第二章 騎士編
第17話 叙勲式
王都は始まりの街アルスから馬車で2時間ほどの距離にある。
ガタゴトと揺れる馬車の中に俺とリタ、エリザベスの3人が所狭しと座っていた。
これから馬車で王都に着くまでの空いた時間に式典の儀礼や領地の事などを細々と説明を受ける予定になっている。
「分かるかアラタ。これからお前は私がいるダグラス伯爵家の一員となる。ダグラス伯爵家はリタ王女を推挙している。これはアリスのいるザザーランド公爵家と同様だ。こちらの陣営に入るということは、王太子派と第一王女派を敵に回すことになる」
「俺がダグラス伯爵家の一員になるのはいいんだけれども、何で王太子派と争ってるの?」
「アラタ、それは私が説明しましょう。兄上には王となる資質が足りていないのです。先ほどのアルスの街でもお金に厳しかったと思いますが、どこも重税のために金銭的な余裕がないのです。兄上と姉上は今よりも重税を課す予定でいるのです。私たちはこれに反対しています」
リタが簡単に争っている状況を説明してくれた
「そして今一番苦しんでいるのが我がダグラス家だ。重税で苦しんでいるいる上に隣国からも、しょっちゅう攻め込まれる。なので強い騎士が我が領土には必要なのだ」
「そんなに一遍に言われてもメモも筆もなければ瞬間記憶なんて俺はできないよ」
「だから繰り返し覚えるしかないだろうが」
そうエリザベスは容赦のない言葉を俺にかける
本来ならば美女との楽しい旅行となるはずだったのが、缶詰にされて勉強会というのは納得はいかない……
王都といってもそれほど大きな都市ではなく、人口的には1000万人超えるかどうかの都市だそうだ。だがアルスの街に比べると城壁は厚く高く、そびえ立っていた。王都にいる間はダグラス伯爵家の屋敷へと滞在させていただく予定だ。伯爵家の人間は今は王都にはおらず家宰などの従業員が数名いるだけだという。エリザベスの家族と顔を合わせるのは騎士叙勲後になるだろう。
落ち着いたダグラス伯爵家の屋敷は古い建物ではあったが手入れが行き届いており快適な環境と言えるだろう。
「アラタよ叙勲の際は私エリザベスに剣をささげるのだぞ」
そうエリザベスは叙勲の手続きについて教えてくれていた。
「しかし俺は剣など持っていないぞ」
確かに俺は金属バットしか持っていないので剣など捧げることなどできない。
「今回は略式なのでハンマーを捧げても良いわよ」
そうリタは口を挟んできた。
公衆の面前で FRP のバットを見せるなどすればその製法を知りたがるだろうし、あまりにも美しく加工されている金属バットも、あまり都合が良くない。ここは儀礼用の剣を借りることにしよう
「バットを捧げるのは変だからエリザベスに剣を借りるとするか」
俺がそう言うとエリザベスがニヤリと笑ってこう言った
「儀礼用の剣を貸す出すことやぶさかではないが、一本あたり貸出料は大負けに負けて銀貨1枚だ。鎧一式は金貨一枚だ」
ユニフォームやジャージでは叙勲式のイメージに合わないので鎧一式も借りないといけない。最近は稼ぎがあるので支払いに対してはそれほど怒りはわかないが、ホントせこいなと思ってしまう。
通常叙勲式は年に数回に分けて大教会で行われるが、今回は例外という事で俺のパーティーと勇者のパーティーが城で行う予定になっている。参列する人は不明だ。
「王との謁見があるかもしれないが跪いて項垂れてきちんと様子を見ていれば大丈夫だろう」
リタはそう呟いた。
その日の晩はエリザベスの邸に泊まったが特に何かフラグが立つようなこともないし、家宰の方がいたので宿に泊まっていた時と何も変わりはなかった。
明朝、馬車に乗ってお城へと向かっていった。王都のお城は日本のようなお城ではなくて西洋風の城だった。だいたい6階建てぐらいの建物の大きさぐらいだろうか。ステンドグラスのようなものは開発されているようで既に使われていた。ガラスの工芸の技術はある程度進んでいるようでゴシック様式のような壮大なイメージの城がそびえ立っていた。
門をくぐり中庭を抜けると謁見の間にたどり着いた。勇者パーティーはすでに叙勲を終えており、もう帰ったそうだ。会った方が良かったのか、鉢合わせしなかったことが幸運なのか……どちらなのか分からないが、しばらく勇者については様子を見ようと思う。
謁見の間でエリザベスに剣を逆手にして宣誓の言葉を述べ叙勲式は終わった。王様との謁見も特になく。無事叙勲式が終わったことを俺は喜んでいた。
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