第8話 魔力での気配察知

俺とエリザベス、そしてリタさんの三人は宿へと戻ってきた。今日の獲物の換金したお金は授業料としてエリザベスが回収していった。相変わらずお金にはがめつい。1円にもならなかったが得るものは大きかった。バックパックと ナイフが必要だとはっきり分かった。


宿で食事を3人で取りながら話をした。

「誰でも初心者は通る道なんだ。これを乗り越えられた人間だけが冒険者としてやっていける」

そうエリザベスは語った。


「そうねぇ、やっぱりこういう時はお酒で忘れる人が多いわね。アラタ君はお酒は飲めるの?」

そう流し目でリタさんは俺を見た。


「酒は飲んだことがないんで、遠慮させて頂きます。確かに気持ち悪かったんですけど、何かが掴めそうなのも確かだったので・・・」

俺はそう言いながら飯を無理やり口に掻き込んでいた。確かに感触は気色悪かった。だが命を奪った時に確かに別な感情もあった。野球のバッターはホームランは打った瞬間にわかる。バットから手に伝わるそのボールの重さでわかる。ミートした瞬間に重さが消えると言う。ボールとゴブリンの頭では全く違うが確かにそこにはスカッとする何かがあったのも事実だった。


昔、試し切りが江戸時代に流行ったと言うが、この手応えというのが流行った理由なのかもしれない。ゲームで言うところの会心の一撃というやつなのか。そんな事を考えながら食事を終えて今日は解散となった。エリザベス曰く、もう卒業とのことで自由にダンジョンへ出入りして良いそうだ。


俺は宿の中庭に出て、日課の素振りを始めた。素振りをしながら魔力での気配察知を練習していく。気配察知が出来ないうちは誰かに頼らないと、とてもではないがダンジョンには入れない 。


感覚的に言うと自分の中にある魔力の器があるがその器から筋肉へ魔力を移動させると身体強化魔法になる。この魔力が多少外に漏れることがあるんだが、その外に漏れた魔力を検知できなければいけない。 まるで座禅をやっている気持ちである。 心を落ち着けたからといって、できるわけではない。身体強化魔法を細かくやっていけば何かがつかめるかもしれないと思い素振りを続ける。


そんな素振りを続けた5日目のある日、体の外にある自分の魔力を感じることができた。そのまま薄く広がっていく自分の魔力と他人の魔力の違いがはっきりと見える境界線が分かった。これが魔力での気配察知ということなんだろう。一度コツを掴めば何度でもできることが可能だった。宿の中の気配を察知できた時俺はダンジョンに潜れると思った。そして帰還した日から六日目の今日ついに宿の中の全ての人間の気配を察知することができた。


自分の中で一区切りできたので必要だったバックパックとナイフを買いに出かけた。バックパックは高かったので見送ることにした。持ち込んだ物を一旦流用する。ナイフは金貨1枚だった。既に俺の所持金は残すところ金貨1枚を切っていた。


今日に限ってエリザベスもリタも宿にいなかった。俺は残金を確認した後、一人でダンジョンへ潜ることを決意した。心の余裕など、どこにもなかった。嫌悪感よりも食っていくことが大事だ。必殺の覚悟はできていた。


ダンジョンの衛兵に挨拶と断りを入れて低級ダンジョンへ一人向かって行く。 愛用金属バット Wコングを握りしめて1階層へと降りていった。1階層で早速、魔力の気配察知を使ってみる。しばらくすると1回全体に薄く広がっただろうか。おおよその魔物の位置が分かるようになっていた。



相手の位置がわかるからと言ってソロで初心者がダンジョンでこなせるほど甘いものではないと俺も思っている。実は作戦があったのだ。名付けて『角待ちで一発バックスタブ』作戦だ。魔力の気配察知で相手の位置を知り、いわゆる曲がり角で出待ちするのだ。そのことにより不意をつけるのと両手持ち武器のバットの弱点である背面の防御に壁を使うことができるのだ。これで勝てるはずだと自信を持って角で待機している俺だった。

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