第10話 ようこそハリーリクへ 3

 門を抜けるとそこには中世ヨーロッパ風の景色が広がっていた。

 はい、ごめんなさい、いまとても楽をしようとしました。だって情景描写ってすごく難しくない? それをたったの一言で行ったこともない街の景色を勝手に想像してもらえる。そんな魔法の言葉が存在したら、つい使いたくなりませんか。それが人の心情というものではないでしょうか。

 はい、すみません真面目にやります。

 煉瓦造りの建物が並び、道は石畳で舗装されてる。少し進むと開けた広場にでて露店が立ち並びマーケットが開かれている。

 要するに、中世ヨーロッパ風の景色だ。

 それにしても、いろんな人種の人が歩いてるな。一番多いいのは普通の人間ぽいけど。やっぱり目立つのは、門番のカワウソみたいに動物が二足歩行で歩いていいるようにみえる獣人みたいな方々か。

 羊ぽい人と狼ぽい人が並んで歩いてる姿は、なんともシュールだ。

 彼らはどういった進化をたどってここに存在しているのだろうか。気になる。ダーウィンとか転生してこないかな。

 他には中学生くらいの身長で、がっちり体型のおじさんとか、アキムみたいに耳の長い人達がいる。やっぱりドワーフとエルフとかなのかな、ファンタジーでは定番だし。

 そうだ、今なら聞けるんじゃないか。その長い耳について。


「なあ、アキムさん。その耳……」


 アキムが嬉しそうにこちらを向く。


「ええ、そうです。よくわかりましたね」


 今度こそ察してくれたのかアキムが説明を始めてくれた。


「そこ妻の姉の旦那がやってる工房なんですけど。このピアスそこで妻が作ってもらったんですよ。私の誕生日にって」


 ちげーよ。わかってねーよ。そのピアスどんだけ自慢したいんだよ。

 まあいいや。アキムにはいろいろ世話になってるし今度機会があったらきこう。

 それより大きな問題があった。


「さっき門番にあんなこと言って大丈夫だったのか?」


 ギルドの人員補充の話は俺は全く知らないし、アキムと門番のカワウソが知り合いなら後々まずいんじゃないか。


「ああ、あれは大丈夫ですよ。メリッサさんさえギルドで働いてくれれば」


 働く? 俺が冒険者ギルドで?

 うーん、いや無理だろ。俺は普通の現代日本の住人。しかもシティー派だ。


「いやいや、ちょっと待って。そんないきなり言われても。よくわかんないけど冒険者って魔物と戦ったり何日も野宿したりするやつだろ。無理無理、俺にはできないって」


 普通にそこらへんを歩いてる野良犬にすら恐怖心を抱く人間がいきなり魔物と戦えなんて言われてもできるわけがない。実際ゴブリンに襲われたときだってめちゃくちゃこわかったし。


「それも大丈夫ですよ。不足しているのは、冒険者じゃなくて、事務の方ですから」


 事務仕事か、それなら魔物を倒したりとかよりできそうだけど。


「でも、いきなり、こんな住所不定の人間が行って雇ってけるものなのか」


 そもそもの問題だ。俺は素性が知れない。


「それも平気ですよ。私、ギルドマスターですから」


 まじか、アキムさん偉かったの。


「それとも、何か行くあてがありましたか?」


 もちろん、この話を断ればホームレス生活をスタートさせることになる。でも。


「いや、とてもありがたい話だけど。なんで今日あったばかりの俺にそこまでしてくれるんだ」


 ここまでいろいろ助けてもらったが、そもそもアキムには俺に親切にする理由がない。


「困ってる人がいたら助ける。それが冒険者の流儀ですから。それに人手不足っていうのも本当ですし。メリッサさんさえよろしければですが」


 なんだこいつ。すごい、いい奴なのか。いや、でもうまい話には大抵裏があるもんだからな。でも、確かに行くあてもないし。もし、なんかあったらその時に全力で逃げればいいか。


「それなら、雇ってもらえると大変助かります」


 それにアキムはそんなに悪そうな奴には見えないしな。


「ええ、こちらからもよろしくお願いします。あ、ほらあれを見てください」


 街道を抜けると、建物の隙間から湖がみえてきた。大きさは多分昔に見た芦ノ湖くらいの大きさだと思う。真ん中ら辺に島がありお城みたいなものが建っている。そして対岸にも街がみえる。


「すげー綺麗だ」


「ええ、私もこの景色がすきなんですよ」


 本当にこの景色だけでも観光地になりそうなくらい綺麗な場所だ。

 アキムが湖畔にある建物を指差す。


「あれが、冒険者ギルド、ポニーテールですよ」


 そこには煉瓦造りで、剣とランタンをモチーフにした看板が掲げられた建物のが建っていた。

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