第16話 ダンジョンクリア
こちらに来てから1ヶ月ぐらい経っただろうか。中級ダンジョンに潜り始めて一週間が経過していた。すでにプロテインもなく、下層で苦労していた。その理由はスライムにある。
俺の武器はスライムとは、ものすごく相性が悪かった。まるでゴムボールのようにいくら打ち付けても飛んでいってしまう。なのでどうしても魔法が頼りになってしまうのだ。しかし、後衛が魔法の準備をしている間に防御しなければいけないので、どうしてもバットを使ってしまう。すると飛んでいってしまうスライムの堂々巡りに陥ってしまった。
そこで出てきたのがFRPバットだ。これと Wコングの二刀流で挟み込んで倒すというのが狙いだ。名付けて『バット2当流カニばさみ』
もちろん倒すためのフォームの練習はしてきた。今日こそは5階のボスであるキングスライムを倒す予定である。エリアボスの部屋に入ると俺の宿敵がニヤニヤと笑っていた。
「行くぞ我が宿敵(とも)よ」
俺のバットが高速で振るわれる度に奴は分裂していく。その分裂していく細いスライムを後衛陣が魔法で倒す。それが今日の作戦だった。1時間の格闘の末に俺たちは勝利を手にしていた。
「今日こそは中級ダンジョンクリアを目指そうよ」
アリスはそう叫んでいた
「そうね今日はビックチャンスのような気がするわ」
キャシーもそれに同意して頷いていた。
「分かった次は10階層のビッグボーンだな」
ビッグボーンはイノシシを大きくしたような魔物でものすごいスピードで角を立てて突進してくる。それゆえに自分との相性は抜群に良かった。いくら早いとはいえ高速ボールのように100キロを超えるはことはなく、俺のバットで頭めがけて見えないスイングをぶち当たると一撃で勝てる相手だった。
最後のボスはオークジェネラルである。オークというのは豚の顔をした人型の魔物であるが、好色でも知られている。そのため女性陣には非常に不人気であり単独での撃破となった。オークジェネラルもその大きな体と体躯が強力なパワーを生み出し抵抗してくるのだった。しかし彼らは安直すぎた。上段から降ると見せかけて胴を抜く『かんぬきフェイント』に簡単に引っかかってくれるため、即死には至らないがかなりの大ダメージを受けていた。
「これで終わりだ」
身体強化魔法を最大にし、見えないスイングで相手のアゴをめがけて打ち込んだ。
ズードンとけたたましい音と共にオークジェネラルは倒れ、次元かばんをドロップしたのだった。
ふぅと深いため息とともに疲れた体を休める。短期間に下級中級と連続してダンジョンをクリアしたのだ。普通に褒めれる業績であろう 。
「やったわ。これで貴族になれるわ」
そう言ったのはキャシーだった。
「そうね、これでやっと私の護衛としてキャシーを騎士として取り立てる事が出来るわ」
「それはどういうこと!?」
全く理解の追いついていない俺はキャシーとアリスにどういうことかと尋ねるのだった。
「アラタは知らないでダンジョンを攻略してたの?」
「中級以上のダンジョンを攻略すると騎士として叙勲されるのよ」
「正確には騎士になれる資格を得て就職先があれば騎士になれるわ」
「そう。で私の就職先が公爵家三女のアリスの護衛というわけよ」
立て続けに明かされる真実に俺はついて行くことができなかった 。
「アリスが公爵家の人間だ……と?」
「そうよ。本来ならば跪かなければいけない関係だけども、今はパーティーだから許すわ。……というのは冗談だけど知らなかったの? 護衛料としてエリザベスに毎日金貨2枚払ってたわよ」
「なんだと……ま、またもやエリザベスか。今度という今度は許せん」
俺は怒りで息を荒くしながら銀の小鳥亭へ向かって走った。キャシーとアリスは俺を制止しようとしたが、どうしても問い質す必要があった 。
「エリザベス貴様はなぜダンジョンクリアをしたら騎士になるという話をしなかったんだ」
「ああ、その事かい、君に話してしまってうっかり漏れてしまうと他の貴族に狙われてしまうからね。君にはリタ様の護衛騎士に将来はなって欲しいと思っている」
「リタとお前、エリザベス……は何者なんだ」
「リタ様はこの国の第二王女だ。そして私は筆頭護衛騎士のエリザベスだ」
「なぜ正体を隠していたんだ」
「それは正体を知ってしまったら、一緒にダンジョンには潜ってくれないだろう」
エリザベスは事細かに仔細詳細を明かした。エリザベスはダグラス家の貴族でリタの護衛騎士だそうだ。普段は王宮にリタはいるので、滅多にこちらには来ない。リタは王女であるため自分の身の回りの世話する人間は自分で育てて、いかなければならない。そうしないと信頼できない者で周りを反対勢力に埋められてしまう。つまりキャシーとアリス、エリザベスは第二王女派で、第一王女と王太子と王位を争っている。
エリザベスも伯爵家で貴族である。俺がダンジョンをクリアしたらエリザベスが雇う予定だったそうだ。その時与えられる領地とともに発展させ第二王女のリタを支えて欲しいという話だった。
その話を聞いて俺は一晩考えさせて欲しいと願い出た。
主人であるのはリタでも構わないしエリザベスでも問題ないそうだ。ただ相手の警戒心を巻くためにはエリザベスの配下の方が良いとの判断だった。 リタが最後に膝まついて、俺に助力を願った。
俺は銀の小鳥亭の中庭で頭の中が空っぽになるまで素振りをしていた。良く考えてみれば分かることである。選択肢は二つ、リタを助けるか、助けないかの何れかである 。つまりはリタを助けるということになるが、それは自分が選択しているようで選択させられている気がして気に入らなかった。一つだけ分からないことがあった。それはエリザベスがなぜあそこまで、がめついのかという事だ。
翌朝本人に聞いてみると……
「私はこれでも孤児院を経営していてな。その費用を得るのと、敵対勢力への目眩ましさ」
結局のところ自分には選択肢なんていうものは、もう無くなっていた。もちろん申し出を断ることはできるが、いい結果にはならないだろう。申し出を受け入れるのは良いのだが、どれだけ高値で売るかが腕の見せ所だと思う。そんなことを考えながら馬車で首都へ向かっていった。
…… しかし、なぜ次元かばんすら買えない王女や貴族などいるのだろうか。きっとお忍びなのだろうと深く考えるのを放棄した。王家が実は『貧乏くさい』などとは考えたくもない。
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