第19話 領地へ向かう途中で

タゴサの村へ向かっている途中に騎馬の盗賊らしい軍団があらわれた。

「タゴサ村の人攫いだろう。判断はアラタに任せるよ。きっと君のところの領民だからね」

エリザベスは興味のなさそうに俺に全てを丸投げしてきた。バスの中から見える騎馬の数は3騎だった。オレ一人でも十分だと思った。

「アラタ左手側をよく見るが良い。たぶん人さらいから逃げてる人だ」

左手の方向に馬車とは逆方向に進む女性の集団の見えた。


俺は馬車から降りて迎撃態勢をとった

「アラタ、馬は金になる。出来れば無傷で確保したい。盗賊はお前のところの領民だから、どうでもいいぞ」


仕方がないので騎馬に載っている連中の足を狙って倒して行くことにした。中級ダンジョンを制覇した俺にとって彼らは非常に遅く、緩慢で相手には全くならなかった。

二人の男を足を叩き折って騎馬から落馬させた。残りの騎馬は女性の集団に向かっていた人質にするつもりなんだろう。俺はバックパックの中から野球ボールを取り出し騎馬に乗る相手に向かって全力投球をした。久しぶりの全力投球は身体強化魔法と相まってゴゥーとうなりを上げて騎馬上の相手に当たった。パッと見だが時速200 km ぐらいは出てた気がする。そんな速度で硬式ボールがぶつかれば当然ものすごい音がして相手はうずくまり気絶していた。


「エリザベスには女性たちの保護は頼むよ」

俺はそう言うと騎馬から落ちた男達を縛り上げていった。


俺は男の一人に尋問を始めた

「お前はタゴサの村人で間違いがないか」

「ああ、間違いない」

「金に困って行ったのだろうが、誰に指示された」

「誰にも指示なんかされてねえよ」

「そういうことではない、お前達はお金を借りて金に困ったんだろう。その金を貸した元の人間がそう指示したんじゃないのか。もしそうだとすればお前たちには温情の余地があるぞ」

俺はにやりと笑いながらそう喋った。

最初は相手も困惑していたが、俺の顔を見ているうちに意図を察した様だ。要は金貸しを売れという事だ。責任を擦りつけてしまえという意図で喋ったが汲み取って貰えたようだ。


「ああ、王都のアウザー奴隷店だ」

「そいつらは村にいるのか? いるんだったら俺を連れてけ」

「奴らは俺達が奴隷を連れて帰るのを待っているはずだ。案内する」


エリザベスは騎馬に乗り、女性陣に馬車の場所を譲ったようだ

「片付いたか。ほらお前の馬だ」

そう言って1頭の騎馬を俺に差し出してくる。


実は俺は馬に乗ったこともある。しかしその馬とはポニーだ。こんなでっかいアラブ産みたいな奴ではない。鞍はついているが鐙がついてないようだ。しかし俺は野球少年だ体育会系なめんなよと、ひらりと鞍に乗って馬を制御して見せた。罪人はひもで縛ってある。片足を引きずっているが気にする必要は無い。


犯罪者の案内でアウザー奴隷店の従業員らしい男にいきなり足を叩き折ってやった。

「おい手前は、ここがライトニングハンマー騎士領だと知ってて奴隷狩りなんかしてるのか」

「もちろんですよ証文もありますし、何の問題もございません」

「昨日俺が着任した段階で全て奴隷狩りは禁止している。ゆえに違法行為を我が領民に強いた罪として罰金刑金貨5000枚と現在までの借金は帳消しにする」

「そんないきなり現れて無茶苦茶言わないでくださいよ。初耳ですよそんなのは、王都で裁判しましょう」

「あほが。ライトニングハンマー騎士領だと言っておろう。言うこと聞けないのであれば死罪だ」

そうだ、領の借金は貸した人間が悪い。たかり過ぎだろ。こういうのは、金ある奴から奪うのが常道だ。


「そんなバカな」

男は愕然とした顔をして俺を見つめていた

「貴様も単なる店員なんだろう。貴様に奴隷狩りをするように命令した者がいるはずだ。そこに強制されていたというのであれば温情の可能性はあるな。さぁ名前を告げるが良い」


こうやって俺は3日ほどかけて奴隷商から罰金を取り借金を帳消しにして罪人をとらえた。罪人は1年間の賦役とした。元々エリザベスから借金苦で民が苦しんでいるとの話をきいていたので、全部デフォルトでチャラにする予定だったので、好都合だった。奴隷商は3店舗あり15000枚の罰金を課した。また捕まえた奴隷商グループは50人にのぼり全員に賦役を課してやった。補償金は金貨一万枚としたので、払いに来る奴はいなかった。賦役とは本来は農民に課せられる公共事業などの労働であるが、罪人や戦時投降者にキツイ賦役を課し領民の賦役を減らす方法もある。


きっと此処までだったら俺以外の奴が領主でもやった奴はいるだろう。でもうまくいっていない……という現実は何者かが邪魔をしているとか、何らかの原因があるはずだ。そこを深く探っていかなければいけない。暴力で来てくれるのが一番楽なんだけどな。そんなことを考えていた。


そうそう。暴力装置といえば、実は領主である俺の事だ。領民が逆らえない様に権限を持って暴力をふるうのが普通だ。だが、今回はその権限を使って悪事を働く商店から金をむしり取る。俺は領民が奴隷にされかけている時に決めた。絶対に領民は守る。敵対されたらやるだけやってやる。意地の見せ所だろう。


そんな俺をエリザベスは珍しいものを見るような目で見ていた。多分奴隷商を見逃すだろうと思っていたのだろう。 きっと奴隷商のバッグには勇者と王太子一派がいるんだろう。 だが現代人の俺は人を奴隷として扱うのは許せなかった。


タゴサ村に入ると村民を集めて集会を開いた

「奴隷商はもう片付けた。奴らへの借金も全部返さなくていいことになった。だが金を借りることになった原因はなくなってはいない。俺は騎士領を治める者として、これらの原因は取り除ければならない。そのためには住民全員の力が必要だ。協力してくれることを切に願う」


俺も住民に挨拶されるとワーっと拍手で迎えられた。


エリザベスは一杯食わされたような顔をしていた。

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