第16話 ギルドのお仕事 4

颯爽と去るカワウソの後ろ姿を見送った。


「今の方はなんだったんです?」


「商人ギルドの運び屋さんです。そして、今のが私たちの最初の仕事です。冒険者たちが狩ってきた魔物と、素材なんかを回収して商人ギルドで競売にかけてもらうんです」


 冒険者の取ってきた物は冒険者ギルドが直接、市場に売りさばくようなイメージがあった。しかし、確かに販売経路を持つ商人たちに、そのまま委託してしまったほうが効率はいいか。

 なんだか受付嬢というのは思っていより覚えなければいけないことが多そうだ。椅子に座って微笑んでいればいい簡単なお仕事です、とはいかなそうだ。


「それではメリッサさん、今日の流れをだいたい説明しますね」


「はい、よろしくお願いします」


 これから本格に的に仕事が始まるのだろう。気合いを入れていこう。


「まず、これから冒険者様と依頼者様がいらっしゃるので、それぞれの受付を主な業務とし……」


 イリーナさんの話はだいたい三十分くらい続いた。この世界での時間的感覚はわからないので、この三十分はあくまで日本にいた時の感覚だが。

 大体それだけの時間をかけての一日の業務内容と一連の流れをおそわった。


「そもそも、冒険者の最終目的は魔王を打倒することであり、これは勇者の……」


 そしてまだ、話は終わる気配はない。今は業務の話から冒険者という存在の話になっていた。なんだろうイリーナさんは一度話始めると長いタイプなのかもしれない。

 とりあえず、イリーナさんの話を要約すると、冒険者というものは、魔物を討伐したり、ダンジョンと呼ばれる魔力をもった洞窟や建築物の管理や破壊を行ったり、魔王の軍勢と戦ってみたりと幅広くやっているしい。

 というか、さらっと流されたか、魔王とか勇者とかいるんだ。何だかとってもファンタジーだ。だけど、女神だとか魔王だとかちょっと設定を盛り込みすぎじゃないか、大丈夫なのだろうか。


「冒険者をサーポートすることがそもそものギルドの存在意義でありますから、」


 そして、冒険者ギルドというものは、ボトルゴードとかいう国にある冒険者ギルドの総本山、なんでもスキンヘッドと呼ばれる本部を中心とした完全中立の組織だとかで、大体どの町に行っても一軒から二軒くらい支部があるらしい。


「要するに私たち受付業務に求められる大切なことは……」


 イリーナさんの話もだいぶ熱が入ってきたころだろう。ギルドの入り口のドアが開き、一人の女の子が入ってきた。俺はこの少女の登場を正直に言うと助かったと思った。

 彼女は、透き通るような白い肌に、光沢のある黒い髪を肩まで伸ばし、整った顔立ちだが、どこかまだ幼い少女のような、あどけなさを残していた。そして右目には黒い蝶がデザインされた眼帯をしている。年齢てきにはおそらく高校生くらいだろうか。なんだか目を離したら消えてしまいそうな、どこか儚げな雰囲気の美少女だ

 眠たそうに眼帯をつけていない方の目を掻きながら、とぼとぼとギルドの中に入ってくる。彼女の腰には剣が下げられている。


「おはよう」


 彼女はあくびを噛み殺しながら言った。


「おはようございます。ルーナさん今日も一番のりですよ」


 ルーナと呼ばれた女の子。冒険者ギルドにくる者だからおそらく冒険者なろだろう。なんか剣持ってるし。しかし、そうだとしても、俺には彼女について一つとても気になることがある。

 服装が完全にパジャマなのだ。羊のような動物が描かれたパジャマを身にまとい、さらにはその手にはおおきな枕をもっている。もちろんその枕が冒険の役に立つとは思えない。

 まだこの世界に来てから間もない俺でも、ルーナと呼ばれた彼女の格好が場違いなのはわかる。いや、でも、冒険者というものに、この世界に来てはまだそんなにあっていない。もしかしてこの世界ではあの格好が冒険するのにはスタンダードだったりするのか。

 気になること尽きないが、兎にも角にも人付き合いには第一印象が重要だ。ここは飛びっきりの笑顔であいさつしよう。


「おはようございます」


「あれ、知らない人」


 彼女は物珍しそうに言った。そりゃ、初めて会うのだから知らない人なのは当たり前だろう。


「はい、今日から……」


「まって」


 なぜだ、自己紹介をしようとしたら手をだして拒絶するようなジェスチャーを送られてしまった。あれ、何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。


「今とても眠い。そういうの後できく」


 抑揚の無い喋り方でそう言うと彼女は部屋の端の方に置いてある椅子まで歩いて行く。少し高めの椅子にぴょんと跳ねて座ると、大きなあくびを一つして、すやすやと眠ってしまった。


「えーっと、イリーナさん。あの方は?」


 俺は突然の彼女の自由な行動に戸惑う。だから、とりあえずイリーナさんに助けを求めた。


「銀狼の冒険者のルーナさんです。朝は苦手な方なのでとりあえず朝一番にギルドにいらっしゃるんです。その後に誰も起こさなければ、夕方くらいまでおきないんですけどね」


 なんだろう、それって真面目なのかそうじゃないのか。むしろ駄目な人に近いのではないだろうか。そして、あの格好はパジャマで間違いなかったようだ。

 まあ、それよりもまた一つ気になることがある。


「その銀狼ってなんですか?」


 その普通の女の子につけるには少し仰々しい二つ名みたいなものはなんなんだ。


「それは冒険者の階級です。冒険者のだいたいの実力を階級づけして、それによってどのお仕事をお任せするか決めるんです」


 なるほど、ゲームなんかでよく見るようなやつか。


「それで、銀狼っていうのどれくらいの階級なんですか?」


「えーと、上から金剛石人、白金竜、金獅子、銀狼、銅熊、鉄猪、錫蛇、亜鉛牛、鉛鼠です。銀狼というと中堅の冒険者といったところです。ルーナさんはああ見えて、とても強いんですよ」


 あそこで気持ちよさそうに寝息を立てている姿をみると確かにあまり強そうには見えないが人は見た目じゃないってことか。


「う〜ん、パンはパンでも食べれないパンに価値はない……」


 突然のルーナのおかしな寝言をきいてイリーナさんと少し笑った。初日の緊張が少しやわいだような気がした。

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