第10話 ロリコン高校生と元勇者

「おい、お前ら。授業を始めるから席に着け」


 いつの間に現れたのか、現代文の教師が未だに教卓の周囲に居た俺たちを解散させた。

 とりあえず席に着いたものの、左側からマリーがチラチラ。右側からキャンベルちゃんと呼ばれて居た金髪の女の子がチラチラと、時折俺を見ているのが気配で分かる。

 いや、しかし、何故だ?

 マリーはまだ分かる。幼馴染みとして、そして魔王討伐隊として十数年間ずっと一緒に居たから。

 おそらくマリーと離れたのは、トイレや宿屋の風呂だとかの男女が一緒に入れない場所へ行く時か、リディア王女様と会っている時くらいだろう。

 風呂に至っては、家に居る頃は十歳まで一緒に水浴びしていたし、野宿の時も一緒だったからな。

 ただ、俺は十歳の頃でも中身は既に高校生だから、どうしてもマリーの事は妹のようにしか見えないんだよ。

 実の妹の楓子は可愛いけれど、恋人として見れるかと言えば、全く見る事が出来ないし、マリーも似たような感じなんだ。

 けど、キャンベルちゃんは……どうして俺の事を好きになったのか理由が分からない。

 俺は別にイケメンでも無いし、ちょっと魔王を倒した事がある普通の高校生なんだけどな。


「……では、今日はここまで。各自宿題をちゃんとやってくるように」


 いろいろ考えていると、教師が突然退室していった。

 ……って、あれ? もう一時間目の授業終わったのか!? 早過ぎないっ!?


「ソウタ。ちょっと良い?」

「……ソウタ。私も、お話……したい」

「颯太。ちょっと説明してもらおうか」


 あっという間に休み時間へ突入しており、三方向から囲まれてしまった。

 とりあえず、俺としてはキャンベルちゃんに断りの返事をしたいのだが、授業前と同じくクラス中から無言の視線が浴びせかけられている。

 流石に皆から注目された状態で断るのは、キャンベルちゃんに悪いので、どこか二人っきりになれる場所で話がしたいのだが、和馬はともかくマリーから離れられるだろうか。

 一先ず、授業の合間の休み時間では時間が短過ぎるので、昼休みか放課後にキャンベルちゃんと話を……って、違う! 俺は陽菜と楽しい学校生活を送りたいんだっ!

 言い方は悪いけれど、陽菜以外の事に貴重な時間を奪われるのは違う気がする。

 もう悩まない! スパッと終わらせよう。


「えっと、キャンベル……さん?」

「はい」

「昼休みに、少し時間を貰えるかな?」

「……大丈夫」

「じゃあ、その時に」


 キャンベルちゃんが頷くのを確認して、次はマリーへ。


「マリー。何の用事だ?」

「え? その……うん。昨日の料理対決ではウチが勝った。次は何を比べたら良いと思う?」

「いや、昨日のはマリーの勝ちではないからな?」

「わかった。じゃあ、今日はウチがソウタに手料理を作る。だから食べて」


 マリーの言葉で、ティル・ナ・ノーグに居た頃に作って貰った料理を思い出してみる。

 とりあえず肉を焼き、野菜で挟み、完成。味付け無し。

 ……魔王討伐の旅の最中は、まともな調味料が無かったって事情もあるけど、やはり陽菜に勝てる要素がどこにも無い。

 いや、もとより勝負させる気もないけどさ。こんな勝負意味無いし。

 だが、俺がそれを告げる前に、和馬が話に割り込んできた。


「おい、ちょっと待て。何だ料理対決っていうのは。颯太、お前はマリーちゃんの手料理を食べるというのかっ!? 羨ましいじゃないかっ! このリア充め、突然全ての歯が虫歯になって、食べられなくなれば良いんだ」

「いや、食べないよ。そもそも勝負だって、マリーが一方的に言っているだけだし」


 和馬の言葉に応じつつ、マリーにも断りの言葉を返すと、


「えー。ウチは、ソウタにご飯食べて欲しい」

「颯太。せっかくマリーちゃんがご飯を作ってくれると言っているんだ。ちゃんと食べろよ! マリーちゃんに失礼だろっ!」


 唐突に掌を返された。


「マリーはともかく、和馬は数秒前の発言を覆すなよ」

「それはそれ、これはこれだ。とにかく、マリーちゃんを悲しませる事は、日本人を代表して俺が許さん!」

「え? 何これ。国際問題的なものにまで発展するの!?」

「当たり前だろ。マリーちゃんもキャンベルちゃんも、せっかく海外から日本にまで来てくれたというのに……って、そういえばキャンベルちゃんは日本語がたどたどしいけど、マリーちゃんはメチャクチャ流暢だよな」


 やべぇ。和馬のくせに、割とマズイ事に気付きやがった。

 俺が異世界へ行った時は、女神様の力で言葉が勝手に日本語に訳され、文字も日本語で読み書き出来た。

 マリーもティル・ナ・ノーグの言葉で話している訳だけど、俺と同様に女神様の力で日本語に訳されているから、日本に来たばっかりだというのに母国語レベルで喋れている。

 普通はキャンベルちゃんみたく、考えながらゆっくり話したり、カタコトになったりしそうなものだよな。

 けど、今更マリーに演技をさせても不自然だし……迂闊だった。


「えーっと、ほら。マリーは俺に会うために昔から日本語の勉強をしていたらしいから」

「へぇー。それはノロケか!? 俺の為にマリーちゃんが必死に勉強してたんだぜ、俺の為に。……だったら、マリーちゃんは颯太が持って行くとしても、キャンベルちゃんは譲ってくれよ!」


 譲るも何も、マリーもキャンベルちゃんも、俺はどうこうする気は無いからな?


「キャンベルちゃん。颯太のどこが好きになったのかは分からないけど、こんな奴より俺の方が良くない? 俺ならキャンベルちゃん一筋だよ!」

「やだ。ソウタがいい」

「ノータイムで玉砕したぁぁぁっ!」


 俺が言葉を発する前に和馬が盛大にフラれ、この日を境にロリコン和馬と呼ばれる事になってしまった。

 ちなみに、このあと和馬に絡まれてしまい、結局陽菜と話せないまま、休み時間が終わってしまったよ。

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