第27話 領主館の惨劇

……その頃の勇者一行は王太子殿下の謀略により、ライトニングハンマー家の領主の館に攻め入る直前であった。


「しかし本当にライトニングハンマー家が、私たちを攻めてくるのか?」

勇者が疑問を持って家宰ニールに尋ねた。


「えぇ、私が掴んだ情報によりますと間違いなく攻め入る様子で領地内で人員を揃えていたようです」

そう言いながら家宰ニールと勇者は遠巻きに領主の館の状況を見ている。

するとどんどんと人が館の中に集まってきた。


「どうです勇者様、私の言った通りでしょう。これから人員を揃えて奴らが攻めてくるはずです。その前にこちらから館に火をかけて攻めてしまえばいいのです」

家宰ニールの言葉に一瞬戸惑いを覚えた勇者ではあったが、結局のところ敵と思えるものが戦力を揃えているのは疑いようが無いので、火をつけることを決意した。

しかし、王太子の勧めで家宰にしたニールだが、本当に不気味なやつだ。確かにこういった謀略には使えるかも知れないが、いつ寝首を掻かれかねんと思う勇者であった。


「バーニング ファイア」


火の属性の上位魔法勇者は、領主の館に向かって放った。


立ち上る黒い煙を背に勇者とその一行はその場を後にした。


---


「あれは勇者殿か?」

リタはエリザベスにそう尋ねた

「遠目ではっきりと致しませんが、まず間違いはないかと」

エリザベスが惨状を見ながら曖昧な返事をしてきた


「まずい思ったよりも火の回りが早い。私は水の属性魔法で消火に回るので、エリザベスは周りを警戒していろ」

リタはそうエリザベスに伝えると高位の水魔法の詠唱に入った。


「ハイエレメンタル ウォーター」


リタの魔法によって水が館へと注がれていくが、火の魔法の勢いが強く、どんどん水蒸気となって消えていく。


「やはり水魔法では消しきれないかイチかバチかで氷魔法で凍らせるしかない」

氷魔法の詠唱入ろうとするリタをエリザベスが遮った。


「リタ様それはなりません。氷魔法では勢いが強すぎて、中に入る住民も死んでしまいます」


そこに、アラタ達が戻って来た。


「リタ、エリザベスどうしてここに?」


「どうしてはないだろう君の救援要請に無理をして駆けつけてきたんだ」

リタは少しイラついているのかいつもと違ってきつめの言葉だった


「アラタ、今はそんな場合ではない。館の火を何とかしなければならない」

エリザベスが諭すように二人の仲介に入った。


「アラタよく聞け。このままでは館の火は水の属性魔法では消し去ることはできない。危険ではあるが、氷属性魔法で一気にカタをつけるしかない」

リタが、俺に決断するように促してきた

「氷属性魔法で失敗するとどうなるんですか」


「もうすでにかなり危険な状況だ生きているかどうかも分からないその状況で氷属性魔法を使えば、火は消せることはあっても、命を永らえるかは保証できない」

リタは不安そうにそう答えた


「でもやらなければ、火は消えないということですよね。じゃあ、やってください」

ここですんなり決断することができなければ、領主としての立場はない。生死を分けるその瞬間の決断力が、人としての器を分かつ。アラタはまさしく正しい決断をし将器としての器の大きさを見せていた。


こくりと頷くとリーダーは覚悟を決めた表情で呪文を唱え始めた


「ブリザード」


リタはどうやら上位魔法ではなく威力を抑えた魔法で少しずつ消していくようだ。


「今だ、アラタ」

エリザベスがそう叫んだ瞬間にはアラタはもう、火の中へ飛び込んでいった。


「ラロ!サブリナ!何処だ」

大声で叫ぶが返事が聞こえない。館の中に響くのは俺の声だけだった。

中央の地下室の前でラロとサブリナが倒れていたのを見つけた。走りより二人を担ぎ上げる俺は急ぎ外へと走った。ラロが、か細い声でさえずる。

「子供たちが地下へ」


「二人を頼みます」

外に出た俺はラロとサブリナをエリザベス達に任せて、再び館の中へと飛び込んでいった。今度従士見習い達も俺について来た。

「俺達も手伝います」

「わかった出来るだけ多くの人を外へ運んでくれ」

地下室の扉を開けると煙がモクモクと出てきて室内が煙で充満していたのが分かった。中で倒れていた子供たちを順に外に運び出した。


館にいた人を外に運び出した時には、館の火は消え氷漬けの建物に様変わりしていた。

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