第18話 異世界少女と妹に挟まれる元勇者
「あ! ごめん、もうこんな時間なんだ。今日はお母さんの代わりに、ご飯作らないといけないんだ。私、そろそろ帰るね」
「そっか。陽菜、勉強教えてくれてありがとうな」
「あはは、そんなの別に良いよ。じゃあ、また明日学校でね」
スマホからアラーム音が鳴ったかと思うと、陽菜が慌てて帰って行った。
陽菜のお母さんは看護師さんで、お父さんが一切家事を出来ないのために、割と頻繁にこういう事がある。
俺も陽菜も普段から家事をしているので、将来家事の役割分担でケンカにはならない……と思う。
「さてと。陽菜も帰った事だし、マリーとエレンも自分の家に帰ろうか」
「え? ソウタ。ウチに家なんて無い」
「いや、昼にエレンから聞いたんだ。女神様がエレンとマリーの家を用意してくれているって」
「そーなんだ。でも、ウチはソウタと一緒に居たい」
「ダメだ。家があるならちゃんと家に帰るんだ」
「でも、昨日は泊めてくれ……」
マリーが何を言おうとしたかが予想出来たので、咄嗟に口を塞いだのだが、時すでに遅し。
エレンが泣きそうな表情で俺を見つめてくる。
「マリーちゃんが昨日帰って来ないと思ったら、ソウタの家にお泊まりしてたんだ。ソウタ、じゃあ私も泊まっても良いよね?」
「ダメだってば。昨日は、マリーに帰る家が無いって話だったから、泊めただけだ」
「でもティル・ナ・ノーグじゃなくて、この日本で一緒に泊まったんだよね。ズルいー! 私もソウタと一緒に寝るーっ!」
「一緒には寝てない! この家の空き部屋を使って貰ったんだ!」
まぁ実際は夜中にマリーが俺のベッドに忍び込んできたけど、俺が一緒に寝ようとした訳ではないし、空き部屋を使って貰おうとしたのも事実だし、嘘は吐いていない……と思う。
「お兄ちゃん? 陽菜ちゃんが来てテンションが上がっちゃうのは分かるけど、少し静かに……って、え!? お兄ちゃん。この女の子は誰なの!?」
マリーはキョトンとしているだけだが、俺とエレンとのやり取りが白熱してしまったせいか、楓子がリビングに現れ、エレンを見て硬直する。
「お兄ちゃん……なるほど、つまりソウタの妹さんね。初めまして。私はエレン=キャンベルって言うの。将来、貴方の義姉さんになる予定だから、宜しくね」
「なるかぁぁぁっ!」
「ねぇ、お兄ちゃん。ちょーっとこっちへ来て欲しいんだけど。ね?」
エレンの戯言を全力で否定したのだが、笑顔なのに目が笑っていない楓子に手招きされて、リビングの外へ。
いつもお兄ちゃん、お兄ちゃんと懐いてくれる楓子のこんな表情は初めて見るんだけど。
リビングを出ると、扉をきっちり閉められ、更に奥の父さんの部屋へ。もちろん、この部屋の扉もしっかり閉められた。
「お兄ちゃん! どういうつもりなのっ!?」
「楓子が言っているのは、エレン――あの小さな女の子の事……だよな?」
「……他にもあるけど、先ずはそうだね。お兄ちゃんは、妹の私から見ても格好良いと思う。だけど、だからって私よりも幼い小学生を家に連れ込むなんて、何を考えているの!?」
「待った! 楓子はいくつか勘違いしている。先ず第一に、エレンは小学生じゃない。確かに幼く見えるが、俺の同級生で十六歳だ」
「えぇっ!? あの容姿で、楓子より三歳も年上なのっ!?」
「そうなんだ。あと、エレンは俺が連れ込んだ訳じゃない。むしろ断ろうとしたんだが、陽菜が勉強するなら皆でって言ってさ」
学校から皆で帰ってきた後、エレンがしつこく家に来て欲しいと言ってきて、用事があるから無理だと言ったのに……まぁ俺が上手く話をそらせずに、陽菜と勉強すると言ってしまったのが悪かったのだが。
魔王退治の旅で、互いに腹を割って話す関係になったからか、日本に帰って来ても俺たち三人は互いに嘘が吐けない。
マリーやエレンも同じだと思うのだが、少なくとも俺は、この二人に対して嘘を吐こうとすると、物凄い罪悪感というか、気持ち悪さに襲われてしまう。
「あれ? でも、さっき陽菜ちゃんって居た?」
「いや、ついさっき帰った所だ。で、あの二人にも帰ってもらおうとしていた所に、楓子が来たんだ」
「ふーん。で、お兄ちゃん。今日もマリーさんが来てたよね。幼馴染として、ずっと傍に居てくれた陽菜ちゃんを悲しませる様な事はしちゃダメだからね?」
「しないってば」
「なら、良いけど。じゃあ、とりあえず皆の所へ戻ろっか」
楓子が言いたい事を言って、先に部屋を出る。
しかし、楓子の言った「幼馴染として、ずっと傍に居てくれた……」という話。
楓子から見れば、陽菜こそが傍に居てくれた女の子なのだが、俺からすればマリーの方が傍に居る時間は長い……いや、違う。
そもそも楓子の考え方を俺に当てはめようとするのがおかしい。
俺は陽菜の事が好き。
それだけで良いはずだ。
そんな事を考えながらリビングへ戻ると、
「だから、ダメって言ったでしょ! 子供はお家へ帰る時間なのっ!」
未だに俺の家に泊まりたいと言うエレンが、楓子から叱られていた。
「エレン、家まで送るから今日は帰るんだ。マリーも、一緒に行こう」
「むー。私は子供じゃないのに……」
「ウチも残念。ソウタと一緒に居たかった」
楓子の言葉に従って、ようやく帰る事となったエレンとマリーに、「明日も学校で会えるから」と宥めながら、二人を送る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます