第20話 領地と家宰と従者

とりあえず俺とエリザベスは領主邸に入った。そこには家宰になる予定の男と従者になる予定の男が待っていた。


実は既にこの家宰は奴隷商とつながっていることが証言でも分かっている。なので到着するなり取り押さえた。

領主邸にある証書を全て洗いざらい調べてみた。やはり高金利でお金が貸し出されていて通常の農民では返せる金額ではなかった。


それらをお金が困っている領民が助けを求めて領主邸に向かい、この家宰が人の良い顔をしながらお金を貸していく。最後には奴隷商に証書を売ってお金に変え、払えなければ奴隷に変わってゆく。悪質な手管だった。


俺はとりあえず、この家宰を牢屋にぶち込んだ。奴隷商の一部の高い地位に居た物も同様に牢屋に居れた。これは後ほど王太子派の仕業かどうかを見極めるためである。


新しい従者はラロ・メンディエタと名乗った。年齢は俺と大体同じぐらいだろうか。エリザベスによると貴族の三男坊で食い扶持がないようだ。家督を継げない以上どこかで働くしかない。その中でも彼はかなり優秀な方だと紹介された。


「アラタ・カワカミだ。領地の名前は恥ずかしい通り名がついている。よろしく頼みます」

そう言いながら俺は右手を差し出した。

すると彼も右手を差し出しお互いに握手を交わした。

「いきなりで大変だがラロにはこの家宰の悪事の調査と新たな家宰と言うか家事手伝いをしてくれる人を領民から探し出して欲しい。家事手伝い兼事務員という感じだ。できれば算術に明るい人がいいな」


馬車の中ではいろいろ迷っていたが、いざ領民を守ると覚悟を決めれば案外すんなりと行動することができた。エリザベスには迷惑をかけるかもしれないが、奴隷の問題は見過ごせない問題であった。


領地を開拓する資金は、エリザベスからもらっていた準備金と、今回の騒動で奴隷商から取り上げた金額で賄えるだろう。準備金の金貨100枚。奴隷商の罰金が1店舗あたり5千枚の3店舗で15000枚だ。トータルで15100枚の金貨が資金となる。この1万5千枚近い金額の人間が売られていたかと思うと怒りで机を叩きたくなった。開拓資金を得ることはできたが、王太子が黙っては居ないだろう。明らかに仕掛けてくるだろう。


牢屋に捉えたもの以外は賦役を課すため北側の林の開拓に向かわす予定だ。奴隷商グループ50人は魔物が跋扈する林の中で賦役を終えなければならない。50人をいきなり北の林に放り出すわけにもいかず、とりあえずは牢屋の中に入ってもらった。


証文と照らし合わせ借金がなくなった事を領民に告げるととても喜んでいた。借りたばかりの者を除いては、ほとんどがその利息を支払っているだけだった。一ヶ月生活するのに必要な金額は金貨1枚と言われている。200人の農民の生活費は一か月あたり200枚で年に2400枚になる。準備金を失うことになるが今年一年は無税とすることをエリザベスと話し合った。奴隷商への罰金が上手く徴収出来れば問題ないだろう。


「私は反対だアラタ。無税としたら大量の難民が流れてくるだろう。彼らの食い扶持を作ることはできない。農作物はいきなり咲くことはない」

至極当然の話であり真っ当な理論であった。


「難民たちには農作業をさせて、賦役をしている者たちが木を切り家を建てていく。そのサイクルがうまくいってる間は難民は受け入れても罰金を使えば、収まるのではないかと思うんだけど……どうかな」

俺は高校生だ。はっきり言って領地の経験などない。思いついたことをでたらめに行っているだけで保証することなど全くできない。帰属関係で親の寄り子関係になるエリザベスにはきちんと伝えておかないといけない。失敗したら迷惑をかける可能性も非常に高いのだ。


「確かに奴隷で失った領民を難民で埋めるというのは一理あるかもしれない。成功するしないは賭けではあるな。何もしないよりはマシだろう。ただ私からはもうお金や人を支援することはできないと思ってくれ」

エリザベスは悲痛な表情で俺にそう伝えた。


「それは攻められてきた時に援軍は出せないという意味だろうか?」

俺はエリザベスの真意について確認を取った。


「そうだ援軍を出すことはできない。難民によって悪化した治安はアラタ自身の手で正さなければならない。難民の中には敵方の手のものも紛れ込んでいるだろう。獅子身中の虫を飼い続けなければならない。敵の手が見えない内は止めた方が良いと私は思う」


エリザベスのアドバイスは的確だった。難民の中に紛れ込んでいるスパイをあぶり出す方法が分からなければ無税としたり新たな政策を打ち出しても失敗する可能性が高い。


そこで俺は税金キャッシュバックキャンペーンを考えた。税金を納めた分だけ新しい農具や食料をプレゼントしていく。これならば取り敢えずは領民の生活も安定するだろうし難民も増えることはないだろう。だがいずれは難民を受け入れ領民を増やさなければいけない。その事については今後の課題になるだろうとエリザベスと話し合った。

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