第21話 ハリーリクの観光案内 4
まじかーどうしよう。上手いことやり過ごせないかな。
道は一本道。隠れられそうなところはない。相手はナンパ三下と細身の男となんかやたらでかいやつ。ていうかでかいな、二メートルくらいあるんじゃないか。
あれに絡まれたらかなり面倒くさそうだ。
ここを切り抜けるにはしょうがない、奥の手だ。
「アナちゃん。ちょっとごめんね」
「うわ、何ですか」
アナスタシア肩を掴み、後ろにしゃがみこむ。これであのナンパ三下ロリコン野郎はアナスタシアの可愛さに目を取らる。そうすれば俺には気づかずそのまま通り過ぎて行くはず。
名付けて、ロリコンはアナスタシアに夢中大作戦。
「あれ、そこにいるのはメリッサちゃんじゃないか。」
「普通にバレた」
ちぃ、このナンパ三下はロリコンじゃないのか。あっ、でも大男はガッツリアナスタシアを見てる。おいおい、やめとけ、犯罪の匂いしかしないぞ。
「私の後ろに隠れてるつもりだったんですか? ていうか、なんか私に対して失礼なこと考えていませんでした?」
「そんなんことはないわ」
なんだろう。イリーナさんといい、アナスタシアといい、この世界の人達は鋭い人が多いいな。
「やっぱり、メリッサちゃんじゃないか。兄貴、この子ですよ。新しく入った可愛い受付嬢って」
なんか、ナンパ三下が細身の男に説明しだした。
「へ〜」
細身の男が舐めるように全身を見てくる。不快だ。女の人はいつもこんなのに耐えているのか。大変だな。
これではもう逃げることは難しい。いや、まだ希望を捨てちゃいけないな。
俺はひざをはたきながら立ち上がり、ゴホンと咳払いを一つした。
「いえ、人違いですわ。私の名前はゴルゴンゾーラ小林。ただのしがない村娘。それでは私達は先を急ぐので、アナスタシアちゃんいきましょう。はい、それでは御機嫌よう」
完璧だ。これで完全に誤魔化せたはず。
「いやいやいや、メリッサちゃんでしょ。ギルドの制服着てるし」
「えっ、ウソ。バレた」
なんたる観察眼。こいつ探偵か。シャーロック何がしか。
「それは流石に私でも無理があると思うですよ。」
あれ、完璧な作戦だったのに。
「ていうか、こんな所でなにしてるの?」
「今、アナスタシアさんに街を案内してもらっていた所です」
「ならさあ、この後、俺たちとご飯でもどう?」
なんだよ。イリーナさんに叱られたのに懲りて無いの? なんなのその鋼のメンタル。そういうのは別の場所で遺憾なく発揮してください。
「ごめんなさい、お母さんに、お夕ご飯までには帰ってくるのよ。と言われているので」
「なに、その理由。いいからいこうよ」
「いや、もう、本当に結構です」
ああもう、しつけー。本当に面倒くさい。
「なんでそんなに避けてるんですか? メリッサさんはあの人たちと何かあったんですか?」
「何にもないよ。何にもなりたくないから避けてるんだよ」
「酷い言い草だな。別に何もしやしないって」
今まで黙っていた細身の男が両手を広げながらこちらにやってくる。
「初めはみんなそう言うです。優しい顔で近づいきて、気づいたら全てを奪っていくんだ」
「メリッサさん昔に何かあったんですか?」
「いや、特に無いけど。ほら、アナちゃん行こうか」
俺たちは、向かってくる男を避けてあるきだす。
「ちょっ待てよ」
細身の男にすれ違いざまに腕を掴まれた。
ていうか、そのセリフはあれだな。あの人のつもりか。明言するとどこからどういうふうに怒られるか分からないから、はっきりとは言わないが何タ何のつもりか。
そのセリフはイケメンが言うから良いのであってフツメンが言ってもなんかあれだぞ。
「ちょっと、やめてください」
俺の腕を掴んでいる手を振り払うために思いっきり腕を引き上げた。
「ふへぇ」
思わず変な声が出た。いや、これは俺が出した声なのか、今まさに俺の頭上を飛んでいる細身の男が出した声なのかちょっと分からない。
「「アニキィ」」
空中を飛んでいる男をみてナンパ三下と大男が叫んだ。
「え、何がおきたの」
おけぃ。ちょっと整理しよう。まず腕を掴まれた。それでそれを振り払おうとして思いっきり引き上げた。そしたら、何故か男は俺の腕を掴んだまま地面から離れそのまま俺の頭上まで浮き上がる。そして、今、細身の男は放物線を描いて、一昔前のアクション映画に何故か出てくるような空の木箱が積んである場所に、吸い込まれるように突っ込んだ。
「え、大丈夫? 何してんの?」
自分から突っ込んだよね? 俺じゃないよね? 俺あんな風に人を飛ばしたことは今までにないよ。
「おまえ、よくもあにきを」
なんか大男が怒ってる。
え、やっぱりこれ俺がやった感じなの?
「うおおおおおお」
うわ、大男が突っ込んでくる。
今それどころじゃ無いけどこいつ声かわいいな。
「暴力反対」
せめてもの抗議をして、俺は手で頭を守り目をつぶってしゃがんだ。とりあえずの防御姿勢を俺はこれしか知らない。
風を切り、迫ってくる大男の拳。
響き渡る鈍い音。
「いてええーー」
ちなみに今の声は俺の声じゃない。大男の可愛い声だ。ギャップがやばい。こんな状況でも、笑いそうになる。
そんなことよりも、いつまでも飛んでこない拳を疑問に思って目を開ける。あ、ガラスの壁。
大男が拳を押さえて痛がっている。
「防御結界! でもこんな丈夫なの見たことない」
なんだ。ナンパ三下が相当驚いてる。何これ、何が起きているのか分からない。
「くそう、こんなもんで」
「おい、やめとおけ」
ナンパ三下が止めるのも聞かず大男が再び迫ってきた。
「お願い、ほんとやめて」
俺は少しでも距離を取ろうと両手を突き出す。それが良かったのか悪かったのが。
「うわあああああ」
俺の手が触れるか触れないかのところで大男は思いっきり後ろに吹っ飛んだ。そのまま謎の木箱へ飛んでいく。
なんだこれ、なんか台湾の気功術みたいだな。いつから俺はこんな達人みたいな技を?
「おい、大丈夫か。」
ナンパ三下が二人を助け起す。
「くそう。覚えとけよ」
そのまま二人に肩を貸して立ち去っていく。そしてやっぱりそのセリフは言うんだ。
「あの、ごめんなさい。わざとじゃないですから。わざとじゃ」
去っていく三人にせめても弁明をする。怪我をさせてしまったのなら流石に悪いと思う。
「衛兵さんこっちです。こっちで喧嘩です」
騒ぎを聞きつけて誰かが衛兵を呼んだみたいだ。あれ、これちょっとやばいんじゃない?
初日から衛兵さんのお世話とかちょっと笑えない。
「はっ!」
さっきまで起きていたことについていけずフリーズしてたアナスタシアが動き出した。
「メリッサさん逃げるですよ。こっちですよ」
走り出したアナスタシアに俺はついていった。
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