第24話 盗賊団の噂と勇者一行
しばらくの日数が経ち、ようやく村に見張り台が立った。東西南北と四方向に各一つずつで高さはおよそ10M程度だ。生木をそのまま使用し、高台にしている。賦役で囚人が頑張ったようである。
見張り台に登って望遠鏡で遠くを見れば2-3倍の倍率ではあるが依頼をしていた凹凸レンズの簡易版が完成して、これを使用する事により索敵をすることができる。この作業には二つに分けた従士達に作業に当たらせることにした。遠くを見て敵を発見すれば狼煙と笛を鳴らす。2組に分けられた従士達は一組はダンジョンへ。もう一組は見張りへ立つローテーションが組まれていた
従士たちは連日の様にダンジョンに入って行きメキメキと育ってはいるが、まだ子供の領域をでることはできない。だが、数年後には立派な騎士にはなるだろう手ごたえはある。ラロも部下を持つのが楽しいのか世話を焼いていた。そんな従士たちも俺の素振りの日課をみてから変わった。
「見えない」
「あれを毎日やってるのか凄過ぎる」
「強さの秘密はこれだったのか」
「俺達にもできるだろうか…」
素振りをする事は必要な膂力を得るということで、あながち間違いではない。
見よう見まねで素振りを行う彼らを見て俺はにっこりと笑っていた。
そんな穏やかな雰囲気が続く中で行商人よりあまり良くない噂を聞いた。それは盗賊団が最近また現れているという話だ。
レストラント皇国側から流れてきたようで、夜盗に見せかけた軍かも知れないと言っていた。警戒はしているが受け身に回ってしまっていた。位置が分かれば攻め入ることも可能だが、軍と呼べるものが我が領地では皆無で無理だった。エリザベスは毎年のように戦が起こると言っていた。今急いで従士見習いを鍛えているが間に合うだろうか。
そして攫われていった領民の奴隷の買い戻しだが応じる貴族は一つもなかった。やはり自分の騎士爵位という低い身分がそうさせたのか。買って行った貴族の都合なのかは分からないが難しいとサブリナから報告された。そのことを領民に伝える事はとても辛いことだった。俺はそのリストをサブリナから受け取り、ポケットにしまい込んだ何時の日か交渉できるかもしれないと思った。
……その頃の勇者一行は悩んでいた。
その理由はライトニングハンマー騎士より届けられた書簡にあった。
書簡にはこう示されていた。
『我が領地より人さらいにより失われた領民が奴隷としてそちらに売されているようである。ついては奴隷カテリーナに関しては身請けの金額を支払わらいますので買い戻しが可能かどうかを検討していただきたい』
「という書簡が届いているがどう思うかね」
「もう今更無理だな、カテリーナはパーティーに組み込んである」
勇者である土岐 正(とさただし) 35歳は少しだけ寂しそうな顔でそう呟いた。
「それではこの件に関して王太子閣下にご相談なさるのはいかがでしょうか」
最近王太子の勧めによって雇った家宰はそのように助言してきた。
「えーとそうだな、一応相談しておくことにしよう。王太子が上から権力で断ることで諦めてもらえてばいいな」
どことなく歯切れの悪い回答だった。勇者のパーティーにとってカテリーナはコンビネーションがどんどんよくなってきている今更失うのは惜しい
「わかりました王太子殿下にご相談してみましょうきっと良い答えがもらえるでしょう」
家宰は何の気なしに自信げに答えていた
「ああ、すまないがよろしく頼む」
どこか気にいらない様子で勇者がそう答えながら外に出かけるのであった
残された家宰は王太子殿下にその旨を報告にすぐさま向かったのであった
「王太子殿下、好機でございます」
部屋でゆっくりとくつろいでいた王太子殿下はフルーツを食べながらよくようにこう答えた
「好機とはいかがなものじゃ」
「はっライトニングハンマー家より奴隷の買い戻しについて勇者に書簡が届いてございます。これにつきましては、後ほど勇者が相談に来られるはずなので奴隷の買い戻しなどを認めないとおっしゃっていただきたいのです」
「いかなる狙いじゃ」
「 勇者とライトニングハンマー家を仲違いさせます。そのことにより、謀略により勇者にライトニングハンマー家を攻めさせます。なあに、奴隷を買い戻して戦力が低下した勇者に対して、ライトニングハンマーは、攻める企てを立てているとでも流布すればいいでしょう」
「悪くはないのだがもう一つ手が欲しいレスラント皇国を使おう」
ニヤリと笑った王太子の笑顔は、まるで、悪魔に魂を売った霊媒師のようだった
「レスラント皇国には私の手の者がおります。野盗に見せかけてライトニングハンマー領に攻めさせてみてはいかがでしょうか」
「おお、その背後から勇者が攻めいるのだな。これで二人の仲は決定的に割れるだろう。どちらもいずれは殺さねばならない者共。勇者に領民殺しの汚名を被せ、ライトニングハンマーは今回の2面作戦で殺してしまうということか。良案だな」
…ライトニングハンマー領にいる俺たちは、このような陰謀が企てられているとは知る由もなかった。
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