第339話 【閑話・真珠】『音楽戦隊』と『弦楽戦隊』?
「嘘とは少し違う。いいか、貴志。これは我が故郷の惑星に関わる重大な秘密──だが、お前を信じて、わたしの正体を明かそう」
勿体ぶった言い方が気になるものの、わたしは紅ちゃんの次なる言葉を待った。彼女が何をしようとしているのか、興味を持ったからだ。
チビ貴志は、相変わらず訝しげに紅ちゃんを見つめている。
「──真実のわたしは『弦楽戦隊ストリンガーズ』のリーダー・
──んん!?
どうしよう。話がまったく見えなくなってしまった。
弦楽戦隊?
ストリンガーズ?
音楽戦士?
初出の単語の意味不明さに啞然とするも、紅ちゃんの表情は至って真面目。
タックンをおちょくっているような雰囲気はない。
紅ちゃんの話術は、人を混乱させることに長けているのだろうか。
いや、わたしのヒーロー知識の浅さによる理解不足の可能性も否めない。
いきなりおかしな展開に巻き込まれたような気がするのは、わたしの被害妄想?
前情報が無さすぎて、突拍子もない話題転換だと疑ってしまったのだが、ただ単に戦隊ヒーローシリーズを知らない人間には理解できないだけの、実は深い話なのかもしれない。
──タックンは、この話題を理解しているの?
気になったわたしは、彼を視界に入れた。
「赤……、あのね、『弦楽戦隊』って何? スト……? ストリン……なんとか? それって、『音楽戦隊』の『ウィンディーズ』と、どう違うの?」
タックンは眉間に皺を寄せて、紅ちゃんを見上げている。
その瞳の奥に、そこはかとなく彼女への不信感が漂っている気がするのは、多分気のせいじゃない。
これは、紅ちゃんの日頃の行いによるものが大きいのだろう。
同時に、わたしだけが戸惑っていたわけではないことも判明し、安堵もした。
「貴志よ! よくぞ聞いてくれた! お前はテレビで『音楽戦隊ウィンディーズ』の活躍を知っているな? わたしはその『
今まで紅ちゃんの話を怪しんでいたタックン。だが、ここにきて、自分のよく知るヒーローの名前を出されたことで、急に態度が変わった。
「え? 『ウィンディーズ』から?」
少し前のめり気味でそう口にした彼は、紅ちゃんへの態度を軟化させようとしている。
未だ、完全に紅ちゃんのことを信用していない様子は伝わっているのだが、その変化は大きな歩み寄りの第一歩に見えた。
「そうだ。『
「ええ!?」
驚いたタックンの声が、室内に広がった。
少しだけアヤシイと思ってはいるようだが、衝撃の話がポンポン飛び出してくるため、幼い子供では正しく情報処理しきれていないようにも映る。
タックンの驚きの声を耳にした紅ちゃんはグッと拳を握りしめた。
つかみはオッケーだ、と言わんばかりの衝動的な行動だったようで、彼女は慌ててその手を隠した。
タックンの関心を得られたことが伝わり、このまま畳み込んでしまおうと思ったのか、紅ちゃんは壮大なスペースオペラを語りはじめた。
本来ならば遣り取りの全てをご紹介したいところであるが、結構長い話だったので要約させていただこう。
紅ちゃんの正体は、なんと! タックンの大好きなヒーロー『
彼女の話によると、『
タックンは最初の頃はかなり半信半疑でいたのだが、『ウィンディーズ』という名前が出るたびに、その警戒心を解いていき、しまいには危険人物紅ちゃんからの話だということも忘れ、完全に懐柔されている。
おまけに、このトンデモ話をまるっと信じはじめているではないか!
タックンが常日頃抱いていたであろう紅ちゃんへの不信感を払拭してしまえるほどに、特撮ヒーローの名前は効果絶大だった。
まるで水戸黄門の印籠のごとく、その名を出すたびに、タックンはズブズブと紅ちゃんの計画に嵌っていく。
見ているこちらでも、タックンの心境の変化が手に取るようにわかるほど。
その影響力たるや、あな恐ろし──だ。
「お前が『青』だと信じていたアイツは、悪鬼が化けていた姿。『青』の真の目的は、我々と仲良くなり、油断させた隙にミサミサ姫の『心の核』を奪うことだったんだ。姫が笑わなくなってしまったのは、我々『
完全なる子供騙しだ。
が、子供騙しであるが故、幼いタックンはアッサリ騙されてしまったようだ。
紅ちゃんは至って真剣にタックンに語りかけ、対するタックンは神妙な顔で紅ちゃんに質問をする。
「美沙は──ミサミサ姫は、『心の核』を奪われたの?」
それが事実ならば一大事だと、息を潜めたタックン。彼は真剣な眼差しで、紅ちゃんの返答を待っている。
疑ってやまなかった紅ちゃんの言葉を信じる姿に、貴志にもこんなに純粋な幼児時代があったのか、とわたしは茫然とするばかり。
「そうだ。お前は『心の核』が奪われるとどうなるのか、毎週欠かさずテレビを見ているから知っているな?」
タックンは頷いた。
「だから美……『ミサミサ姫』は、リサリサ姫と同じように笑えなくなったの? じゃあ、タックンのせいじゃない?」
「そのとおりだ。お前のせいじゃない」
なるほど。そういうことか。
紅ちゃんの目的は、美沙子ママが笑わなくなった原因はタックンではないと理解させるところにあったのだ。
普通の会話による説得では、タックンが納得しないと踏んだのだろう。そこに人間──特に子供の持つ、救世主願望を混ぜ込んだようだ。
なかなか、やりおるなと、紅ちゃんの手腕にわたしは感心する。
「だから、気にするな。そのうち美沙子も元に戻る。紅レッドと、新たな助っ人に選ばれた克己くんが来たからには、もう大丈夫だ!」
最後は克己くんも巻き込んだ上で、紅ちゃんは自分の役割を演じきったようだ。晴れ晴れとした彼女の表情は、任務を完璧に遂行できた自分を誇っているようにも見えた。
彼女はそこで話を切り上げるつもりだったのだろう。しかし、その会話は、残念なことに終わらなかった。
「赤だけじゃなくて、克くんもヒーローなの? 何色の?」
タックンは、どうやら色が気になるらしい……。
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