第20話 ハリーリクの観光案内 3
「ここは大衆浴場です。中は結構広いんですよ」
俺は商店に向かうアナスタシアの後についていく。
そして、彼女は道すがら色々な施設を紹介してくれいた。
というか、お風呂屋さんあるのか。ギルドにお風呂なかったからどうしようかと思っていたんだよね。それに、俺は腐っても日本人。足の伸ばせるお風呂は大好物です。
あれ、でもちょっと待てよ。
「あの、アナちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、お風呂って男女別だよね」
「もちろんですよ。安心してください。というか、別じゃないところってあるんですか」
「そうだよね。ごめん、おかしなこと聞いたわ」
だよね、そうだよね。男女別だよね。だとしたら俺が入れるのは女湯だよな。
えっそれっていいのか? 女湯。いや、そりゃ入りたいよ。そこはすべての男性にとっての憧れ。決して足を踏み入れることのできない聖地。桃源郷であり理想郷。
今の俺は、そんな未知なる楽園へ踏み込む権利を有している。
いや、でも入っていいものなのか? 人として男として真のジェントルとして。
「どうしたんですか? 難しい顔をして」
「ああ、ごめんなさい、何でもないです」
しまった。今の葛藤が、顔に出てしまっていたか。
「そうですか。なんかあったら遠慮なくいってくださいですよ」
「なら、ちょっと聞きたいんだけど、私は女湯に入っていいと思う?」
「え、あ、はい、いいんじゃないですか?」
そっか、いいんだよな。いいんだよな。
「なんかよくわかんないですけど。はい、到着ですよ」
角を曲がるとひらけた場所に出た。
とりあえずお風呂問題は後で考えよう。
ていうか、すげー。昨日もちらっと見たけど近くで見るとやっぱり違う。
広場になっているところにテントが立ち並ぶ。テントには所狭しと商品が並べられている。色々な食べ物から雑貨まで。それに人と活気がすごい。
本当にテレビでしか見たことのないような海外のマーケットみたいだ。
というかなんだあの見たことのない野菜の山はなんだ。あそこに吊るしてある棒は何用の棒だ。やばいなんかテンション上がってきた。
「ここら辺は商人ギルドが運営してるんですよ。大体のものならここでそろっちゃいますよ」
「それならちょっと雑貨が売ってるところはあるかしら」
ギルドにベットやタンスなんかの大きな家具なんかはそろっている。だけど食器とか細々とした雑貨はそろっていない。イリーナさんにお金もらったしそこらへんのものを買っていこう。
「それならこっちですよ」
アナスタシアに案内された露店に行く。花柄や蝶々なんかがあしらわれたかわいらしデザインの食器やら花瓶やら様々な小物が置いてある。
「こんにちは、大将」
「おう、アナちゃん今日はお使いかい?」
なんだろう。こんなことを思ってはいけないのかもしれないが。並んでいる可愛らしい商品に比べてなかなか強面の店主だ。アナスタシアに大将とか呼ばれてるし。
「今日は違いますよ。昨日この町にきたメリッサさんに街を案内してたんですよ。それで、素敵なものを売ってる大将のお店を紹介しにきたんですよ」
「そうかそうか、そいつはありがとうなアナちゃん。それでそっちの嬢ちゃんがそうか。はっはっは、べっぴんさんじゃないか安くしとくからなんでも買っていってくれ」
「ありがとうございます」
中々気の良さそうな店主だ。並んでいるもののデザインが少々可愛すぎる気がする。
でも、せっかくアナスタシアが案内してくれたお店だし、俺は今女の子だし、こういうのもありか。とりあえず必要そうなものを適当に見繕った。
「よし、それなら全部で銀貨七枚だけど、嬢ちゃん可愛いから六枚に負けとくよ」
「ありがとうございます。大将もかっこいいですよ」
「かあー嬉しいこと言ってくれるね。しょうがねえ、五枚でいいよ」
チョロいな。商人として大丈夫かこの店主?
俺はポーチから銀貨を取り出して店主に渡す。
「へい、まいど」
包んでもらった商品を受け取る。必要そうなもの集めただけなのにそれなりの量になってしまった。その包みをポーチにしまう。このポーチ入れ口より大きいものも入る。本当に魔法は不思議だ。
ん? どうしたんだろう店主が驚いた顔でこちらを見ている。
「どうしたんです?」
「嬢ちゃんのそのポーチって下級のマジックポーチだよな?」
下級のマジックポーチ? たしかアキムさんはこのポーチをくれる時に下級のって言ってたっけ。
「そうだと思いますけどけど」
「はっはっは。じゃあ嬢ちゃんはただもんじゃないってことだな」
「いやいや、それほどでも」
サラリーマンの悲しい性か、思わず謙遜してしまった。だけど、どういうことだろう? このポーチも下級っていうぐいだろうからよくあるものだろうし。
あれ、というかアナスタシアはどこに行った? さっきまではいたんだけど。
周りをみわして見る。いた。別のお店を見てる。
「それじゃあまたきますね」
「おう、まってるぜ」
店主に挨拶してアナスタシアの方に行く。
なんかお肉焼けるいい匂いがする。屋台で何かしらの肉を串焼きで焼いてるみたいだ。
看板にはチェパロの串焼きと書いてある。
俺は屋台の店主に話しかけた。
「二本ください」
「あいよ、銅貨十四枚」
銅貨をポーチから出して払い、受け取った串の一本をアナスタシアに渡す。
「え?」
「食べたかったんじゃないの?」
「いいんですか?」
「うん、今日のお礼」
「ありがとうございますですよ」
よかったアナスタシアは受け取ってくれた。まあ、お礼にしては少し安いから今度ちゃんとしようと思うけど。
アナスタシアは口いっぱいにお肉を頬張りホムホムと食べ始めた。
「おいひいですよ〜」
なんだ可愛いな。まあ、喜んでくれて何よりだ。
よし、俺も食べてみよう。初めて食べる異世界の肉。緊張する。
恐る恐る一口かじってみる。
口の中に広がる肉汁のうまみ。ホロホロと崩れ食感もなんとも言えない。それらがスパイシーなソース見事にマッチしている。
まじでうまい。
ただ肉は豚肉でも牛肉でもない。なんの肉なんだろうチェパロって。そこだけ少し不安だが味は最高だ。
「それじゃあ、次はどこに行きましょうか?」
「う〜ん、じゃあ今度は景色の良いところを願いしようかな」
これだけ日本とは違う街並みを見て普通にちょっと観光したくなった。
「了解ですよ。それじゃあ教会の方に行きましょうです」
お肉を食べながら再びアナスタシアについて行く。
あれ、向こうから歩いてくる冒険者たちの先頭を歩くやつに見覚えがある。
うわ、できるだけ会いたくなかった。ナンパ三下じゃないか。
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