第3話 冒険者登録

翌朝目が覚めるとハッと持ち物の確認をした。部屋の鍵を閉め忘れていたのだ。うっかりしたものだ。ここは日本ではないのだ。もっとしっかりしなければいけない。


朝ごはんが付いているのか、付いていないのか、それすらも確認せずに泊まってしまっている自分の迂闊さを呪いながら宿の亭主に飯はあるかと聞いた。


「あんちゃん、目が覚めたかい。昨日は晩飯も食わずに寝ちまうもんだから心配したぜ。朝飯ならサービスで付けてやるよ。昨日の分の残りだけどな」

見た目は寿司屋のおじさんみたいな感じだが、気前のいい人だった。食べてみた朝飯もパンにスープは普通の味だった。一度部屋に戻ると今日の作業について考えてみた。


神様からもらった金貨は10枚。もうすでに2.5枚使っている。 冒険者ギルドに登録に行って、 衛兵に払った金額の差分を取り戻した方がけ賢明に思えた。ついでに今晩の宿の予約を一週間ぶんとっとくことが重要だった。宿の店主は一週間金貨一枚で請け負ってくれた。人の良し悪しというのは顔ではないなというのは、よくわかったことであった


俺は出かける前に冒険者ギルドのことについて宿の主に聞いてみた。

「実はこの町に入る時に身分証明書をなくしてしまって冒険者ギルドで発行してもらうように言われたんだがどう手続きすればいいんでしょうか? 」


「あーそういうことですか、この宿を出て左に50 M ほど行ったところに大きい建物がありますので、そこがギルドです。登録料は金貨1枚です。だから登録しても変わらないし、ひょっとすると損するよ。冒険者になるって言うなら別だけどね」

そう板前さんのような宿の店主が教えてくれた俺の中では彼の名前はもうすでにサブと決まっている。心の中でありがとうサブさんとお礼を言った後に、俺はギルドに向かった。


左手に50 M 進むと冒険者ギルドらしい建物が見えてきた。どうやら冒険者ギルドというのは、昔は酒場かあるいは売春宿だったのを改装したような店構えだった。


中に入ると酒場のようなカウンターが並んでいた。まるで昔のアメリカの西部劇に出てくるようなカウンターだった。もちろん映画で見たもので実物は見たことはない。


「すいませんが守衛さんから冒険者ギルドで身分証明書を発行したほうがいいと言われたもので発行できますでしょうか」

俺は近場にいたお姉さんに聞いた

「私はギルド職員じゃないわ。あっち行って聞きなさい」

美人のお姉さんに指差され恥ずかしい思いをしながら別のカウンターで話を聞いてみた。

「すいませんが身分証明書を発行させていただければと思いまして、こちらのカウンターでお間違いないでしょうか」

二日酔いでもないのに既に言葉の羅列がおかしくなっている。やはり先ほどの美人のお姉さんの胸に見とれていたせいだろう。


「はい。こちらで受付できますよ」

そう営業スマイルで微笑んでこちらを見ている受付嬢がいた

「ありがとうございます。金貨一枚でできると聞いてたんですが間違いないですか」

「はい金貨一枚でできますがこちらに必要事項をご記入ください」

「あのーすいません。ここにある出身地っていうところなんですがよく覚えてないんですよね。途中盗賊らしい人に頭を叩かれて記憶がちょっと曖昧なんですよ」

神様がくれた言語理解の能力は読むことも書くこともできた。意思の疎通には何一つ問題なかった。


「すいませんよくあるんですよね。出身地がよくわからないっていう人が。当ギルドでは大変申し訳ございませんがその場合は税金が金貨3枚かかります。守衛に払って頂いた金貨も戻ってまいりませんがよろしいでしょうか」

「ということは全部で金貨4枚かかるということですか」

「はいそうなります。不服な場合は不法侵入となりますので牢獄に入っていただくことになります。この場合の保釈金も金貨4枚となりますので、お先に払ってしまった方がお互いのためでしょう」


つまりは身分証を作っても4枚、作らなくても4枚金貨は取られるということだ。このシステムを考えたやつは「く****」だ。怒りに体を震わせながら震える手で金貨を一枚一枚数えて渡した。

「これで文句はないな。もしこれ以上という場合があるのであれば俺にも覚悟はある」


「大丈夫ですよお客さんこれ以上はかかりませんから、今日のところはですけどね」

そう言って笑顔を作るギルドの受付嬢に寒気を感じたのは俺だけだろうか。


「まあまあお客さん。確かに身分証明書は高くなりましたけれども、中級のダンジョンには入れるようになるわけですからすぐ取り戻せますよ。ダンジョンの身分証明書も兼ねてますからお得になってます」

何故だろうか? 街で宿をとって休むという事をするだけなのに、なぜ金貨4枚が一瞬のうちに消えたのか俺には理解できなかった。あらかじめ何かしら対策を考えてからギルドには来た方がいいなということは分かった。


このまま残っていればきっとお決まりのテンプレパターンで誰か男に絡まれるに決まっている。さっさと道具屋に向かうことにした。 俺は身分証明書をさっさと出してもらって握りしめて道具屋へと走っていった。去り際にダンジョンに入る前に講習がありますから、一度こちらに来てくださいと受付嬢が話していた。俺は急停止して受付嬢へと確認に来た。

「その講習会とやらは無料なんだよな!!」

「すみません。初心者講習とダンジョン講習で金貨2枚です。それがないとダンジョンに入れませんし、初心者講習受けてないとギルドで買い取りできません」

「なんだと!?」

この時の俺は英会話教材で騙された老人の気持ちが少しわかった。




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