第9話 ようこそハリーリクへ 2


 街道を、遮るように二階建ての建物ぐらいの高さの門が建っている。門の横には街を囲うように城壁が連なっている。

 というか、あの門で検問とかされたらまずいんじゃないか。パスポートもビザも何も持ってない。完全に不法入国とかになるんじゃ。


「俺は身分とか証明できるもの何も待ってないけど中に入れるのか? 密入国とかになるんじゃ」


「大丈夫ですよ。別に国境てわけではないですから。それに私は顔が利くので任せてください」


 本当に大丈夫なのか。なんかこういうのってすごく不安になる。

 そんな俺の心中をよそに無情にも馬車は門に近づいていく。そして門には当然のように門番が……? あれ大人にしては小さい、鎧を着た子供?


「お仕事、お疲れ様です」


 アキムが話しかけると、鎧の主がこちらを向く。

 カワウソだ。似てるとかそういうじゃなくて、完全にカワウソが鎧を着て立っている。


「ああ、アキムさんお戻りだすか?」


 喋った。カワウソが喋った。しかもちょっとな訛ってる。なにこれ可愛い。すげー可愛い。


「はい、今仕事を終わらして帰ってきたところです」


 アキムは親しそうに鎧カワウソ話しかける。どうやら二人は知り合いみたいだ。


「それはそれは、お疲れ様だす。それで、そちらのお嬢さんは?」


 しまった完全にカワウソ門番の可愛さに油断してしまっていた。

 やばい、このままでは身元不明なのがバレてしまう。ここは俺の会社員時代に身につけた、スーパー話術で切り抜けるしかない。


「ただのしがない村娘Aです」


「はい?」


「あんまり変なこと言わないでもらえますか」


 普通に怒られた。


「こちらはメリッサさんです。ギルドに人手が足りなかったので補充してもらったんですよ」


 え、なにその話し、初耳だけど。

 アキムさん、そんな大胆なウソこいて平気なの?

 とりあえず話合わせたほうがいい感じ?


「メリッサ・メイです。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくだす」


 そういうと、鎧カワウソは微笑みを返してくれた。こいつさては自分が可愛いのわかってやってるな。


「人手不足ってことは、ああ、そういえばイリーナさんもうずぐでしたね」


「ええ、そうなんですよ。今から緊張しちゃって」


「ダメだすよ。こんな時は男はドシッとしとかないと」


「はい、がんばります」


 なんだ、何の話だ? もうすぐだとか、イリーナって誰だ。


「それじゃあ我々はこれで」


 俺が置いてきぼりになってるのを察してかアキムが話を切ってくれた。


「はい、メリッサさん、ハリーリクは小さな街ですけど綺麗なところなんで、きっと気にいると思うだす」


「それは楽しみです」


 異世界の街並みってどんなだろう。鎧カワウソみたい可愛い人もたくさんいるんだろうか。なんか今更ながらワクワクしてきた。

 アキムが馬車を走らせる。


「双女神の祝福があらんことを」


 別れの挨拶なのだろうか、俺たちの後ろ姿に鎧カワウソが祈りを捧げてくれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る