第12話 コンビネーション
彼女達の引っ越しを終えた翌日には、パーティー全員が揃って下級ダンジョンへ向かうことに決定した。エリザベスは残念ながら今回は用事があるということで、不参加になった。
エリザベスのようなリーダーの役目をしてくれた人がいなくなると場の繋ぎはめちゃくちゃ難しい。
「おはよう」と普通に声をかけたつもりだが二人ともガン無視である。
「挨拶は人として基本だと思うんだよね。パーティーで挨拶できないと言うなら解散しかないね」
珍しく俺が強気で相手に諭した
「おはよう。これでいいんでしょ」
とふてくされて答えるキャシー
「はいはい。おはようさん」
やる気のかけらも感じられないアリスさんです。
「今日のパーティー構成なんだがエリザベスがいないので、『角待ちで一発バックスタブ』で行く 。前衛が俺一人だと安定しないから奇襲がメインで回りたい」
俺は自信満々にそう言うと二人は以外にも協調してくれた。
今日は下級ダンジョンで例のボス部屋まで行くことが目標とした。女性陣二人も異論はないようだ。ダンジョンの曲がり角で待ち伏せし一匹目を俺が見えないスイングで叩く。二匹目を魔術師であるアリスが狙いを定めて撃つ。後方に敵がいないかを確認するのがキャッシーの役目だ。 キャシー自体はヒーラーなので後衛で防御主体となる。
もしも敵が現れた時はアリスと一緒に戦う。その時俺は一人で角待ちを継続して行う予定だ 。
いつも以上に下級のダンジョンは進むのは簡単だった。新しい技である『燕返しスイング』は複数の敵に対して大いに効果を発揮した。また一対一での対峙の時は『かんぬきフェイント』がとても役に立った。あっという間に5階層のボス部屋の前までたどり着いた。ボス戦での作戦は基本は各個撃破である。弱い敵から順に一匹ずつ倒していき最後にラスボスを全員で倒す。これはどんな時でも基本であるので貫いていきたいと思う。
ガッとボスの部屋に入ったらアリスが広範囲の魔法を放った。雷の魔法だったが相手がそれによって動けなくなってる瞬間を俺とキャシーが狙って倒して行った。最後のラスボスは結構大きかったが開発したツバメ返しスイングが相手の顎を必中し勝利をおさめることができた。
ここまでの遠征でバックパックは半分を占めていた。帰りの道で遭遇し増える分も検討すると引き返すことが最善と思えた。その旨をリーダーとして皆に伝えた。渋々ながらも賛同は得られた。だが、エリザベス以外の前衛が必要になってくると思った。その旨を皆に伝えた所。
「やめたほうがいいわね」
「無理だね。エリザベスだからあんたの動きに対処してくれたんだ。普通はできないよ」
「前衛がもう一人増えるとその人を気にして、あなたはきっとその金属バットとかいうのを振れなくなるわ」
「そうね槍を使える人なら入れても大丈夫かもね。とにかくアラタの振り回すスペースは広いのでとても前にもう一人出て行けないわ」
彼女たちの話はごもっともな内容だった。バットを振り回している以上左右のスペースは俺が潰してしまっている。後ろ側から攻撃するにしても槍などでチクチク突くのが精一杯ではないだろうか。 俺は少し考えてみた。要は前衛で後衛に漏れる攻撃がないように全てを叩き落とせばいい。それだけだったら今の俺でもできそうな気がする。そして魔法で一匹ずつ順番に倒していけば大丈夫じゃないだろうか。このことについて彼女たちにどうだろうかと伺いを立ててみた。
彼女たちの反応は素っ気ないものだった。確かに攻撃面では問題はないだろうが回収した素材を持ち歩く人間が必要だと言われてしまった。 彼女たちは荷物を持ち歩くということをする気は全くないようだ。『ポーター』と呼ばれる職業の人間を一人雇うか。それとも彼女達が荷物を持ち歩くか。何往復かを繰り返して攻略するかのどれかを選ばなければいけない。
「それならば何往復か押してるうちにお金を貯めて次元カバンを買いましょう」
珍しくアリスがそう主張してきた。次元カバン自体のよくわからない俺は 詳しく聞いた。偶に現れる次元魔法の使い手が作ってくれる収納カバンで異次元に繋がっているので容量を気にすることがあまりない高級品だと教えてくれた。買い換えるお金ではないので代案として荷車を俺が押して歩くというのはどうだろうかと聞いてみた。それならばポーターにかかる費用よりも安く、しかも俺が多く運べるということで一番無難な案だった。デメリットがあるとすればたった一つ。俺の防御がやや遅くなるというリスクだけだった。
結局のところ荷車を俺が押す案で決定した。荷車の代金はパーティー資金から出すことにした 5階層のボス部屋までは1日2回は通えるので金貨2枚程度がその日の収入になった、荷車が増えればさらに下層に向かって進めることは可能であろう。
ギルドからの帰り道、荷車についての相談を道具屋さんと行っていた。荷車自体はあるもののもうすごい重い効率の悪い荷車だけだった。野球していた頃では一輪車なども使っていたので、荷車についての知識もちゃんと持っていた。俺は今度は騙されないように知識を開始するにあたって秘密にすることと商品についてのロイヤルティは10%と取り決めた。最初はゴネタ道具屋さんだったが 、俺の説明がしっかりした理論に基づいていると感じると契約してくれた。
異世界で初めての知識チートは荷車となった。
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