第7話 ここは異世界? 3
まあ、悩んでてもしょうがないか。
「よし、行くか」
俺は立ち上がる。
「行くってどちらに行くつもりですか?」
うーん、さすがに森の中でナイフ一本サバイバル生活は、現代日本を生きていた普通のサラリーマンにはきついな。
とりあえずさっきアキムが言っていた街にでも行ってみるか。なんかしろ仕事あるかもしれないし。仕事がなくても最悪ゴミでも漁ればなんとかなるだろう。
「ハリーリクだったけ、行き方を教えてもらっていいか?」
「ここを真っ直ぐいくと、街道に出るのでそこを右に曲がって道なりいけばつきますけど」
「ありがとう。それじゃあ世話になったな」
俺は歩き出す。正直不安だらけだが、まあ、なるようになるだろう。
「ちょっと待ってください」
そんな、俺をアキムが呼び止める。まだ何か用があるのだろうか。
「歩いて行かれるつもりですか?」
「そうだけど、それ以外になにか方法が?」
なんだ、そんな当たり前の事を聞くために呼び止めたのか。
「ちょっとそこで見ていてください」
アキムは腕を伸ばすとパチンと指を鳴らした。するとさっきまで何もないところから突然に馬車が現れた。いや、馬車と言っていいのかそれを引いているのは牛とサイを足したような生き物だ。
とういうか、すげー本当に何もないところから現れやがった。
「これも魔法なのか? 召喚とかそういうやつ?」
「魔法には魔法ですけど、そんな召喚とかそんな大層なものではないです。光を曲げて、姿を隠していただけです。」
それでも充分すごいけどな
「よかったら、街までお送りしますよ」
「いいのか」
「ええ、あとちょっと待ってください」
そう言うとアキムは、馬車からローブと小さい革のポーチを持ってきた。
「その格好だと少々目立ちますので」
完全に忘れてたけど自分の格好を見てみる。血まみれで片手にはナイフを持っている。確かにこんな格好のやつを見たらすごく怖い。
「すまない助かる」
アキムからローブを受け取る。
血だらけの服は着替えればいいけれどナイフはどうしよう。とりあえず持ってきてしまったけど抜き身でこんなもの持ち歩いたら、完全に不審者だ。でも捨てるのもな。今、俺が持っている唯一の金目のものだし。
「ナイフはこのポーチを使ってください」
アキムが小さい革のポーチを渡してくれた。いやでもこれナイフの方が大きくて入らないよ。
「これだとちょっと」
「それ、中を見てください」
アキムに言われた通りとりあえず中を見てみる。
「何これすごい広い」
どうなってるんだこれ、マンションの1LDKくらいの部屋を上からのぞいてる感じだ。
「それ魔道具でして持ち主の魔力によって中の大きさがかわるんですよ。とは言っても、下級のものなのでそんなにたくさんは入らないんですけど。そのナイフぐらいなら入ると思いますよ」
ナイフぐらいならって言うか、もはや住めるレベルの広さあるけど。でもこれナイフ入れちゃったら、奥に行っちゃって手が届かないんじゃないか。
「でもこれ、一度いれたら取り出せなくなるじゃ」
「大丈夫ですよ。取り出したいものを念じれば手元まで来ますから。試しにやってみてください」
言われた通りにナイフを入れてみる。ナイフはポーチの底までゆっくりと落ちていった。
手を入れて念じてみる。ナイフナイフナイフイナフナイフ……
すると、底にあったナイフが瞬時に手元まで飛んで来た。
もう一度ナイフを落として、また念じる。俺はそれを何回か繰り返した。
「すごい、何これ楽しい」
「気に入ったのでしたら、それ差し上げますよ
「えっ、いいの?」
「ええ、大したものではないので」
こんなすごい物が大したものじゃないのか。この世界の他の魔法ってそんなにすごいのか。
とりあえず、もらえるならもらっておこう。
「いやなんかいろいろ悪いな。ありがとう」
じゃあとりあえず着替えるか。俺は着ていた白い服を捲り上げる。
「わわわ、ちょっといきなり脱ぎ出さないでください」
アキムは慌てて視線を外す。
なんだ、おっさんの着替えなど、みたいもんでも無いだろうが、そんなに慌てて目をそらす必要もないんじゃないか。
て、ああ、そうか。
服を脱いでから自分の体の異変を思い出した。
そういえば胸が出てるんだっけか。ナイフが刺さってたせいで完全に忘れてた。
もう一度、自分の体を確かめてみる。胸はやっぱりふくらんでる。腰はくびれてる。なかなかのいい身体だ。
そしてやっぱり、ジェントルマンがない。まじか、完全に女になってる。うすうすは分かっていたけど改めて確かめてみるとなかなかショックなものだ。
ていうか顔は? 顔はどうなってるの? 体がこれで顔が男のままなら、なかなかのモンスターだ。
とりあえず、急いでローブを羽織る。
「もう、そっちを見ても大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ああ、なかなか似合ってますよ」
振り返ったアキムがお世辞を言ってくる。でも喜んでいいのかわからない。まだ、全然気持ちの整理がついてない。
「そんなことより、鏡をもってないか」
「鏡ですか。もってはないですけど作れますよ」
そう言うとアキムは落ちていた木の枝で地面に何か複雑な模様を描き始めた。
「ちょっと待ってくださいね。丸描いてちょん。丸描いてちょんと」
いや、絶対それ丸描いてちょんじゃ書けないよね。
「よし、出来ました。それじゃあ発動させますね。ウォーターミラー」
アキムが模様の真ん中を棒でつつくと水が湧き出て、それが鏡のように光を反射した。
また魔法か。すごい簡単そうにやってるけど、魔法ってそんなに簡単にできるものなのか? 後で俺にもできるか聞いてみよう。
「ほら、鏡できましたよ」
「ありがとう」
俺は作ってもらった鏡を覗き込む。
そこに映ったのは銀髪碧眼。鼻筋が通り、つぶらな瞳。これが俺? えっめっちゃ美人じゃん。
でも正直、複雑な気分だ。たしかに体が女で顔がおっさんのモンスター状態よりかははるかにましだよ。そして、こんな美人と付き合ってみたいなーとか思ったこともある。でもね、成りたいとは一度たりとも思ったことはない。
「そろそろ、出発したいんですけど行けますか?」
鏡に見入っているとアキムが声をかけてきた。
「ああ、大丈夫だ、行ける」
ここでショックを受けてても女になっちまったもんはしょうがないか。少しづつなんとか受け入れていこう。
「あ、そうそう、結局、お名前は何てお呼びしましょうか」
馬車に向かっていたアキムが立ち止まって聞いてきた。
そういえばそれも未解決だった。
「じゃあ、ああああ、で」
「ああああですか?」
「ごめん、今の無しで」
危ない。いつもRPGとかで適当にああああって付けて後で後悔するんだよな。もうちょっとちゃんと考えよう。体が完全に女の子だから、女の人ぽい名前の方がいいのか。じゃあ。
「メリッサ……メリッサ・メイで」
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