第9話 カドマチ戦法

はっきり言って『角待ちで一発バックスタブ』作戦は大成功に終わった。二匹以下の獲物を狙い。角で待って相手の不意を付き一人を見えないバットで瞬殺し、もう一人をゆっくり相手する。 あっけないほど簡単に相手を瞬殺していく。そん中で確かに必殺の一撃が生まれ始めていた。そのことも相重なって俺は調子に乗っていた。1日あたり平均金貨1枚を稼ぐことができた。潜っているのは下級のダンジョンの1層から3層程度で連日金貨1枚程度を稼いでいたので、もうやっていけると油断していた。


この日の俺は3階付近を探索していた。 3階の獲物であるホーンラビットを狩っていた。いつものように気配察知を行い角付近で相手の出方を待った。俺は約一ヶ月に渡り素振りとプロテインを飲んでいた。そのことにより俺の魔力が膨大になってしまっていること。その魔力がだんだんと漏れ始めてきていること。そして気配察知というのはこちらが出来るのだから相手も察知することができるという大前提を忘れていた。


角待ちしている俺の背後からナイフが突き立てられた。ナイフは、たまたまバックパックに入れてあった、ホーンラビットの肉に当たって俺には当たることはなかった。全くの偶然だった。奇跡が重なったと言っても過言ではなかった。自分の後ろから迫るゴブリンアサルトに俺は気づくことはできていなかった。全く避けることができなかった。一歩間違えれば、死んでいた可能性はあった。バックパックのホーンラビットの肉にあたるか俺の背中に当たるのかは全くの偶然でしかない。


出てきたゴブリンアサルトに対し見えないスイングですぐさま対応した。だがその時待ち伏せしていた魔物2匹も隘路に現れ、俺は初めて3匹と対峙することになった。すでにスイング動作に入ってたのでゴブリンアサルトに対して見えないスイングでバットを振った。腕でガードされてしまったが、直撃まではしないものの片腕は使えなくした。

退路にはゴブリンアサルトが腕を抱えてしゃがんでいる。ゴブリンアサルトを突き飛ばして退却することを選んだ。撤退するための目論見は成功した。ゴブリンアサルトと 火鼠が一緒になって追ってきていたが、俺に追いつく事はなかった。九死に一生を得た気分である。この日の俺はとても狩りをすると気分にはなれず、宿に撤退し考えていた。


間違いなくゴブリンアサルトの不意打ちが決まっていれば俺は死んでいた可能性が高い。気配察知はしていたはずなのにどうして気配が見えなかったのだろう。今後の冒険活動に関わるので俺はエリザベスから助言を貰おうと考え宿でまった。

「エリザベス」

やっとに帰ってきたエリザベスに不用意に俺は声をかけた。

「何だアラタか。急に声をかけてきたのでびっくりしたぞ。どうしたんだ」

エリザベスは最初驚いたようだったが普段の変化もなく俺の話を聞いてくれた。

「……という訳でゴブリンアサルトに不意打ちを食らってしまったんだ」

「大した問題ではないが……そうだな、まず第1になぜパーティーを組まないんだ」

「一人でもやっていけると思ったから、大丈夫だろうと思ったんだ」

「どうも貴様はこの世界においての認識や危機意識が甘いな。冒険者ギルドの講習の時もそうだったが何も準備せずに一人始める。これは危険だと思うぞ」


エリザベスは珍しく真顔で答えていた。

「おそらくは増えた魔力が検出し易くなっているんだろう。気配察知はできているが、気配を消す相手には通用しないということだ。まだまだ修行が足りないな」

「そうなのか魔力が増えていたのか。それで逆に見つかりやすくなっていたなんて……」

がっくりと気落ちするする俺に対してエリザベスはアドバイスをくれた。

「もしよければパーティーを紹介しようか。実入りは減るかもしれないが安定性は上がるぞ」

俺はエリザベスの手を握り頼むと必死にお願いした。

「ああ、分かっているぞ紹介料は金貨1枚だ」

これさえなければ本当にいい女なのに・・・


その日の俺はもう狩りという気分ではなかったので、バックパックの修理に道具屋さんへ向かっていた。俺は道具屋さんに壊れたバックパックを見てもらっていた。

「修理はできそうか」

「無理だね見たこともない素材だぜ、直すことができたとしても金貨60枚はかかるだろう」

「新品のバッグパックを買うしかないね。このくらいのやつなら金貨1枚だよ」

俺はそれを見てやはり現代のものとは違い肩に食い込むし、ガサガサしていた。

「壊れたバックパックの袋の部分だけをこれに変えてもらう事は出来ないのかい」

俺はできるだけ食い下がった。現代のバックパック重量軽減や考えられた機構はできるだけ残した方がいい。

「それはできそうだけど高くつくぜ金貨3枚だ」

俺は空を仰ぎながら金貨3枚を支払った。ソロで稼いでいた金額の半分が吹っ飛んだ。やはりお金が重要だと痛感させられたことだった。


宿に戻ると俺はいつも通りに素振りをして晩御飯を食べた後プロテインを飲んでぐっすり寝た。

翌朝にはエリザベスがパーティーを紹介できると今日の都合を聞いてきた。俺はいつでも構わないのですぐ会おうということになった。


ギルドの前で待ち合わせになった。俺は彼女がいたことはないが女性を待つというのはなんかこうワクワクしてしまう俺は情けない。エリザベスが近づいてきたのが分かった。彼女はやはり美人なせいもあって周りの目を引く存在だ。エリザベスの後ろには二人の女性が付いて来ていた 。この2人に俺は見覚えがあった。


「初めまして川上新太(かわかみあらた)です。よろしくお願いします」

俺はうわべを取り繕ったような笑顔を作って右手を差し出した。残念ながら、握り返されることは永遠になかった。握手という習慣はないのかもしれないと寂しいながらもそう思った。

「アラタ、左がキャシーに右がアリスだ」

エリザベスが紹介してくれたが、彼女たちは最初の講習の時にいた男性と組んでいたはずだ。どういうことなのかを教えてもらわないといけない。


「キャシーよ。ヒーラーをやっているわ」

「アリスだ。魔法使いをやっている」

「まあここでの立ち話もなんだし、後はギルドで話でもしよう」

そうキャシーが切り出して皆がそれに従う形となった。


ギルドのカウンターではなく円卓の方へ向かい皆で座った所でエリザベスが話し始めた。

「アラタも講習で見たから分かっているかもしれないが、彼女たちは最初は別な男性とパーティーを組んでいた。残念ながらその男性は怪我をしてしまってね。それで新たな前衛の人間を探しているという訳さ。彼女たちは下級のダンジョンを8層まで進んでいる。戦力としては中々の物だと思う」

エリザベスはそこまで言ってから、今度は俺を紹介するように彼女達に向かって喋り始めた

「このアラタも単独ではあるが下級の三層までは進んでいる。ちょっと特殊な武器を使うが前衛としての実力はメキメキ上達している。その上達スピードは異常で直ぐに君たちを超えていくだろう」

「なんですって」

そう噛みつき始めたのはキャシーだった。キャシーは何と言えばいいのだろうか……元ヤンキーの綺麗で華奢だけど派手めな夜のお姉さんと言ったイメージだろうか。アリスは委員長タイプと言えば伝わるだろうか。でも意外と出る所は出ているので美女ともいえる。



口論になり始めたがそれを制したのはエリザベスだった。

「ならばこの四人でダンジョンに潜ろう。その方が手っ取り早いさ」

エリザベスの話は正論だった。反論もなく静かにその場は収まった。


翌朝に皆で集まり下級ダンジョンにトライすることが決まった……

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