第7話 練習アタック

翌日の朝エリザベスはリタという魔法使いを連れて現れた。


エリザベスがガタイの良い白人のモデル級美人だと仮定するとリタは華奢な感じの可愛いという言葉が似合う女性だった。

「初めまして川上新太(かわかみあらた)です。今日はよろしくお願いします」

握手の習慣があるかどうかは分からないが俺は右手を差し出してみた。

するとリタは微笑みながら右手を握り返してくれた。俺の中での印象は非常に良かった。がめつさが無いことだけを祈るだけだ。


「随分と丁寧な挨拶じゃないか。私の時とは大違いだな。ちなみにリタはもうじき婚約するから手を出さないように」

俺はがっくりした表情でリタさんを見てしまったかもしれない。 女性に失礼かもしれないのでこういう表情は作っちゃいけないと思う。次からは気をつけたい。


「今日は低級ダンジョンに向かう。この町アルスには低級と中級のダンジョンがある。前衛はアラタだ。槍はあまり得意ではないが私は中衛を務めさせてもらう。リタは最後尾で魔法だ。この並びで今日は行くぞ」


リーダーらしくテキパキと指示をしていくエリザベスに従い、俺はダンジョンに初めて潜った。


ちなみに今日の俺の装備は俺の愛用金属バット Wコングとヘルメット、試合用ユニフォームにスパイクだ。 ショルダーバッグを持って来なかったが、後でエリザベスに怒られた。前衛で体力のある俺が獲物を運ぶということもしなければいけないということを説明された。そして 盗賊のいないパーティーでは前衛が気配察知をしなければならないので、注意しろと言われた。 ダンジョンに入る前に気配察知の仕方を教わっていないとエリザベスに言うと銀貨2枚だと返事が返ってきた。


やむを得ず銀貨2枚を払うと教えてくれた。

「前に教えた魔力感知があるだろう。それを体内で感知するのではなく屋外でも感知範囲を薄く広げることで気配察知はできる。あとは貴様ならできるはずだ」

「じゃあやってみる」

そう言いながら俺は魔力を外に押し出すように広げながら感知できないかやってみた。

「ストップだ。魔力がただ、だだ漏れしてるだけだな。今日は私がやる。次回までにできるようになってること。いいな」


そう言ってエリザベスはスタスタとダンジョンへ向かって進んでいった。その後を俺がついていき最後にリタさんの順番だ。

ダンジョンの入り口を守衛に挨拶し、ささっと進んでいくと1階層に降り立った。


通路の広さはバットを振り回しても十分な広さはあった。これなら大丈夫だと一安心した。エリザベスは気にする様子もなくどんどんと前に進んでいった。しばらく進んだところでエリザベスが停止し俺を呼んだ。


「あれがホーンラビットだ。おあつらえ向きに一匹でいるようだ。アラタ一人で倒してこい」

そう言われ前にどーんと突き出された 。小学生の時に虫を殺して以来じゃないだろうか。大きいボールだと思ってスイングするしかないな。そう思った俺は勢いよく飛び出し、見えないスイングをホーンラビットにぶち当てた。


「よくやった。ホーンラビットの素材は角だからナイフで取り出すといいぞ」

そう言ってエリザベスは俺の肩を叩いて褒めてくれたが、俺が採取用のナイフが無い事を知ると準備が足りないと怒りながらホーンラビットの処理をしていた。


彼女の言うことは全く正しい。ぐうの音も出ないほどの正論だった。少し甘えていたのかもしれないが、くよくよ考えてもしょうがないので、前向きに次の獲物を狙っていく。もちろん魔力の練習をしながらだ。


初めて魔物を狩った。ラビットといえどもその手に残る感触はぐにゃりとした気色の悪いものであり、進んで狩りたいかと言われれば No と答えざるを得ない。 しかし生活のためである。男ならここで歯を食いしばって前に進まねばならない。


数回ホーンラビットや、 ジャイアントトードなどを狩りながら進んだ。火ネズミに囲まれたときは焦ったが、リサさんが範囲魔法を使ってくれて一瞬で終わった時はさすがだと思わざる得なかった。


「アラタあそこにいるゴブリンを一人でやれれば卒業だ。人型の魔物は今までとはちょっと違うからな」

俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。緑色で遠くから見れば確かに魔物なのだが、近くで見ると人のようにも見える。肌がやや緑色に見えるだけで人と何ら変わらないように見えてしまう。 頭に一撃はできない。 膝を打ち込んで動けなくしたらとどめをさすとしよう。


俺はゴブリンの膝をスイングで打ち抜き距離をとってしばし待った。 『ギャーギー』となくゴブリンに戸惑っていると、エリザベスがやれと指示してきた。俺は決意をしてゴブリンの頭蓋骨にフルスイングを叩き込んだ。その感触は今までの魔物とは圧倒的に違う。恐ろしいほどの嫌悪感が全身を包み背中の背筋が凍ったような気がした。ぶるっと震えながらもゴブリンの青い血と飛び散った肉片を見ていると吐き気を催し見えない所で戻していた。


ライトノベルや小説ではゴブリンなどは百人斬りとかされているが、実際にやってみると、たった一人の相手でさえ、とても大変だった。冒険者という職業これからやっていけるのか先行き不安で悩みながら今日はダンジョンから帰還した。

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