挿話3 早川颯太の幼馴染

 プールでマリーちゃんに声を掛けてきた男の人が、出口で立って居た。

 正直、怖い。

 この人たちは、どうしてこんな事をするんだろう。


「またアンタたちか。プールの外で待ち伏せだなんて、カッコ悪いし、しつこいぜ」


 颯ちゃんが私たちを庇って前に立ってくれた。

 颯ちゃん……男らしいけど、危ない事はして欲しくない。

 ただ、颯ちゃんが実は強いっていうのは知らなかったな。

 ずっと一緒に居たから、颯ちゃんの事は何でも知っているつもりだったけど、まだまだ知らない事が多いみたい。

 けど、颯ちゃんの知らない事と言えば、最たるものがマリーちゃんとエレンちゃんの事だ。

 ティルナノーグ・オンライン――オンラインゲームで知り合ったなんて事を言っていたけれど、それにしては仲が良過ぎるよ。

 ……あれ? ティルナノーグ・オンライン? フッと頭に浮かんだ言葉だけど、ティルナノーグ・オンラインって何だっけ?

 この言葉のイメーじが全く無いのに、何故か頭に残っている。

 そんな事を考えていると、前の方から物凄い音が聞こえてきた。


「――!?」


 一体何事かと思ったら、さっきの男の人が、何かで地面を殴って穴をあけたみたい。

 驚き過ぎて声が出ないけど、颯ちゃんは大丈夫なの!?


「ソウタ! その人、何だか様子が変っ! 何だか魔物みたいな目をしてるっ!」


 エレンちゃんの言葉を聞いて、男の人の目を見てみると、言った通り緑色に光っていた。

 何!? 一体、何が起こっているの!?

 訳が分からないまま、颯ちゃんからプールに戻れと言われたけど、プールからも目が光った人たちが出てくる。


「ソウタ、キリがないよ! 召喚魔法を使っても良い!?」


 こんな状況で混乱したエレンちゃんが、よく分からない事を言い出した。

 召喚魔法? 良く分からない事をエレンちゃんが呟きだしたけど、何かのおまじないなの? それとも神様への御祈りみたいなもの?


『サモン、ドリアード!』


 エレンちゃんの国のおまじない? が終わったと思ったら、地面から大きな黒い樹が生えてきた。

 不思議な事に黒い樹が動き出して、枝をマリーちゃんにぶつけ……


「騒ぐな」


 突然、背後から誰かに口を塞がれた。


「んーっ! んんーっ!」


 凄い力で抑えつけられている上に、口に布を巻きつけられ、全く声を出す事が出来ない。

 颯ちゃん……颯ちゃんっ! 誰か、気付いてっ!

 何人がかりか分からないけれど、手も足も動かす事が出来ず、スマホを触る事も出来ないし、そもそも私の鞄はそのまま地面に落ちている。

 あの中にスマホが入っているのに。

 今の私が唯一出来る、じっと颯ちゃんを見つめて視線を送ってみるけれど、あの大きな黒い樹に皆の意識が向いていて、気付いてくれない。

 目が緑色に光る人たち以外で私と目が合ったのは、茂みに隠れるようにして身を潜めていた猫ちゃんだけ。

 ごめんね。こんなに大勢の人が居たり、大きな樹が暴れていたら怖いよね。

 巻き添えを食わないように、ちゃんと隠れているんだよ。

 誰かがここで餌をあげているらしい野良猫ちゃんは、私と目が合ったまま動かないんだけど、流石にこの状況を颯ちゃんに伝えてくれる訳も無く、私は車のトランク? みたいな所へ入れられてしまった。


 真っ暗な場所に一人で声も出せず、両手と両足が縛られている。

 どうやら私は誘拐されているみたい。

 どうしよう。身代金とか要求されるのかな。

 お父さんやお母さんは、どうするんだろう。

 とりあえず、警察に連絡するんだよね。

 颯ちゃんが、一緒に居た自分のせいだ……とか、変な事を考えなければ良いんだけど。

 誘拐されたという事実に対して、いろいろ考え始めた所で、


「出ろ」


 突然、真っ暗だった場所に、光が差し込む。

 トランクみたいな場所に居たのは、ほんの数秒の事だと思ったけれど、私が思考停止してしまっていたのか、そこはプールなど全く見当たらない、廃墟のような場所だった。

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