第5話 身体強化魔法と講習
道具屋から帰った俺は晩御飯まで時間があったので、日課だったスイング練習を行った。朝晩1000回ずつ振るのを自分で課していた。1スイングに約3秒かかるとして1時間で1200回振ることが可能である。トレーニングの常識としてトレーニング時間は1時間を目安に行うのが良いとされている。2時間以上を超えると集中力にばらつきが出て、効果が出にくいとされているからだ。 練習用バットをカツンと音を鳴らしながら振っていく。
こういったトレーニングは慣れていけば慣れていくほど辛さが消えていく。最初のうちは辛いが慣れればできるようになるものだ。20分も過ぎると汗がだらだらと落ち始める。タオルで拭うも次々と吹き出てくる汗にトレーニングの効果を感じる。今日は今までと同様に行ったが、異世界では着替えがないので上半身裸でするとか考えて行わないといけない。トレーニングウェアと試合用のウェアしかないのでローテーションもなかなか難しい。今度道具屋さんにいい道具がないか聞いてみよう
その日の晩御飯は肉野菜炒めで、何の肉かわからなかったが、とても美味しかった。夜にプロテインを飲んでさっさと寝た。
明朝より冒険者ギルドで講習会を受ける予定である。 宿で朝食を取っていると他の冒険者と鉢合わせになった。ここは女性が多い宿なので、おはようと挨拶のみで済ませて行く。トラブルはごめんだ。ちょっと美しい女性が睨んでいる気がするが、きっと気のせいだろう。
食事を終えるとさっさとギルドに向かった。ギルドの受付カウンターの女性はいい鴨が来たと思ったのかもしれないがもう俺は騙されない。
「初心者講習を受けに来たんだがどうすればいいか教えていただけますか」
俺は無表情のまま、何も悟られないように耐えていた。
「下の階が武道場の入り口となっておりますのでそちらに向かってもらえますか。武器と防具は持って行ってください」
わかりましたと頷き俺は返事を返すとヘルメットをかぶってさっさと下の階に降りていった。武道場と言うとどうしても日本の畳の上の武道館のようなものをイメージするが西洋における武道館と言えばいいのだろうか武器を立てかける場所と土間がひろがっていた。
「参加者は集まれー」
鋭い怒声が響き渡った。びっくりした俺は声の主の方へ向かって進んでいった。
「これから初心者の講習を始めるので参加者は前に並んでください」
そういった女性は今朝自分を睨んでいた宿にいた女性だった。年若く騎士然としたきりっとした見た目の女性だ。非常に驚いたが、今は騒ぎ立てずペコリと挨拶するのみに留めた。 自分の他に2グループ参加者はおり、男3人のグループと男一人女二人のグループだった。
「私は貴殿らを指導するギルドの指導官エリザベスである。質問のあるものは前へ」
「これから初心者講習を行う。…と言っても非常に難しいものではなくある程度の武力、魔法が使えるかを確認するためのものだ」
彼女はそう言うと俺に木刀を睨みつけるように差し向け言い放った
「まずは貴様からだ。武道の型を持っているならば見せてみるが良い」
型と言われても俺には左右のバットスイングしかない。練習用のバットでフォームを見せてみるか。
俺は音がなるタイプのスイング練習用のバットを取り出して素振りをしてみせた。左右2回見せて感想を待った。
「他にはないのか」
「ないです」
そう答える以外の選択肢は俺にはなかった。
「どういった宗派なのかはわからんが、なかなかのスピードだった。だが決定的な欠点がある。終了時に大きな隙ができること。もう一つは背中側が常に隙だらけであること。そして最後に最大の欠点が体重移動に全てを使っているため攻撃を途中で中止できないことだ」
彼女の指摘は、ごもっともな物だった。確かに言われてみればバットのスイングでは背後に大きな隙ができるし、スイングの途中で回避行動はとれない。フォロースイングに入るとゆったりとした動きになるのは癖でどうしようもない。
「 貴様、魔法についてはどうなっている」
ジロリと豹のように睨んでくる
「 身体強化魔法が使えると伝えられてます」
俺は正直答えるべきかを悩みながら答えた
「 伝えられているとはどういうことだ使えないのか」
「 使えるようですが、使ったことはないということです」
「 どうも要領を得ないな貴様は居残りだ事情を詳しく話してもらう」
「わかりました」
誰でもこれでは納得しまい。俺の説明下手が招いた責任だ。
残りの2つのグループを見ている。彼らは前衛と後衛に別れて綺麗に連携していた。これでは俺だけがそれ以前の問題だとハッキリと分かった。
「今の二つのパーティーを見てわかったはずだ。残念だが現在の状況では、あなた一人でダンジョンに行くことは許可できない。詳しい事情が分かれば協力できるかもしれん。話さなければそこまでだ」
「わかりました事情をお話しします。実は・・・」
俺は詳(つまびや)らかに話した。
「なるほどそうだったのか。異世界から来たのであればあの不審な行動も納得だ。それならば宿にいる間で暇な時間であれば私が身体強化魔法について教えよう」
エリザベスさんという人は何ていい人なんだと思った。
「あっ、指導料は1時間あたり銀貨2枚でいいからな」
いい人だと思った俺の純情な心を返してくれ。
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