第6話 ここは異世界? 2

俺は強烈な光に包まれた。ずっと暗闇の中にいたせいか、眩しさで目がチカチカする。自分の体がうごくか確かめてみる。手、足、首、問題なく動くようだ。ゴブリンの奴ら無駄に人のことびびらせやがって。

 それにこいつもこいつだ。急に人のことを引っ張って危ないじゃないか。


「良かった間に合いましたね」


 なんだよ間に合うって……

 轟音が響き渡る。


「えっ」


 振り返るとさっきまでいた洞窟が跡形もなく崩れていた。


「ダンジョンを支えてる魔力が完全に無くなってたんです。崩れるとは思ってたんですけど、ぎりぎりでしたね」

「そう言うことは先に言え!」


 思わず怒鳴ってしまった。急に引っ張ったのは助けてくれたからなのか。いや、でも怒鳴るよね。


「いや、すみません。わかってるもんだと思っていたので」


 そんな常識みたいに言われても困る。まさか自分がいた所が崩れるなんて想像できるわけがない。

 本当に今日は自分の知ってる常識外の出来事が起こりすぎてる。だめだ、なんかどっと疲れてしまった。

俺はその場にへたり込んだ。


「悪いけど、ちょっと休ませてもらえるか」

「ええ、どうぞ」


 よく考えたら、この男は俺を待つ義理などないがどうやら一緒に休んで行くようだ。確かに今、独りにされても困るし、案外このイケメンはいいやつなのかもしれない。


「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はアキム・ロージン。冒険者です」


 アキムと名乗った男はそう言うと握手を求めてくる。

 俺はそれに応えようと手を伸ばそうとした。


「俺は……あれ……えっと…………俺の名前は……あれ、自分の名前が思い出せない!」


 三十年も友に歩んできた自分の名前が全く出てこない。

 おかしい。家族、友人、会社、のことは思い出せた。高校生のとき教室で寝ていたら耳にコーラをかけられて、シュワシュワ音を大音量で聞いたくだらないエピソードまで思い出せる。

 なのに、自分の名前だけが、スッポリ抜け落ちたように思い出せない。


「どうしました?」


 アキムは心配そうにこっちを見ている。


「なんか霧がかかったように、自分の名前だけが思い出せないんだ」

「もしかして、こことは違う世界の方ですか?」

「えっ」

「いえ、私の知り合いに別の世界からきたと言う人がいるのですが、その方も自分の名前が思い出せないとおしゃっていましたし、あなたもそうでないかと」


 俺以外でもこんなわけわからん事になってる奴がいるのか。ていうか名前が思い出せないのは転移者あるあるなのか。自分が転移者だと、もう認めるしかないか。


「たぶん、そうだと思う」


 転移者か…………

 やっぱり俺は死んでしまったのだろうか。オフクロとオヤジはかなしんでるだろうか。独身だったのが不幸中の幸いか。あと姉さん、中学生のとき冷蔵庫の中のプリン食べたの俺です。ごめんなさい。


「人生五十年、下天のうちをくらぶれば夢幻のごとくなり」

「突然、どうしたんですか」

「せっかくだから辞世の句でも読んでおこうかと」


 さて一通り感傷にも浸ったし、これからどうしようかな。行くあてもないし。

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