第5話 ここは異世界?

「すみません。あなたが血まみれだったもんで、グールかゾンビと勘違いしてしまいました」


 俺は今、さっきまで俺のことを殺そうとしていた男と洞窟の出口を目指して歩いていた。男は道を手で持っている光るナイフで照らしている。ずいぶん変わった形の懐中電灯だ。


「私の顔に何か付いていますか?」

「いや、その、み・・・いやなんでもないです」


 その長い耳について、聞いてもいいものなんだろか。でも、初対面で身体的特徴のことを聞くのは失礼だよな。気にしてるかもしれないし。


「ああ、これですか?」


 そんな俺の気持ちを察してくれたのか、男は自分の耳を指差し訪ねてきた。

 俺は首を縦に振る


「このピアスは嫁にもらったんですよ」


 男は嬉しそうに耳につけているリング状のピアスちらつかせる。

 聞いてない。そんな幸せエピソード聞いてない。


「しかもこれ、オリハルコン製で魔力を増幅させる効果があるんですよ。」


 オリハルコン? 魔力? なんか、さっきからやたらファンタジー単語が聞こえる。それにあんな光るナイフなんて見たことない。あれは魔法・・・・? いやいやまさかな。でもさっき斬撃とか飛んできてたしな。でもなあ、そんなことありえなあよな。うーん聞いてみるだけ聞いてみるか。


「あの、間違ってたらごめんなさい。もしかしてそのナイフが光ってるのは魔法ですか?」

「はい、そうですけどなにか?」


 なんでそんな当たり前のこと聞くの的な顔された。えっ俺がおかしいの?


「すみません。その魔法とかって実在するものなんですか?」

「するもなにも先ほど、あなたも使ってたじゃないですか」

「使ってた? 俺が? いつ?」

「かなり強力な魔法結界でしたよ」


 あのガラスの壁みたいなやつか。やっぱりあれは俺が出してたのか。というか魔法だったのかあれ。魔法が実在する。まじか、そんな話フィクションでしか聞いたことない。

 なんだ、どういことだ。もしかして死んだら異世界に転生したとかそういうやつ?

 いやそれこそフィクションだろ。


「どうかしました?」


 俺が、むずかしい顔をして急に黙り込んでたからだろう。男が声をかけてきた。

 ちょとここがどこか聞いてみよう。それではっきりするだろう。きっと異世界なんかじゃなくて、熱海とかなんかそこらへんだろうきっと。


「ここはいったいどこなんですか?」

「はい?」

「いや、ちょっと事故に遭いまして、気がついたらこんなところにいたので、ちょっと状況が把握できてないんですよ」

「ああ、ここはハリーリクの近くのダンジョン化した洞窟の中ですよ」


 クッソ知らないとこだよ。熱海。熱海が良かった。海を見て温泉に入って女の人を足蹴にしてお家に帰りたかった。

 どこだよ。ハリーリクって。知らねーよ。ダンジョンとか言ってるし、本当に異世界なのか。いや待て、俺も全ての国の地名を知ってるわけじゃない。まだ希望はある。ワンチャン、グアムとかって可能性もある。


「国で言ったら何国ですか?」

「オーキッドです」


 知らねーよ。もうなんだよ。知らねーよ。パニックだよ。じゃあなんでお前は日本語を喋ってんだよ。


「さっきから顔色が優れない様ですが大丈夫ですか?」


 あ、これ日本語じゃない。ずっと日本語表記だったし普通に理解できたから日本語だと思ってたけど全然別の言葉だ。なんで俺はこの言葉を普通に理解して喋れるんだ。なんか目が覚めてからなんで、どうして、ばかりだな。


「自分の常識外の出来事ばかり起きててちょっと疲れました」

「外までもう少しですから、出たら少し休みましょう」


 洞窟に光が入って来た。出口が近い。そこで俺は立ち止まった。そういえばゴブリンが宵闇の女神は陽に当たったら死ぬとかなんとか言ってたよな。あれは別に俺は関係ないよね。宵闇の女神とか言う奴になった記憶はないし。


「どうしました。行きましょう」


 俺が外に出るのをためらっていると男は出口まで強引に俺を引っ張って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る