第15話 小学生と元勇者
「はい、ソウタ。あーん」
「あーん……って、言ってる場合かっ!」
「食べないの?」
「自分で食べるっ!」
俺に言い寄って来る謎の金髪幼女に、他に好きな娘が居るからと伝えたのに諦める気配がなく、異世界での仲間エレンが若返った姿だと分かり、とりあえず食堂へ来た。
来たのだが、昼休みの食堂は常に大勢の生徒が居るというのに、エレンが俺の顔の前にスプーンを運んでくる。
金髪で小学生くらいの背丈しか無いエレンは食堂でも目立ち、そんな幼女と二人で隅のテーブルへ座る俺にも、周囲の視線が集まっていた。
こんな事になるならお得な日替わりランチを諦めて、コンビニへ弁当を買いに行くべきだったな。
明日からは、コンビニ弁当にしよう。
「って、よく考えたら、どうしてエレンが普通に食堂を使えているんだ?」
「どうして……って、この学生証がティル・ナ・ノーグの冒険者カードみたいに財布になるんでしょ? 他の生徒を見てたら、みんな学生証をかざして食券を買っていたし」
「いや、その通りで学生証で電子マネーが使えるんだけど、そもそもどうしてエレンが日本のお金を持っているんだ?」
「それは、女神様がティル・ナ・ノーグで貯めたお金を、こっちの価値で使えるようにしてくれたの」
え? マジで!?
魔王を倒す直前に街へ寄った時、最終決戦では邪魔になるからって、それまで魔物を倒して得たドロップアイテムや、宝箱で入手したアイテムを殆ど売り払って、王都で豪邸が買えるくらいのパーティ資産が有ったよね?
俺には無いの? あの資産の一割で良いから分けて欲しいんだけど。
「ふっふっふー。ソウタ、何か買って欲しい物でもあるの? お姉ちゃんが買ってあげようか?」
「誰がお姉ちゃんだよっ! あと、別に欲しい物とかも無いよ」
「えー。でも、あからさまに羨ましいって顔をしてたよ? 当面の生活費だから無駄遣いは出来ないけど、ソウタの為なら使っても構わないよ?」
「いや、そんな顔してないから」
「本当かなー? ほら、お姉ちゃんお願い……っておねだりしてみようよー」
エレンがニヤニヤしながら、小さな顔で俺を見つめてくる。
ティル・ナ・ノーグに居る時のエレンはクールビューティって感じだったんだけど、どうしてこうなってしまったのか。
「え? あれ!? ソウタ。どうして、この子と一緒にご飯食べてるのっ!?」
エレンの変化を残念だとするか、無口よりかは良いと思うべきかと考えていると、すぐ傍にマリーと、陽菜が立って居た。
「ソウタ……うぅ、後でお話聞かせてもらうからねっ! ……ヒナ。ご飯は、どうやって貰うの?」
「え、えーっとね。この券売機で食べたい物を押して、マリーちゃんの学生証をそこに近づけるの」
だが、そのままマリーが陽菜と共にカウンターへ移動する。
……しまった。マリーの昼食の事をすっかり忘れていた。
おそらく、俺が帰ってくるのを待って居たのだろう。
でも、お腹が空き過ぎて我慢出来なくなって、陽菜に助けを求めたのか。悪い事をしてしまった。
少しすると、メロンパンを手にしたマリーと、ペットボトルのお茶を持った陽菜が俺たちと同じ席に座る。
「ソウタ。どうして、ソウタがこの子と二人っきりでご飯食べてるの!?」
「いや、これには深い事情があってさ」
俺に詰め寄るマリーと、無言のままジッと俺を見つめる陽菜。左右から二人の視線を感じながらも、どう説明したものかと悩んでいると、
「マリーちゃん。私……エレンだよ」
「エレン? ――ッ!? エレンって、まさか、あのエレン!?」
「うん。マリーちゃん、それからヒナさん。これからライバルだね」
エレンが自ら説明し、マリーが驚きのあまり固まってしまった。
「……ちょっと、颯ちゃん。どういう事なの?」
「……後でちゃんと説明するから。ちょっと、ここでは説明が難しいんだ」
隣に座る陽菜が小声で耳打ちしてきたけれど、ここで異世界の話なんかしても信じて貰えないだろうし、周囲の生徒に聞かれても困る。
とにかく早く食事を済ませて、この場から逃げようと、メインのおかずに箸を伸ばした所で、
「ソウタ。ちょっとこっちを見て」
「ん? エレン。どうしかし……んっ!? このカレーがどうかしたのか?」
エレンが俺の口にスプーンを突っ込み、俺には物足りない甘口カレーの味が口の中に広がる。
そのままエレンが何も言わずに一口カレーを食べ、
「ふっふっふ。ソウタと間接キスです」
挑発するかのようにマリーへ顔を向けた。
見た目だけでなく中身まで小学生かよ……と思っていたら、
「ソウタ! これ、食べてっ!」
「いや、思いっきり食べかけ……」
マリーが口の中へ半分くらい残っているメロンパンを押しこんでくる。
無理無理無理! 夏にメロンパンの一気食いとか、水分無くて死ぬ奴だからっ!
「颯ちゃん、これ飲んで!」
割とマジで苦しんでいると、陽菜がお茶を差し出してくれて、一先ず事なきを得た。
「エレンもマリーも、そういうのはやめようぜ」
変な争いはやめてくれよと、軽めに注意して陽菜へペットボトルを返すと、
「陽菜、ありがとう……あ!」
「颯ちゃん、どうかしたの? ……あっ!」
俺と陽菜で間接キスをしていた事に気付き、自分でも分かるくらいに体温が上昇していく。
「ちょっと、ソウタ! どうして私の時と、そんなにリアクションが違うのっ!?」
「くっ……やはり、倒すべきはヒナ。でもウチは負けない」
エレンの事を小学生だと思ったけれど、キスすらした事が無い俺も、同レベルだった。
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