお茶をティーカップに注いでいる。
男がアキムを見つけると仮面の下に笑みを浮かべた。
「ああ、アキムじゃないかよくきたね。今ちょうどお茶にしよと思っていたんだよ。君も一杯どうだい?」
「いえ、貴方のいれたものは、怖くて飲めませんよ」
「そうかい、それは残念だ」
仮面の男は露骨に落ち込んだ仕草をする。そして手に持っていたお茶を一口すすると盛大にむせた。
「オッホ、オ、ゴッヘ。確かにこれは飲まない方が正解だ。喉が焼けるように熱い。ああ、そこ座って」
アキムは勧められたソファに座った。
「それでアキム、今日は僕に会いにきてくれたのかな」
仮面の男が机を挟んでアキムの対面に座る。
「気色悪いのでやめてもらえますか。仕事の報告ですよ」
「なんだいアキム、君はいつもつれないねえ。まあいい、それで首尾はどうだい?」
アキムは机の上に紙を一枚取り出した。
「報告書です。ダンジョンの処分は完了しましたよ」
「ああ、君がいてくれてよかったよアキム。実験で使わなくなったダンジョンを数日間だけ放って置いたら、まさか魔物が住み着くなんてね」
ダンジョン破壊の依頼。それは冒険者の中でもランクが金獅子以上のものしか行えない。
アキムは仕事の経過を報告していく。
「では、報告は以上です。報酬は冒険者ギルドの方へお願いします」
「了解だよアキム。明日下の者に持って行かせる」
仮面の男はアキムの持ってきた報告書を懐にしまう。
「それですみません、貴方にちょっと二つ聞きたいことがあるんですが」
「なんだいアキム。なんでも聞いておくれ」
「あのダンジョンに貴方達のギルドで取り残されている女性とかいらっしゃらなかったですか?」
仮面の男は首を傾げわざとらしく悩む仕草をする。
「いや、居ないはずだが。アキム、どうしてそんなことを聞くんだい?」
「いえ、心当たりがないのならそれでいいんです。それともう一つ、私がダンジョンに入った時にはダンジョンコアがすでに無くなっていたのですが、それについてはなにか知りませんか?」
仮面の男は首をふる。
「すまないねアキム。知っていることなら何でも答えたいところだけど、あいにく思い当たることがないね」
「そうですか。それならいいんです。それでは私はこれで失礼します」
「おや、もういくのかい? もっとゆっくりしていけばいいのに」
「いえ、そういうわけにもいきません。私も忙しいんですよ」
アキムは立ち上がり出口に向かって歩き出す。
「アキム、双女神の祝福を」
「ええ、貴方にも」
アキムが部屋から出ていくのを仮面の男とカフカは見送った。
カフカが枝木から仮面の男の肩に飛び移る。
「マスター、あのまま行かせて良かったのか?」
「大丈夫だよ。実験は半分成功、半分失敗といったところだ。それに彼に挑んでも今の私では勝ち目はないからね」
そう言うと仮面の男はテーブル置いて居たお茶を一口すする。そして盛大にむせる。
カフカは素早く肩から枝木に飛び移った。
「マスター馬鹿なのか?」
「ゴッホ、げ、オッホ、オ、ゴッヘ。冷めればましになるかと、だめだ喉が焼けるように熱い。パジムの葉はお茶に入れたらだめだ」
苦しそうにもがく仮面の男をカフカは呆れて見下ろしていた。
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