第4章 二つの世界
第30話 奔走する元勇者
「陽菜! 陽菜ぁぁぁっ!」
大声で陽菜の名前を叫び続けながら、陽菜の姿を探す。
先程まで目が緑色に光っていた人たちの人混みを掻きわけ、周囲を探し続けるが、陽菜の姿は見えない。
陽菜のスマホに電話をしてみると……陽菜が落としたらしき、鞄の中から着信音が聞こえてくる。
スマホや財布に、脱いだ水着などが入った鞄を置いて帰るなんて事がある訳も無く、十中八九攫われてしまったのだろう。
周辺を走り回り、全力で陽菜を探していると、最初に声を掛けてきた二人組の男を見つけた。
「おい、お前ら! 陽菜をどこにやったんだ!」
「あぁん!? てめぇは昼に巨乳美少女を連れていた奴じゃねーか。お前の女なんて知るかよ! リアルでハーレムなんて作りやがって。畜生がっ!」
「ちょっと力が強いからって調子に乗ってんじゃねーぞ! いつか痛い目に遭わせてやるからなっ!」
言葉の威勢だけは良いが、完全に腰が引けている。
もしかしたら、先程の目が光っていた状態の事は覚えてないのかもしれない。
だが、何か手掛かりくらいはきっとあるはずだっ!
「あれはハーレムなんかじゃない……が、そんな事より、俺と一緒に居た黒髪の少女をどこに連れて行った! 怪我をしたくなければ、正直に答えろ」
二人の男を右手と左手、それぞれ片手で首を掴んで持ち上げると、先程までとは打って変わって、喋り出す。
「ま、待ってくれ。ア、アンタが強い事は分かっている。だから、俺たちがアンタの女に手を出す訳がない。俺たちは何も、知らねぇ」
「じゃあ、何故プールで声を掛けて来たんだ!」
「それは……そっちの茶髪の女の子が可愛くて、胸が大きいからだ。アンタがこんなに強いとは思わなかったんだよ。一緒に居た黒髪の女は本当に知らない。だから、勘弁してくれ」
もう一方の男も、必死で「知らない」と繰り返している。
「ソウタ……本当に知らないみたいだから、放してあげようよ」
「……五秒以内に俺たちの視界から消えろ!」
「は、はいぃっ!」
エレンから制止の声がかかり、男たちを地面に落とすと、物凄い勢いで逃げて行った。
しかし、陽菜を探す手掛かりが何一つ無い。
何とか陽菜を探す手段が無いかと考え、
「そうだ。マリー。獣人族の嗅覚で、マリーの追跡なんて出来ないか? ここに陽菜の鞄があるし、匂いが付いている物は沢山あるけど」
すがる様な思いでマリーに尋ねてみる。
「残念ながら、ソウタが走り回っている間に、もう試したんだよ。この鞄が落ちて居た場所で、匂いが途切れているんだ」
「匂いが途切れているっていう事は、ここで何か箱の様な物に入れられたって事?」
「たぶん。あの黒い樹の魔物? と戦っていたから、ウチはそういう物の存在に気付かなかったけど」
「いや、それは俺も同じだ。エレンはどうだ? というより……あの黒い樹は何なんだ!? 魔物を召喚したのか!?」
陽菜が攫われる要因の一端となってしまったエレンの召喚魔法の話になり、抑えようとしていた感情が八つ当たりの様に噴き出し、つい語尾が荒くなってしまう。
「ち、違うよ。魔物なんて召喚するハズが無いし、魔法自体はちゃんと成功していたんだ。それなのに、実際は精霊じゃなくて、変な魔物みたいな樹が現れちゃって……」
「だったら……」
「ソウタ、落ち着いて。こんな時こそ、冷静さが大事。この辺りで、一番高い建物はどこ?」
陽菜が居なくなった事に対して、暗い闇色の感情をエレンにぶつけそうになった所で、マリーが止めてくれた。
もしもマリーが止めてくれなければ、俺はエレンに、ティル・ナ・ノーグでずっと一緒に過ごしてきた大切な仲間に酷い事を言ってしまう所だった。
「エレン、マリー、すまない。冷静さに欠けていたよ。あと、ここら辺に高い建物は無いんだ」
「そっか。じゃあ、エレン。魔王城へ突入する時に使った、空を飛べる幻獣を召喚して欲しい。空から、ヒナを探そう」
「……けど、さっきも私の召喚魔法で変なのが現れちゃったし、この世界では召喚魔法が上手く発動しないのかも」
エレンが困惑しているが、マリーの狙いも良く分かる。
陽菜をさらった相手の目的が何かは分からないが、時間が経てば経つほど、状況が悪くなると思う。
「エレン、俺からも頼む。今は時間が惜しい。可能性があるのであれば、それに賭けたい」
「ソウタ……いいの?」
「あぁ。それに、召喚魔法が全て失敗している訳じゃないだろ? 学校の屋上でケット・シーを召喚した時は成功したしさ。次こそ、きっと上手くいくさ」
「わかった。今度こそ、成功させてみせるんだからっ!」
人気の無い所へ移動した後、エレンが真剣な表情で詠唱を始める。
『サモン、レッドドラゴン』
エレンの言葉で、ティル・ナ・ノーグにおいて共に魔王と戦ってくれた赤い竜が……
「もぉっ! どうしてこうなるのよっ!」
現れず、グイベルという空を飛ぶ白い蛇が現れた。
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