第18話 ハリーリクの観光案内
あの後、リタのメイドができたてのパンの匂いをルーナに嗅がせる、というファインプレーで見事ルーナを目覚めさた。
それから、「あなた、いつも寝すぎですわよ」「寝る子は育つ。これが真理」などの押し問答を繰り広げ、なんとかルーナにオーク退治の手伝いをさせる事に成功する。
リタ達はそれともう一組、別の銅熊の冒険者パーティーを誘いギルドを後にした。
「やっと、ひと段落つきましたね」
そういうと、イリーナさんは両手をあげ、ウーンと伸びをした。なんかセクシーだ。
あと、ちなみにリタ達が去った後に戻ってきたナンパ三下冒険者は、イリーナさんが軽く注意してくれた。なんだか、ここの冒険者たちはイリーナさんに対して、畏怖している節がある。イリーナさんは、いったい何者なんだろう。
「少し休憩しましょうか」
「はい」
先ほどまであふれていた冒険者達は仕事こなすため殆どがギルドに残っていなかった。
それにしても、冒険者というのはかなり多種多様だった。人から獣人、ドワーフからエルフまでいた。彼らと話していると、なんだろう、今更ながら日本とは別の場所に来たんだなと実感してきた。軽くホームシックだ。
「それじゃあ、お茶で……」
イリーナさんが言い切る前に一人の少女がギルドに入ってきた。
へえ、この世界には天使もいるんだ。
多分、身長的に中学生くらいかな。太陽の光を浴びて輝く長い金髪が歩くたびにサラサラとなびく。白いワンピースに身を包み、そこからはみ出る肌は白くつややかだ。そして、微笑みを浮かべた顔は月並みな表現だがまさしく太陽だ。後十年もすればかなりの美人になるじゃないか。
そんな少女が手に小包をもってこちらに歩いてくる。
「イリーナおばさっむぐ……」
はや、ものすごい速さでイリーナさんが少女の頬を鷲掴みにした。
「お・ね・え・さ・ん・ですよ。アナちゃん」
「おねいひゃん」
鷲掴されたまま、お姉さんと言う少女に満足したのかイリーナさんが手を離した。
「イリーナさんこの子は?」
「私の姉の娘です」
あれ、それって姪っ子て事? それなら、おばさんであってるんじゃ……
えっ。前髪が二、三本ひらひらと落ちていく。目の前には銀色に輝く刀身が。
「メリッサさん、あんまり余計なことを考えると早死にしますよ」
怖ええ。
目の前の刃物はイリーナさんの手から伸びている。昨日イリーナさんがアキムさんに抱きついた時にも思ったけどイリーナさんはどこから剣を取り出しているんだろう。
「姪のアナスタシアです」
「今日からここで働くことになったメリッサです」
この風景を見慣れているのか、アナスタシアは普通に自己紹介してきた。
そして、イリーナさんはいつのまにか剣をしまっていた。
「それで、アナちゃんなんの御用かしら?」
「これをイリーナおば……お姉さんに届けてって、お母さんから」
アナスタシアは持っていた、小包をイリーナさんに渡す。
イリーナさんは中身を確認して。
「あら、頼んでいたものですね。ありがとうございます」
お礼を言って、イリーナさんは小包をカウンターの裏にしまうと、何か閃いたような顔をした。
「あ、そうそうアナちゃんこの後お時間あるかしら?」
「超絶忙しいです」
食い気味の即答だった。
「馬の尻尾亭のアップルパイ」
「超絶暇です」
食い気味の手のひら返しだった。
「あら、それはちょうど良かったです。メリッサさん昨日この町に来たばかりなので良かったら周辺を案内してあげて下さらないかしら?」
「そんなことなら、お安い御用ですよ」
さっき、アップルパイに買収されていたような気がするけど。まあいいか。
それよりも。
「いいんですか?」
「はい、今ギルドも落ち着いていますし。行ってらしてください」
いいのか。昨日は少ししか見れなかった異世界の町並みというものはやっぱり気になるし、こんな美少女のガイド付きとは願っても無いことだ。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。アナスタシアさんよろしくお願いします」
「どーんと、任せてくださいですよ」
アナスタシアは自分の胸を張ってとーんと叩く。そんな仕草も可愛らしい。
「それじゃあ、イリーナさん行ってきますね」
「ちょっと待ってくださいメリッサさん。これを」
イリーナさんに革の袋を渡された。ジャラジャラいって結構重みがある。
「これはなんですか?」
「開けてみてください」
言われたとうりに袋を開ける。中には何枚かの銀貨と銅貨が入っていた。
「これは?」
いや、もちろん、これがお金なのは分かっている。だけどイリーナさんがこれを俺に渡す意図がわからない。
「お給金の前貸しです。メリッサさんこちらにきたばかりでお金もないでしょうし」
まだ働いて一日も働いてないのに給料の前借りをさせてもらえるのは有難い。
「ありがとうございます」
「それで、ついでに必要なものを揃えちゃってください」
受け取った皮袋をアキムさんから貰ったポーチにしまう。
「じゃあ、今度こそ行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
俺はアナスタシアに続いてギルドを後にした。
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